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ジャック・グリーンとノサッジ・シングが新ユニットで見参! 鬼才同士が世界各国で顔を合わせて創造した『Verses GT』には独自の世界観と確かな物語が宿る!

気持ちや考えがシンクロして

 LAのシーンをベースに活動してきたジェイソン・チャンのプロジェクト、ノサッジ・シング(以下NT)。カナダのトロントを拠点とするフィリップ・オービン・ディオンヌによるジャック・グリーン(以下JG)。それぞれ独自のエレクトロニック音楽を制作し、現在はいずれもラッキーミーに在籍する二人の才人が、ヴァーシーズGTなるユニットを結成した。

 もともと15年近く前から交流があったという両名の初タッグは、オウリをフィーチャーした2023年の“Too Close”において。その時点ではノサッジ・シング&ジャック・グリーンという連名でのリリースだった。それに続いたのが2024年のレイヴィーなディープ・ハウス“RB3”で、その時点で両者がアルバムを作っていることはアナウンスされていたものだ。そこから第3ステップとなったのは今年5月に配信された瞑想的なテクノの“Unknown”。いよいよか?という雰囲気のなかでこのたび届いたアルバム『Verses GT』にて、両者はヴァーシーズGTを名乗ることになった。

VERSES GT 『Verses GT』 LuckyMe/BEAT(2025)

JG「最初はただ自分たちが楽しむだけに音楽を作っていたんだ。計画したわけでもなく、ただ共に時間を過ごすために自然と一緒に作業するようになったんだと思う。でも、いくつかの曲が、まるでひとつの世界を持っているように感じられるようになってから、バンド名を決めることで〈これはジャック・グリーンの音楽〉〈これはノサッジ・シングの音楽〉といった分類に加えて、〈これはヴァーシーズGTだ〉という明確な区分が生まれてきたんだよね」

 資料によると、ヴァーシーズGTとは、〈プロジェクトであり、グループであり、アルバムであり、ライヴショウであり、映像であり、新しいコラボレーション世界のための包括的な旗印〉だそうだ。

JG「リスナーとしては、デヴィッド・ボウイやプリンスのように作品の見た目が音と同じくらい強い印象を与えるアーティストや、エイフェックス・ツインみたいに独自の世界観を築いている人たちが昔から大好きなんだ。それでこのプロジェクトには、友人のテレンス・テーとザビエル・テラにも参加してもらっている。ザビエル・テラはカナダ出身で、東京を拠点に活動する映像作家なんだけど、写真や映像はすべて彼に任せているよ。僕らにとっては彼らもほとんどバンドの一員のような存在だね」

 ソロでは自分の流儀を確立して成功している両者だが、だからこそ共作には意味があったのだという。

NT「一緒に作業することで、自分のコンフォートゾーンを飛び越える挑戦ができたんじゃないかな。フィルと一緒にいると、常に自分を試される感じがあって、それはいまも続いているよ。一人で作業していると自分の頭の中だけで考え過ぎてしまうけど、考え方の似た信頼できるパートナーがいることで、新しい可能性にもオープンマインドでいることができるようになったんだ」

JG「ほとんどの曲はバンドみたいに実際に集まって演奏しながら作った。ノートパソコンを並べて各々が作業しつつ、僕がコードを弾いている時に彼がヴォーカルのパートを入れたり、ドラムを試したりしていたんだけど、ほとんどの曲のどこかの段階でとても興奮する瞬間が訪れた。最初は〈自分ならこんなこと絶対やらないな〉と思うこともあったけど、そこで自分のやり方だけに固執する必要はないと思えるようになった。相手の判断や直感が加わることで生まれるおもしろさもある。そういう信頼関係があるからこそ、二人の間で起こる化学反応を自由に育てられたんだ。二人ともコントロールフリークなタイプだから最初は難しかったけどね(笑)」

NT「もうひとつ、時間が限られていることもあって、制作により集中して、いわゆるハイパーフォーカス状態で作業することができたんだ。同時に自分たちのコントロール外のことは手放せるようになった。それがこのプロジェクトから学んだ大きな教訓のひとつだね」

 今回の制作はロンドン、LA、東京、パリ、モントリオールの5都市で行われたそうだが、そのいずれでも実際に顔を合わせて制作したこと自体が作品の内容に大きく作用したという。

JG「個人的にはパンデミックの経験が大きくて、もともと何年も一人で音楽を作ってはいたけど、そこにさらに数年間の自宅生活が加わった。だから、また旅を始めて当時ジェイソンが住んでいたLAでライヴした時は、好きなアーティストと同じ空間にいることの喜びを強く感じたよ。僕らのセッションはだいたい食事や長い散歩から始まるんだ。一緒に本を眺めながら話したりしてね。制作の前にそういう人間的な交流があるから、作業内容について話していなくても気持ちや考えが自然とシンクロしていく。だから、もし〈このメロを作ったからドラムを入れてみて〉とかメールだけでやりとりしてたら、同じ曲にはならなかったと思う」