COLUMN

天才フラメンコ・ギタリストの秘密解き明かすドキュメンタリー映画「パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト」を紐解く

天才フラメンコ・ギタリストの秘密解き明かすドキュメンタリー映画「パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト」を紐解く

数々の証言をもとに、天才フラメンコ ギタリストの旅路を力強く描き、彼の音楽の与える圧倒的な感動の秘密を解き明かす音楽ドキュメンタリー

 歴史上最高、と言っても過言ではない天才ギタリスト パコ・デ・ルシアのドキュメンタリー。パコの実の息子であるクーロ・サンチェスが監督を務め、プロデューサーのルシア・サンチェス・バレラと脚本の共同執筆者カシルダ・サンチェスは監督の姉妹である。これまでに観た幾つかのドキュメンタリーと異なるのは、そうした身近な者たちに見せるパコの人間らしさ、優しさ、温かみが伺えること。もちろん、子供の頃からの厳しい修練や演奏家としての生い立ちを本人の言葉と貴重な資料で追った年代記としても堪能することができる。

 2014年2月25日にメキシコで急逝したパコ・デ・ルシアは、7歳から父の手ほどきでギターを始める。昼間の仕事のかたわら夜はフラメンコ・ギタリストとして稼いでいた父が毎晩連れて帰ってくる仲間たちのおかげで、パコは物心ついた時からフラメンコのリズムを知っていた。ギター奏者としての厳しいリズムへの追求は、ギターを持つ前から始まっていたのだ。その後、歌手である兄と「ロス・チキート・デ・アルヘシーラス(生まれ故郷である“アルヘシーラスのちびっ子たち”の意味)」としてデビューしたのが12歳。映画『80日間世界一周』のフラメンコ・ダンサー役でも有名なホセ・グレコのツアーに同行したアメリカで、師として慕うことになる巨匠サビーカスに出会う。パコは父の尊敬するギタリスト、ニーニョ・リカルドに師事し、彼の曲を弾いていたのだが、サビーカスは「自分の音楽を奏でるべきだ」と諭す。パコはその後瞬く間にソロ・ギタリストとしての地位を確立し、盟友である伝説的カンタオール、カマロン・デ・ラ・イスラとの切磋琢磨や、チック・コリアジョン・マクラフリンラリー・コリエルアル・ディ・メオラとのコラボレーションを経て、自身のグループでフラメンコに革新をもたらしたのだ。その生涯で最後のレコーディングとなった「カンシオン・アンダルーサ」の録音風景までを収めた本作は、数々の証言者の映像を交えながらパコの旅路を力強く描き、彼の音楽の与える圧倒的な感動の秘密を解き明かす。

 このドキュメンタリー映画の最も大きな魅力は、パコや証言者の人々の目の覚めるような言葉たちだ。真摯に語るうちに導き出されたであろう言葉たちは、霊感に満ち、鋭い。観ていて、はっとさせられる言葉に何度も出会えるのだ。その最も代表的なものは映画の初盤に現れるパコの“天才”についての述懐。これまでもインタヴューなどで、度々「“天才”とは何か」を尋ねられ、その都度想像もつかないような角度からその意味の真に迫る発言をしているパコの最終回答が聞ける。これは皆さんに是非映画館で楽しんでもらうためにここには書かないけれど、そのヒントはこのドキュメンタリーから遡ること20年、1994年のテレビ・ドキュメンタリーに聞くことができたのを思い出した。

 「私は生き延びるためにギターを弾いてきた。9歳の時に父親が言ったのを覚えている。『お前は読み書きと計算ができる。学校に払うお金がないのでもうお前を退学させるよ。ギターを練習する時間が増えるよ』。それからは1日10時間~12時間練習した」

 僕はその数年後、たしか98年に本誌の仕事で一度だけパコさんに会うことができたのだが、その時の彼からは「でも、ステージに上がってしまえば練習なんて関係ない。弾くか、弾かないかだ」という、さらに重みのあるお言葉をかけていただき腰を抜かしてしまいそうだった。その後その言葉の意味をしばらく考えてしまったものだが、今ではなんとなく自分なりにパコさんの言葉を理解できた気がしている。これはパコの愛弟子のカニサレスさんに聞いたことでもあるけれど、「ギタリストである」ならば、すべてのプレイヤーが、自分の楽器と膨大な時間を過ごす一生を送り、それでもステージ上では何もかもを忘れてギターと対峙し自分と闘うのだ、と。そのことがこのドキュメンタリーからもひしひしと伝わってくるし、ほんとうに自分とその音楽に厳しく、苦闘の末に勝ち得た栄光の中で、だからこその優しさを感じさせる人だったのだと思う。

 他にもインプロヴィゼイションについてのジョン・マクラフリンの凄みのある言葉、パコと一緒に演奏していた仲間たちが語るエピソードなどとても興味深いし、そして何より、この『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』は、パコの記録の中でも映像の美しさが群を抜いている。古い白黒写真を視覚効果でとてもドラマティックにみせたり、過去の映像記録のリマスターも丁寧にされていると思われる。だからこそ、パコ・デ・ルシアの生きた軌跡が温度と空気そのままに伝わってくる。

 ギタリストやフラメンコ関係者のみならず、アーティストを志すすべての人に大きな感動をもたらしてくれるフィルムだ。

映画『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』
監督:クーロ・サンチェス
出演:パコ・デ・ルシア/チック・コリア/カルロス・サンタナ/ジョン・マクラフリン/他
配給:RESPECT(レスペ)(2014年 スペイン 90分)
pacodelucia.jp
(C) Ziggurat Films
◎7月、Bunkamuraル・シネマ他、全国ロードショー!

TOWER DOORS
pagetop