
何かになる/ならないの〈間〉にある気持ち
――昔のインタビューでは、ご自身について「かりそめ」感があると語っていましたね。
小田「私は昔から〈何かになりたいけど、なれない〉って感覚が強くて。実は、ボーカリストになることよりもっと前に〈女性になること〉にずっと違和感があったんです。女性として接されることにいまだに戸惑いがありつつ、同時に女性に憧れてもいて。女性でもない、男性でもない、どこにも属せない感覚がありました。
でも、タイトル曲“manimani”の歌詞で〈幻〉という言葉を使ってるんですけど、今回の制作を通じて〈すべてが移り変わっていく幻みたいなものだとしたら、その時その時で自分が信じたい幻を信じられればいい〉と思えるようになって。『まにまに』というアルバムには、そういう〈なる/ならない〉の間にいる自分の気持ちがたくさん刻まれてる気がします」
小西「歌も格段に変わったし、素敵になった。以前は〈良く歌おう〉とする意識が少し見える時があったけど、最近の小田はずっと自然体。感情の粒立ちがすごくいい」
井上「うん、〈呼吸してる〉感じ。歌の間の空気まで聴こえるというか。技術より、存在感の方が大きくなったと思う」
小田「家で録音していた分、自分で自分をジャッジし続ける時間が長くて、最後はパン作りして現実逃避したりしてたけど(笑)。あの孤独な時間があったからこそ、声が素直になれた気がします」
小西「俺はあえて客観的な立場を意識していました。4人は強烈にかっこいいプレイヤーだから、その音でバランスをどう取るか。5人それぞれの良さが最大効率で発揮される形を探してたから。〈4人対俺〉みたいな進行が多かったかも」
小田「確かに私の家に誰かが来て一緒に作って、その成果を小西が整理する、ということが多かった」
井上「でも『まにまに』は、過去一番サックスの含有量が多いよね」
小田「小西はすぐプロデューサー然とするから、強制的にプレイヤーになってもらいました。やっぱり小西のサックスを聴きたいので」
井上「毎曲サックスのソロ入ってるんじゃないかな? 〈小西の声〉みたいでかっこいいから、全員で圧をかけました(笑)」

脱退騒動を経た、〈バラバラ〉であり続ける奇跡
――この5年の間には、大きな揺れもありました。井上さんが一度はバンドを離れると表明して、ライブで撤回した2021年の〈脱退騒動〉。当時の井上さんは「自分のプロジェクトも本気でやりたいし、CRCK/LCKSも本気でやりたい。でも両立が難しい」と語っていました。
井上「あの頃は両立の仕方がわからないところもあったりして、同時に〈もっと自分をさらけ出せていたら違う未来があったかもしれない〉という心残りもあったんです。そういう微妙な気持ちでライブのステージに立ってみたら〈やっぱりこのメンバーと一緒にやりたい〉と確信して、撤回にいたるという……(苦笑)」
――実のところ、小西さんは結成時に「CRCK/LCKSは2〜3年で空中分解するかも」と思ってたんですよね。
小西「そもそも俺たちは一夜限りのセッションで〈意外といいじゃん〉となったのが結成のきっかけ。〈バンド組もうぜ!〉という強い意志はなかった。ソロでやっていた人間たちが、ひとつの場所にずっと留まるのは難しいかもしれないと思ってました」
井上「自分もだけど、〈初めてバンドを組む〉というメンバーが多かったし」
小西「〈こんなメンツが集まれば最強でしょ?〉と思いつつもバンドってそんな簡単じゃない。でも、銘の脱退騒動をきっかけに〈この5人でもっとやれることがある〉と確信したし、〈自分ももっと腕を磨かなきゃいけない〉と思えた」
――一体感が生まれた?
小田「一体感……と言うと違うかもしれない。私はクラクラは足並みが揃ってないところがいいと思っているから」
小西「そうだね、バラバラ(笑)。CRCK/LCKSは、5人が混ざって新しい音になる瞬間こそ面白い。だからこそ、5人の奇跡を大切にしたい気持ちにシフトした」
井上「それぞれが修行して戻ってきて、今できることとかやりたいことを持ち寄る感じになったよね。他人行儀っぽさも減ってきて、図々しく物を言いあえる関係性になった。前よりも自分のやりたいことや思っていることを、素直にメンバーに言えるようになったと思います。年齢のせいもあるかもしれないけど(笑)。
でも、その幅の広がりを今回のアルバムにも落とし込めたと思います。濃度は今までで一番濃いんじゃないかな」
小田「よく言うことですけど、バンドって家族と似てますよね。みんなそれぞれの波長を持ち帰ってくるから、足並みが揃うわけではない。けど、積み重ねてきた時間があるからこその信頼感もある。その温度感を見つけられた気がする」