タワーレコード新宿店~渋谷店の洋楽ロック/ポップス担当として、長年にわたり数々の企画やバイイングを行ってきた北爪啓之さん。マスメディアやWeb媒体などにも登場し、洋楽から邦楽、歌謡曲からオルタナティブ、オールディーズからアニソンまで横断する幅広い知識と独自の目線で語られるアイテムの紹介にファンも多い。退社後も実家稼業のかたわら音楽に接点のある仕事を続け、時折タワーレコードとも関わる真のミュージックラヴァ―でもあります。

つねにリスナー視点を大切にした語り口とユーモラスな発想をもっと多くの人に知ってもらいたい、読んでもらいたい! ということで始まったのが、連載〈パノラマ音楽奇談〉です。第17回は、米米CLUB『SINGLES』の収録曲や構成を考察しつつ、彼らの隠れた名曲について綴ってもらいました。 *Mikiki編集部

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米米CLUBの謎に満ちたアルバム『SINGLES』

今回は米米CLUBの『SINGLES』(1987年)という編集盤について深掘りしてみようと思います。とくに周年などのトピックがあるわけではないのですが、ただ単に夏になるとこの作品を聴きたくなるという個人的な理由で取り上げた次第です。現在は廃盤のためサブスクでしか聴けないうえにオリジナルアルバムでもないからか、ファンの間でもあまり語られる機会のない1枚ですが、裏を返せばこの連載向きの作品だということでもあります(第5回、第6回など参照)。

米米CLUB 『SINGLES』 CBS/ソニー(1987)

僕が本作を初めて聴いたのは15、16歳の頃でしたが、じつは当時から〈不思議なアルバム〉だなという印象を持っていました。タイトルだけ見るとシングルを集めたベスト的なコンピレーションなのかなと思うかもしれませんが、それがちょっと違うのです。ウィキペディアによると〈レコードからCDへの移行に伴い、それまでのシングル収録曲のうちCD化されていないものをまとめたベストアルバム〉とあります。しかしこの説明には腑に落ちないところがあるのです。

まず『SINGLES』に至るまでのディスコグラフィーを振り返っておきましょう。

1985年10月 シングル“I CAN BE”、アルバム『シャリ・シャリズム』を同時発売でデビュー
1986年4月 シングル“Shake Hip!”発売
1986年6月 12インチシングル“加油”発売
1986年10月 アルバム『E・B・I・S』発売
1987年4月 シングル“Paradise”発売
1987年6月 アルバム『SINGLES』発売

ここで留意したいのは、当時シングルはレコードのみだったが、アルバムはレコードとCD両方のフォーマットで販売されていたということ。

続いて『SINGLES』の曲目です。

1. Shake Hip!(シングルA面)
2. Parodies(“Paradise”B面)
3. グラデーション・グラス(“加油”B面)
4. ヴィーナス(“加油”B面)
5. 加油(12インチシングルA面)
6. Blue Wave(“Shake Hip!”B面)
7. Party Joke(“I CAN BE”B面)

こうして見るかぎりウィキペディアの〈シングル収録曲のうちCD化されていないものをまとめた〉という説明に間違いはありません。本作リリース前にアルバムへ収録されていた(=CD化されていた)シングルA面曲は意外にも“I CAN BE”だけなので、ここに“Shake Hip!”と“加油”が収められていることには合点がいきます。

ところがなぜか最新シングル“Paradise”は収録されず、その歌詞を替えただけのパロディソングで、米米CLUBが言うところの〈ソーリー曲〉(謝ったら何でもありのおふざけ/キワモノ系楽曲)である“Parodies”がセレクトされているのです。これがなぜなのか僕にはずっと謎だったのです。