©Simon Emmett

ジョン・バリーによる「ある日どこかで」と「愛と哀しみの果て」のロマンティックなテーマも収録!

 5作目にして名曲の宝庫である映画音楽の世界に足を踏み入れた。結果として、CD 2枚組25曲のボリュームになっている。この25曲をハウザーは、どのように選んだのだろうか。選曲にまず興味を持ったのは幅広い知識とともに優れたセンスとバランス感覚が発揮されているからだ。

HAUSER 『Cinema』 Masterworks/ソニー(2025)

 アルバムは、映画「007 スペクター」の主題歌から始まり、“タラのテーマ”や“夏の日の恋”など名曲集に欠かせない楽曲がある一方で、NHK Eテレのアニメ「ツバサ・クロニクル」の劇中曲“イフ・ユー・アー・マイ・ラヴ”がある。「劇場版「鬼滅の刃」無限列車編」の音楽を手懸けた梶浦由記の作曲なので、そのつながりで出会ったのかもしれないが、2005年から放映されたTVアニメの主題歌でもない曲で、こんなにもせつない感情を語りかけるように奏でるとは。

 共同プロデューサーは、2チェロズ時代から組んできたニック・パトリック。共演するのは前作と同じロバート・ジーグラー指揮のロンドン交響楽団だ。オーケストラの壮大なサウンドに名画の旅をしている気分になるが、その旅は、同時にエンニオ・モリコーネやフランシス・レイ、ジョン・ウィリアムズ、ジョン・バリーといった映画音楽の巨匠たちの足跡を辿ることにもなる。そのなかでヘンリー・マンシーニにこんな曲があったのかという発見もある。“ムーンリヴァー”じゃないのだ。

 新しいところではビリー・アイリッシュの“ホワット・ワズ・アイ・メイド・フォー?”があるが、オリジナルでは彼女の歌ばかりに注目していたけれど、ハウザーの演奏で聴くと、美しいメロディがより際立ち、楽曲そのものの魅力に心奪われる。そして、最後の2曲“海辺の少女”と“1492コロンブス”は、ヴァンゲリス作曲。敬愛する彼へのオマージュが感じられる。

 もしかしたら25曲のボリュームにしり込みするかもしれないが、そこはSNS時代だ。大半が3分~4分台にアレンジされているし、曲間が若干短いので、めくりめく世界を飽きることなく楽しめる。