熱烈なメタラーとして知られるジャズピアニスト、西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回、西山さんが注目したのは、〈メタル × チェロ〉という組み合わせについて。「ゲーム・オブ・スローンズ」のD・B・ワイスが脚本、「IT/イット」のジェイデン・マーテルが出演したことで話題の青春メタル映画「目指せメタルロード」を見て、その妙味に改めて気づいたのだとか。意外な相性の良さの理由は、どんなところにあるのでしょうか? *Mikiki編集部

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Netflix映画「目指せメタルロード」独占配信中

Netflixで4月から公開されている映画「目指せメタルロード」を見ました。
発表された時に、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロが関わっているとの情報で、これは見なければいけないと思っていました。
ヘヴィメタルに心酔するギター&ボーカルのハンターと、最初はそれほどヘヴィメタルに興味があるわけではなかったドラムのケビンが主人公。ハイスクールで行われるバンドバトルを目指す物語です。
傍若無人に振る舞う男らしさがメタルらしさだと勘違いして、他人や弱者への思いやりが全く欠けており、それを「That’s Metal!」で片付けてしまう高校生のハンター。あいたたたた……と思いながら見ていましたが、そんな中、メタラーなら誰でも知っている超有名メタル名曲が次々とバックに流れます。正直なところ、メタラーとしては「きっと後で改心するんだろうけど、こんな精神的にダサい行いのシーンで歴史的なメタル名曲たちを格好良く使うのは、ちょっと……」と思って見ていたんですよ。しばらく見ていると、唐突にレジェンド降臨シーンがありビックリしました。
最初からエンディングまで、それでいいんかい!と思うところは色々ありますが、メタルが沢山聴ける楽しい映画ですので、Netflixに入ってる方はぜひどうぞ。

映画「目指せメタルロード」予告編

 

さて、映画を観て改めて思ったことが一つ。
それは、チェロという楽器とメタルの相性の良さです。
エミリーというチェロ弾きの女の子が出てくるのですが、最初にチェロでブラックサバスの“War Pigs”を弾くシーンがとても良かった。彼らのオリジナルもチェロで弾くことでとても良いサウンドになっていたし、やっぱメタルにチェロ、良いよねーと。
また、エミリーが本気を出した時のビジュアルが、可愛いし格好良いし、けれどとてもシャイな感じが、なんともいえない魅力的なものでした。チェロをかき鳴らしながらヘドバンしている姿がキュートで力強く、とても良かったので、実際にライブ現場で見たらこれはファンになっちゃうなと思いました。

エレキベースの代わりということだと、まずは役割的にコントラバスが思い浮かびますが、コントラバスだと音が低すぎて、メタルだと他の楽器に比べて音がこもって聴こえにくくなりそうです。なにせ、他の楽器の音が爆音でエッジーですからね。

メタルでコントラバスを使っている人は、私はぱっと思い浮かばないですが、プログレの方だといろんなプレイヤーがいると思います。
トニー・レヴィン(キング・クリムゾンなど)が時々エレキのアップライトベースを使っていますね。

ゴーティカ&トニー・レヴィンの2007年のライブ動画

 

イタリアのプログレバンド、アレアのベーシストのアレス・タヴォラッツィは、ジャズ奏者としてもとても素晴らしい録音が沢山ありますが、アレアでもよくコントラバスを弾いています。

アレアの74年作『Caution Radiation Area』収録曲“Brujo”。ベースはアレス・タヴォラッツィ

アレス・タヴォラッツィは、ジャズではフランコ・ダンドレア、アレッサンドロ・ガラティ、ステファノ・ボラーニなど、イタリアを代表する名ピアニストとの録音が沢山あり、イタリアンジャズ好きとしてはとても馴染み深いベーシスト。私はお恥ずかしながら10年ぐらい前までアレアのベーシストと知らずに聴いており、アレアの人なんだ!と知って滅茶苦茶驚いたことがあります。一時期、アレアやPFMなどイタリアのプログレを聴いていた時期があったんですけど、メンバーのことなんて一つも意識していなかったので。
プログレはそもそもジャズやクラシックの素養のあるプレイヤー多いですし、テクニカルな細部を聴いてもらわないといけないので、エレキベースではなくコントラバスが入っても十分サウンドすると思いますが、メタルだと轟音の中ですし、コントラバスで存在感のある演奏をするのはなかなか厳しいかもしれません。

しかし、チェロだとメタルにすごく合う。
音域的に軽すぎず、ドスがきいていて、音量は敵わなくともエレキギターと並んで遜色ないパッションがあり、とてもエモーショナルです。
そして何より、ズクズクと刻むことができる。刻みの音色も非常にギザギザしていて攻撃力が高く、楽器そのものの持つ気高い音色もメタルの世界観向き。
ソロもとれるし、刻みもできるし、シンセサイザーでするような長い音符で空間を演出することもできる。スラッシュでも、デスでも、シンフォニックでも、案外なんでもできるんじゃないかなと思います。
「目指せメタルロード」を見ていて、改めてメタル向きな楽器だなあと改めて思いました。