20組以上のクセモノたちが音で作り上げた、レトロでダンディな宇宙感!

 渡辺信一郎というアニメ監督の名前を見てピンとくる音楽ファンは少なからずいるはずだ。「カウボーイビバップ」(98年)においては菅野よう子を起用してジャジーでヒップな世界観を作り上げ、「サムライチャンプルー」(2004年)ではファット・ジョン、Nujabes、FORCE OF NATURE、Tsutchieらをフィーチャーしてヒップホップのビート感で文字通りチャンプルーな(=ごちゃまぜな)時代劇を提示してみせたその人である。また、アニメ監督のみならず音楽プロデューサーとしても活躍していて、映画「マインド・ゲーム」(2004年)では山本精一を抜擢して強烈なアシッド体験を届けてくれたし、最近では菊地成孔が劇伴を担当した「LUPIN the Third -峰不二子という女-」(2012年)で不二子を艶やかに演出したのも記憶に新しい。つまり、渡辺監督が関わる作品は、音楽と分かち難く結び付いているのだ。

 「『スペース☆ダンディ』は本編も音楽も、次々と個性の違うバンドが出てくるフェスのような作品にしたかったので、最初からオムニバスにするつもりでした」。

VARIOUS ARTISTS 『TVアニメーション「スペース☆ダンディ」O.S.T. 1 ベストヒッツ BBP』 flying DOG(2014)

 今年の1月から放映されている新作「スペース☆ダンディ」は、作画や脚本、演出、声優に至るまで、回替わりで多数のクリエイターが参加する一風変わったTVアニメ。音楽面でもそれにリンクして多彩な顔ぶれが参加していて、なんと20組以上のアーティスト/バンド――総称して〈スペース☆ダンディバンド〉という――が楽曲を寄せている。ひと癖もふた癖もある音楽家がまさにフェスのように顔を並べる、これまでの渡辺作品のサントラのなかでもっとも幅広く、インパクトの強い内容となった。

 「カセットテープ・エイジへのオマージュであり、古い世代には懐かしいかもしれないけど、若い世代には逆に新鮮に見えるのではないかと思いました」。

 ラジカセを配したジャケットにはそんな思いが込められているが、そのテーマはもちろんサントラの音楽性にも通底している。ディスコやニューウェイヴ、エレクトロ、シティー・ポップといった80年代の音楽にアプローチしたそれぞれの楽曲は、どこか懐かしく、しかしいまの耳で聴いてもフィットするフレッシュな響きを纏っている。

 「人によってさまざまな発注をしてますが、〈84年以前の感覚〉〈ダサ格好良い感じ〉〈昔の人が妄想した未来や宇宙感覚〉〈歌ものはヴォコーダー推奨〉〈スペイシーな感じ〉といったイメージを伝え、あとは自由に作ってもらっています」。

 こうしたオファーのもとに作られていった音楽は、リーゼント+スカジャンスタイルの主人公・ダンディの生きる世界と見事にシンクロするもので、渡辺采配の妙味、ここに極まれりといったところ。TUCKERや川辺ヒロシによるメロウなエキゾ・チューン、向井秀徳のメランコリックなトラック、LUVRAWのトークボックス・ナンバーなど、どれも絶妙にレトロな宇宙感を醸し出している。

 「今回は、いろんなアーティストの個性を出してもらいつつ、バラバラに聴こえるけど実はどこか一本筋の通ったものにと思っていました。また、各アーティストがそれぞれ力が入ってるので、一枚にまとめると全体的にすごくクォリティーが高くて自分でびっくりしました」。

 渡辺総監督が語る通り、ひとつひとつの楽曲に各アーティストの個性が刻まれていて、しかもトータル・アルバムとしての出来もすこぶる良い。アニメと共に楽しめるのはもちろんのこと、仮にアニメを観ていなかったとしても、音楽単体だけでも十二分に聴き応えのある作品になっている。アニメのサントラとして、クラブ・ミュージックを通過したポップスのコンピレーションとして、破格のヴァリエーションとクォリティーを誇る傑作と言っていいだろう。

 最後に最近のフェイヴァリットを訊くと、渡辺監督の音楽に対する柔軟すぎるスタンスがよくわかる答えが返ってきた。このなかにも「スペース☆ダンディ」を一層楽しむためのヒントがあるし、もしかしたら、次作以降の展開に繋がるものが見えるかもしれない!?

 「ヴァクラ、パッチワークス、レイト・ナイト・タフ・ガイ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ピープルズ・ポテンシャル・アンリミテッドもの、他たくさん。あと、スペクトラムやAB’S、小林泉美など、タワレコの和物ライト・メロウ作品の再発も愛聴していますよ」。

 

▼文中に登場したアーティストの作品
左から、ヴァクラの未発表曲集『You’ve Never Been To Konotop: Selected Works 2009-2012』(Firecracker)、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの2013年作『R Plus Seven』(Warp)、小林泉美の82年作『Nuts, Nuts, Nuts』(Light Mellow’s Picks × Tower to the People)

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▼渡辺信一郎が音楽プロデュースを担当した作品
左から、2008年のサントラ『Genius Party & Genius Party Beyond O.S.T.』(flying DOG)、2009年のサントラ『ミチコとハッチン』(スピードスター)、2012年のサントラ『LUPIN the Third 峰不二子という女』(コロムビア)

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