妥協せず理想を追い求め続ける2人は何が起きても揺るがない――〈らしさ〉と〈新しさ〉が混じり合った『丈夫な私たち』を聴くと、すべては大丈夫だと思える

 〈元気〉じゃなく、〈ひたむき〉でもなく〈丈夫〉というのがなんともこの人たちらしい。ハンバート ハンバートの2年ぶりのオリジナル・アルバム『丈夫な私たち』を手にして思わずニヤッとした。彼らの佇まいや活動姿勢を言い表すのにこのうえなく〈らしさ〉を感じるフレーズだが、同時に〈新しさ〉も想起させるあたりが絶妙なのである。つまりこの新作、両方の要素がいい塩梅で混じり合った作品に仕上がっている。

ハンバート ハンバート 『丈夫な私たち』 SPACE SHOWER(2022)

 まずサウンド面だが、いつも以上にタフなアーシーさが際立ち、オッとなる場面が満載。随所で多彩な彩りを放つギターの音色は骨太さが漂い、なるほど、このがっしり感は確かに新鮮かも、と頷きたくなる。

 「どしっとしてますね。エンジニアの永井はじめさんとのコンビネーションがうまく働いたこともあり、理想の響きを具現化しやすくなったのかも。そもそもシンプルでラフなテイストが好きで、ボブ・ディランやニール・ヤングなどのスペースのある音作りに憧れていましたが、それらをじっくり聴くとすごく細やかな作業が行われているんですよね。勝手なイメージを膨らませてそういう音を追い求めても、たいてい思い通りにならない。それに、これまでいろんな局面で〈こうしたらいけないんじゃないか?〉とブレーキをかけることが多かったけど、あまり気にせずやれるだけやればいいと思えるようになって」(佐藤良成)。

 コロナ禍の状況もあって好きな音の探求にかなり時間が割けたこともあったようだが、それはさておき、雄弁かつ豊潤なギター・サウンドの味わいには、プレイヤーとしての確かな進歩をひしひしと感じることができる。ジョージ・ハリソンを彷彿とさせる頼りなげなスライド・プレイが顔を出す“君の味方”とか、まったくなんて素敵なんだろう。

 そして歌について。特に佐野遊穂の歌唱はどっしりした構えっぷりがやけにめざましく、いつになくソウルフルに映る。なかでもドラマティックなバラード“ふたつの星”での迫真の歌声は絶品で、幾度となく涙腺を刺激されたもの。

 「このところ曲提供のオファーが増えたことがきっかけで、良成の曲作りも含め、自由度が増したのも大きい。どんなプロセスを踏んでもハンバートらしさは消えない、ってわかってきて、いろいろ怖いものが減った気がします」(佐野遊穂)。

 自由度の向上によって表現にいっそう丈夫さが増した、ってことか。〈こういうのがハンバートっぽさだね〉といった外部からのバイアスなどもはや関係ない、といった意思の固さもまた本作の魅力の一部となっていることは間違いない。それにしても、佐野の歌唱である。ポップでキャッチーなイントロに、デビューしたてのギター・ポップ・バンドの曲か?なんて思いがよぎる“岬”や、ノイジーなギターが疾駆する様子に、ストゥージズかよ、ってツッコミたくなる“もうくよくよしない”など、開放感に溢れる彼女の表情にはなにやら無敵感のようなものが漂う。

 「でも遊穂は他にやりようがないんだよね。めちゃくちゃディレクションするけれど、それがちゃんとできているのかどうかもはや誰にもわからない(笑)」(佐藤)。

 「人の意見に左右されることはぜんぜんないです(笑)。〈もっと焦った感じを出して〉って良成からの指示も、うまくいったかどうか。〈生き急いでる感じ〉って言われても、生き急いだことないからなぁ……(笑)」(佐野)。

 アルバム名の『丈夫な私たち』は、曲が出揃ったとき、妥協せず理想を追い求める姿勢がどの曲からも見えてくる、という周りの声から導き出したのだそう。

 「ただ、懸命に追い求めているけれど、タ~ッと飛ぶように進むわけじゃなく、スピードを感じさせないところが私たちらしいというか。ゆったりしているけど揺るがない」。

 そんなイメージも込められていると佐野は言う。いずれにせよ、彼らが同じ方向を見据え、彼ららしい音を奏でてくれるかぎり、きっとすべては大丈夫だと思えるような、そんなアルバムなのだと言いたい。

ハンバート ハンバートの近作。
左から、2021年の企画盤『FOLK 3』、2020年作『愛のひみつ』、2019年のベスト盤『WORK』(すべてSPACE SHOWER)

 

佐藤良成が近年に楽曲提供した作品の一部を紹介。
左から、上白石萌音の2022年作『name』(ユニバーサル)、アニメ「プリンセスコネクト! Re:Dive Season 2」のテーマソング“旅立ちの季節”(Columbia)、茅野愛衣が2021年にリリースしたメモリアルブック&ミニ・アルバム『むすんでひらいて』(アニプレックス)