このグルーヴは、まさに〈フューチャー・フォークロア〉!

 スナーキー・パピーの創設者でベース/マルチ奏者のマイケル・リーグ、キューバ出身で90年代後半からニューヨークを拠点に活躍を続けるパーカッション奏者/ヴォーカリストのペドリート・マルティネス、そして、メキシコ出身でパット・メセニー・グループでの活動や映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のサントラなどでも知られるドラマーのアントニオ・サンチェスという3人の才人たちによる新グループ〈エリプシス〉のデビュー・アルバムが誕生した。コンセプトは、〈片足を伝統に、もう一方の足を未来に深く踏み入れた3人の音楽的個性の融合によって生まれたフューチャー・フォークロア〉。アフロ・キューバンの伝統を受け継いだマルティネスのパーカッション(コンガやバタ)とヴォーカルに、サンチェスが自在に反応し、そこにリーグがキーボード、シンセ・ベース、エレキ・ギターなどでさらに色彩を加えていく……といった様相で、まさに〈フューチャー・フォークロア〉といったグルーヴィーなサウンドだ。マイケル・リーグ本人に解説していただこう。

 「2012年ごろ、ニューヨークでふたりに出会いました。ペドリートの毎週恒例のギグが行われる伝説的なサルサ・クラブ〈グァンタナメラ〉に私は常連として通っており、そこで誰かの紹介で知り合ったのです。一方アントニオとは、私がジャズに興味を持ち始めた頃からずっとお気に入りのドラマーの1人でした。そしてついにニューヨークの音楽シーンで直接会うことができました」

 2018年、オランダの〈ノース・シー・ジャズ・フェスティバル〉で、エリプシス名義での一度だけのライヴを行い、それがこのアルバムへとつながったようだが、そもそも〈エリプシス〉とは?

 「エリプシス=省略記号(…)というのは、考えの継続を示す文法的な装置です。私は、アントニオ、ペドリート、そして私自身を、さまざまな音楽的伝統の未知で不確定な延長戦上に存在する〈継続〉を生み出す、三つの人間の点として捉えています」

ELIPSIS 『Elipsis』 GroundUP Music/コアポート(2024)

 今回、録音はどのように行ったのだろう?

 「録音プロセスは非常に型破りで、まず、アントニオとペドリートのためにニューヨークの伝説的なパワー・ステーション・スタジオを数日間予約しました。私はスペインの自宅からZoom経由でコ・プロデューサーとして参加しました。彼らはセッション中、異なるテンポや拍子で即興演奏を重ねました。その後、各曲のキーを決め、ペドリートにヴォーカルで即興をしてもらいました。これらのセッションの後、彼らが録音したもの(ドラム、パーカッション、ヴォーカル)を送ってもらい、私はそれを細かくカットして曲の形を作り、即興演奏をあたかも事前に作曲された曲のように補完するため多数の楽器を加えました。気に入ったドラムやパーカッションの小さなフレーズを見つけてループにしたり、他の部分はそのまま残したり、ペドリートかアントニオのどちらかをミュートしてもう一方を残したり、という作業をしました。そして、そこからどんどん重ねていくのです!」

 「片足を伝統に、もう一方の足を未来に深く踏み入れた3人」による本作品。〈未来〉はどの程度、実現したのだろうか。

 「エリプシスの音楽に最も明確に存在する伝統は、キューバに連れてこられたアフリカ系奴隷の言語と宗教であるヨルバの伝統であり、この伝統は現在も島で生き続け、息づいています。しかし、特にアントニオと私はブラック・アメリカン・ミュージック(ファンク、ヒップホップ、ジャズなど)の伝統も取り入れ、音楽の中のヨルバ的要素を支え、補完する形で表現しています。何よりもこのグループにおける私たちの使命は、こうした非常に深く根付いた伝統を音響的・概念的に進化させることだと考えています。このレコードはこの深いアフロ・カリブの伝統を新しい文脈に置き換えながら、そのことを実に多様な形で実現しています」

 最近、キューバ出身のピアニスト兼シンガーのグレンダ・デル・E(Glenda Del E)をライヴに加えたことで、コンサートにおけるバンドの可能性が大きく広がったということ。ぜひ、ライヴ・パフォーマンスも見てみたい!

 


エリプシス(Elipsis)
マイケル・リーグが〈伝統に片足を、未来に片足を深く入れた、未来のフォークロア〉をコンセプトに、ホセ・ジェイムズ『1978』にも参加したキューバ人〈天才〉パーカッション奏者&ヴォーカリストのペドリート・マルティネス、4度のグラミー賞に輝き現代最高峰のジャズ・ドラマーとして人気の高いアントニオ・サンチェスと結成した新グループ。ペドリート・マルティネスはアフロ・キューバンの伝統を携えながら、スティーヴ・コールマン/ウィントン・マルサリス/ジェルバ・ブエナ他様々な場所で活躍しNYのリズムを変えたとまで言われる革新的なアーティスト。アントニオ・サンチェスは約20年にわたるパット・メセニー・グループのドラマーや、また映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のスコア等で世界的に名を馳せると共に現代ジャズ・シーンの最重要人物。