グループ一丸で原点に帰り、大車輪。異能クリエイター率いる、スナーキー・パピーのめくるめく今が浮き上がる。
強い音楽愛や好奇心、そして確かな音楽観や技量が高い次元で折り合うバンド・リーダー/ベース奏者のマイケル・リーグ率いるスナーキー・パピーの新作は、『エンパイア・セントラル』と名付けられた。同作は、かつての彼らのホームであったテキサス州ダラスで録音されている。
「僕たちのバンドとしてのサウンドを形成してくれたこの街に、敬意とオマージュを捧げたいと思ったんです。まさに、里帰りのような感覚でした。〈エンパイア・セントラル〉とは、僕たちが結成されたデントン(リーグたちが通った北テキサス大学がある)とその後すぐに引っ越したダラスを結ぶ高速道路の出口のことなんです」
今回の録音地の選定は、Covid-19のパンデミックを間に置いたことは関係はあるのだろうか。コロナ禍が落ち着き、メンバーたちと原点に立ち返り新たなスタートを切ったという⼼持ちを、その設定から感じてしまう。
「不思議なことに、そうでもないのです。関係があるとすればパンデミックの間、メンバー個々人が独自に勉強し、成長したことです。プレイヤーとして、作曲家として、プロデューサーとして、各人が学んだことをセッションに持ち込んでいたという点だけかもしれません」
観客を前に録音は進められたが、その歓声の大きなことには驚かされる。8日にわたるスタジオ・ライヴは、どんな感じで進められたのだろうか。
「観客は常に僕たちの演奏の仕方を変化させる存在です。そのため、このような環境でレコーディングを行いました。彼らの存在によって、録音中は必要以上に考えすぎないようにすることができます。とにかく、ひたすら観客のために演奏しました。それが、音楽に与える影響はとても大きいですね」
全17曲(日本盤ボーナス曲を含む)を収録。様々な指向や折衷回路を抱え、地に足をつけた曲が並ぶ。そして、それらは繋がって⼤きな環を作っているような思いも得て、2枚組である必然性を覚えてしまう。リーグは当初から2枚組にするつもりだったのだろうか。
「まったく違います(笑)。できるだけ多くの曲を録音して、そのうちの6~8曲ほどをリリースするつもりだったんです。でも、皆それぞれの曲をとても気に入っていたので、このまま倍の曲数にして全曲リリースすることにしました。今は、そうしてよかったと思います」
ライヴには19⼈もの奏者が参加。その顔ぶれは、2019年作『イミグランス』と同じ顔ぶれで、ドラマーが⼀⼈変わっただけだ。これが現在のスナーキー・パピーの構成員であると取っていいのだろうか。
「この19人が、現在の活動メンバーです。他にもルイス・ケイトー(リーグの別プロジェクトのボカンテに参加しているマルチ奏者)、エリック・ハーランド(何よりチャールズ・ロイドの屋台骨を支える敏腕ドラマー)、ニッキー・グラスピー(ニューオーリンズものに強い女性グルーヴ・ドラマー)など、必要に応じて入ってくる奏者はいますが、この19人がいわば〈フルタイム〉のメンバーです」
メンバーの12人が楽曲を提供している。その事実は、『エンパイア・セントラル』がまさしくグループの総⼒で作ったアルバムであることを印象付ける。
「ダラスに着き、そしてダラスが自分たちにとってどういう意味を持つのか、よく考えて作曲するようにと伝えました。その結果、12人のバンド・メンバーが曲を提供したんですが、予想以上に統一感のあるレコードになったと思います。もちろん、リハーサルが始まればサウンドはガラリと変わり、完成度も高まったわけです」
新作を引っ提げて、9月からスナーキー・パピーは米/欧州ツアーに出ている。
「日々探求し、成長し、向上していこうとする気持ちは、スナーキー・パピー結成後ずっと変わっていません。一方、変わったのはバンド・メンバー間のケミストリーと繋がりですね。僕たちはもう家族ですよ」
スナーキー・パピー (Snarky Puppy)
ダラスのノース・テキサス大学出身のマイケル・リーグが大学の仲間と結成、その後は30名前後のミュージジャンが流動的にアルバム/ツアーに参加するまでに成長したコミュニティ型バンド。2021年『Live At The Royal Albetrt Hall』でグラミー賞最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバムを受賞し、計4回のグラミー・ウィナーに。