
女子がいない……
──で、次の“LEMONADE”はさっき触れたので、その次の“デートの練習”の話になりますが、これもですね、高樹さんが学生時代にリアルで経験していたことなんじゃないかと思われそうな歌詞だなと。
「息子が、高校に通いはじめまして。男子校なんですけど、入学式から帰ってきたら第一声〈女子がいない……〉ってため息ついてたんですよ。いや、そんなのわかってたことじゃんって話なんですけど(笑)、入学式が終わって、教室に入って、男しかいないっていう事実を目の当たりにして愕然としたみたいで。それがおもしろくて。女の子がいないってことをモチーフにして1曲作れるわと思って」
──男子校の生徒が女子と接するとなると、文化祭を楽しみにするしかないですね(笑)。
「曲はもともと、ラジオ番組の企画で作った曲で、Twitter(X)の文言を元にして曲を作ってくださいっていう企画だったんです。“猫の声”っていうタイトルだったんですけど、主人公はおじさんで、なんか遠くで猫の声がするな、探しに行ってみようって、ニャーニャーって言いながら近寄っていったら、向こうから近づいて来たのが同じように猫の声を真似してるおじさんで、向こうもなんか猫を探してたっぽく、猫の声を真似してるおじさん同士が鉢合わせした、そういうツイートが元なんです。
それで1番だけ作ってたんですけど、2番ってなったときに、1番がよく出来すぎてて、このあとはもう蛇足にしかならないから、結構頑張ったんだけど、ナシってことになって。じゃあイチからまた歌詞を書こうってときに、ちょうど〈女子がいない〉っていう話を思い出して」
──よいきっかけが身近に転がっていましたね。
「ドラムとパーカッションの演奏は、宮川剛さんっていう、高野寛さんとか宮沢和史さんのGANGA ZUMBAとかで叩いてた方で、最近は中村佳穂さんなんかもサポートしてらっしゃって。ベースは僕が弾いてます。今回ね、結構自分でベースを弾いてるんですよ」
──今回はそういうテンションだったんですか。
「デモテープを作っている段階でベースのフレーズもしっかり決め込むんで。だったら自分でやろうかなって思って、今回はちょっと練習して」
──レコーディングだとやり直しも利きますし。
「そうそう、自分で弾くと何回もできるから」
〈TOWN BEAT〉はシティポップではないニュージャンル?
──“デートの練習”までバラードっぽい曲がぜんぜんないですが、次の“反省と後悔”でぐっと落ち着いたものを聴かせるという。後半に向かって荘厳な雰囲気になっていくところは、ブライアン・ウィルソンっぽいというか、“Surf’s Up”っぽいというか。
「そうなんですよ、なぜかね。はじめの何小節かのメロディーができたときは、インストのインタールードにしようと思ったんです。だったんですけど、歌詞を思いついて、さらさらっと出来て、そこから先は詞先なんです。導入だけメロディーがあって、あとは詞を書いてからメロディを作った曲。
インタールードにするってほぼ決めて取りかかってたから、ドラムのレコーディングとかもするつもりなくて、ほぼ自分のギターと打ち込みだけなんですけど。そしたら、アンビエントな感じの、エレクトロな感じのブライアン・ウィルソンみたいなものが出来上がって。なんとなくで取りかかったわりには、自分として新しいものができたなっていう感覚があって」
──アンビエントなんだけど、その線でつながるブライアン・イーノじゃなく、ブライアン・ウィルソン。
「これはなんか鉱脈があるかも?と、ちょっと思ったりもしました(笑)」
──歌詞も、言ってみればブライアン・ウィルソンっぽいですね、駄目な男っぽい感じが。
「さらさらさらっとできたとしか言いようがないんだけど。パートナーなのか友達なのかわかんないけど、誰かと誰か、2人で会話してるイメージで。反省してるって言うけど本当ですか、みたいな感じで疑義を投げかけてる人がそばにいる感じですね。なんとなく若い人をイメージして書いたかな」
──カメラがよいテンポでパン、パンと切り替わっていく場面を見せていくような感じがあって。小津安二郎の映画みたいというか、聴いててああいうカメラワークが頭のなかに浮かんだんですよね。
「でも、今回のジャケットは、小津の映画に出てくるような新興住宅地……って、ぜんぜん違うんだけど(笑)、なんか江戸川区とか、そっち方面のイメージがありますよね」
──ああー。『TOWN BEAT』っていうタイトルにある〈TOWN〉は葛西あたりなんですね(笑)。シティポップとは世界観が違うというか、そもそもKIRINJIが描く街の風景には、サバービア感があります。
「今回いろいろインタビューを受けてるなかで、すごくシティポップを引き合いに出されるんですよ。シティポップっていう言葉に対しての『TOWN BEAT』なんですか、とか。いや、そんなつもりなくて、たまたまなんですけど、そっか、ニュージャンルを作れるかと思って(笑)」
──やはりご出身が埼玉だから、原風景が〈都市〉ではないんですよね。
「それはありますね、絶対ね」