〈廃墟〉――誰もいない、響き
これまで一貫してプリペアード・ピアノの可能性を追求して来たハウシュカ。本人が意識しているかどうかは別として、ハウシュカは〈ポスト・クラシカル〉をそのキャリアのスタートより体現していた。〈ポスト・クラシカル〉の定義の1つを筆者は〈エレクトロニカを経過した耳によって創られる、アコースティック楽器による音への眼差し〉という点を共通項に挙げられると思っているのだが、ハウシュカのプリペアード・ピアノによるハープや打楽器とその役割を演じ、時には雑音も発する音へのアプローチは正に当てはまる様に感じる。
また、ケージ考案で現代音楽界に生まれたプリペアード・ピアノをそのコンテクストをずらして、様々なポピュラー・ミュージックの伝統も踏まえたハウシュカの音楽は、その特異な立ち位置とは裏腹に、(だからこそ?)様々なシーンの才能より愛されており、シガー・ロスやデヴェンドラ・バンハート、日本では吉高由理子、サカナクション(来日もこれまでに4回)さらに2012年にはクラシック界で大人気を誇るヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンとの共作をDGよりリリースした。
そして3年振り、7作目となる新作が届けられた。本作の〈アバンダンド・シティ〉とは〈捨てられた街〉の意で楽曲のタイトルはそれぞれ世界に実在する街の名前が付されている。今回テーマとしたのは、人が離れた街が自然に侵食され、元の姿に戻っていく様。その感覚とハウシュカ自身の作曲に於ける心的状況に合致するものを見出した様だ。アルバムの冒頭の楽曲以外は、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」の改変として作曲されたものだと言う。そして、作曲、録音を僅か10日で仕上げたらしい。プリペアード・ピアノから鳴らされるパーカッシヴな音像と短く刻まれたモチーフ、手弾きによる揺らぎやズレからは不思議と空虚さを内包した映像を喚起させ、またこれまでに見られなかった新たな音への眼差しを感じさせてくれた。