新進気鋭の才能が彗星のごとく現れた。弱冠20歳のorlikこと中島輝智。彼が、1stアルバム『New contemporary』をAPOLLO SOUNDSからリリースした。高校3年生から大学1年生の間に制作したという楽曲群で構成された本作からは、ロックもジャズもヒップホップも電子音楽もハイパーポップも聞こえてくる。まさに現在の東京のサウンドトラックというべきエクレクティックなアルバムだが、緻密な構築力によって混沌を避け、orlikという音楽家固有の世界を立ち上げている。このユニークなサウンドとジャンル横断的な音楽観はどのようにして育まれたのか? 批評家/YouTuberの伏見瞬によるインタビューから迫る。 *Mikiki編集部

orlik 『New contemporary』 APOLLO SOUNDS(2026)

 

“Paranoid Android”を聴いた瞬間、稲妻に打たれた

――率直に、とてもいいアルバムだと思いました!

「ありがとうございます。嬉しいです」

――基本はラップトップで作られていると思うのですが、聴いていると体がちゃんとそこにある感じがする。打ち込みで身体感覚を出すことは意識していましたか?

「そこまで意識してなかったと思います。曲のリファレンスにバンドサウンドが多いので、自然と身体性が出るのかもしれません。ギターも自分で弾いているので、意識はしていないけど出るものなのかなと思います」

――“非O”も“Youth terrorism”も“Hanky-Panky”も、ギターのフレーズは実際に弾いてるんですか?

「弾いてます」

――もともとバンドミュージックは好きだった?

「音楽の入りがギターからだったので。バンドミュージックはやっぱり好きですね」

――一番よく聴いているバンドは?

「レディオヘッドですね。根幹にあります。あとthe band apart、レッド・ツェッペリンが好きです。ギターを始めたきっかけはRADWIMPSなんですけど」

――the band apartはすごく納得します。ジャンルを越えた折衷感がorlikの作品にも通じてますよね。レディオヘッドはどのあたりから入ったんですか?

「高校生のとき頭の手術で入院して、暇だったのでアニメ『Ergo Proxy』を一気見したんですよ。エンディングが配信では差し替えられていて、オリジナルを調べたら“Paranoid Android”だった。聴いた瞬間、稲妻に打たれたような感覚がありました。

その勢いで『OK Computer』を聴いたんですけど全然わからなくて(笑)、『Kid A』は1曲目で断念して、大学1年生まで離れていました」

――わかります。私も中3で『Kid A』を聴いたとき〈意味分からん〉と思いました。

「高校生の僕にはちょっと早すぎた。大学1年生のときに音楽の趣味が合う友達ができたんです。彼がレディオヘッドをめちゃくちゃ薦めてくるから、また聴き直したら『In Rainbows』がすごくよくて。そっから1年間はレディオヘッドしか聴いていなかった。何がいいかわからないけどなんかいい、というのがずっと続いていて、大学2年生の頭くらいに完全にわかった感覚が来ました。『Kid A』も今では好きです。あと、『The King Of Limbs』大好きなんですよ」

――僕もです。『The King Of Limbs』が実はすごいことやってんじゃないかとずっと思ってて。

「そうなんですよね。それこそ肉体的というか、ダンスミュージックですよね」

 

リアルな本当の東京像を描きたい

――orlikの音楽って基本的にジャンルレスというか、何かに縛られないものだと思うんですけど、それを踏まえて、自分の音楽スタイルを一言で言うとすれば?

「電子音楽を基調にしつつ、その曲を作っている時に聴いていた音楽の影響が闇鍋みたいに入ってくる感じです。最終的には〈美味しい闇鍋〉になるのが理想ですね」

――なるほど。情報量は多いのに、ただ雑然としているわけではなくて、スッと入ってくる。そのまとまり方がすごく気持ちよかったです。出身は東京ですか?

「福岡生まれですが、小学校に入る時には東京に引っ越してきて、それ以来ずっと東京です」

――そのせいか、今の東京っぽさがすごく音に出ている気がしました。それはただのオシャレさとは違う。相対的には豊かだけど同時にヒリヒリしていて、虚しさや焦りも含んだ東京の感覚です。情報量が多いのにスッと入るのも東京っぽい。orlikは東京をどう見ていますか?

「今の東京って、海外からもサブカルチャーの中心地として見られていると思うんです。ボカロやアニメのイメージが強い。でも僕は、〈本当の東京像〉みたいなものに惹かれています。

たとえば渋谷の終わらない工事とか、無機質なビル群の冷たさって、すごくかっこいいと思うんですよ。今は東京の内向的な側面が注目されているけど、僕は見た目や外装のクールさが好きで。その風土感を音楽に結びつけたい気持ちはずっとあります」

――風景への意識が強いんですね。

「アニメも大好きなんです。『AKIRA』が描いていた〈ネオ東京〉は想像上のディストピアで、それはそれでとてもかっこいい。ケン・イシイさんが90年代にやっていたテクノにも、『AKIRA』的な未来のイメージを感じます。でも、実際の2025年に生きている僕は、現実のここにある東京を描ける。もっとリアルな東京像を描きたい」

 

工事中の渋谷はサイバーパンクっぽくてかっこいい

――『New contemporary』というタイトルもそうした今の現実感に通じますよね。

「ビル・エヴァンスの『New Jazz Conceptions』をもじっているんですが(笑)、でも、現代を表す意識はありますね。今の東京、東京に生きている20歳の日本人の自分を出す。その意識がめちゃくちゃあります。

その国の風土感でしか作れない音楽が絶対あると思っていて、ムームの音楽なんてアイスランドでしか作れないものじゃないですか。トーキング・ヘッズもアフリカ音楽の影響があるけど、やっぱりニューヨークのバンドだし」

――トーキング・ヘッズといえば今回のアルバムには『Remain In Light』の感触があります。『Remain In Light』にとってのニューヨークと、『New contemporary』にとっての東京が相似関係にある感じがして。

「まさに、そうだと思います」

――今の東京や日本にネガティブなイメージを持つ人も少なくないと思うけど、話していて、想像以上に現状にポジティブな印象を受けました。

「僕はめちゃくちゃポジティブな人間ですね。ネガティブな気持ちはあまりないかもしれない。広告主義みたいな内実よりも、工事中の渋谷の外装がサイバーパンクっぽくてかっこいいじゃん、という感覚を大事にしています」

 

残響レコードの冷たい都市感にヒップホップやR&Bを混ぜたら

――その一方、リリックにはネガティブな描写が多いですよね。“iAmAcitykidiliveintheplAzAhotel”の〈朝起きて、僕に関する悪いニュースが待っている(I woke up in the morning to find my bad news.)〉とか、“Youth terrorism”の〈天国で起きていた/残酷なテロリズム〉とか。ポジティブな人柄と少しギャップを感じたんですが、歌詞と自分の意識の関係についてはどう思いますか?

「歌詞にあまり重点を置いていないんだと思います。楽曲を組み立てる上でのパーツのひとつとして歌詞を考えていて、レゴブロックの一つのブロックみたいな感覚。ドイツのアーティストのナンセンスな歌詞が好きだったり、レディオヘッドが帽子の中に入れた言葉をシャッフルして並べた、みたいなアプローチに興味があったりするんですが、僕の歌詞もそれに近い。自分の中に曲の世界があって、その世界で起きたことをメモして歌詞に昇華させる感じです」

――曲の世界がまずあって、そこからイメージやストーリーを抽出するんですね。

「そうですね。“iAmAcitykidiliveintheplAzAhotel”については絵本から着想を得て書いたので、童話のイメージがありました。〈僕に関する悪いニュース〉みたいなフレーズも童話の一部で、自分の感情を表しているわけではないですね。あと、小説も好きなので、その影響も出ます」

――小説から言葉を拾うこともある?

「あります。読んでいて言い回しがいいなと思ったら写真を撮って、もじったりして使います。最近だと芥川の『地獄変』や坂口安吾の短編がよかったです。カフカの言い回しも好きですね。

あと、ベタなチョイスですが、オーウェルの『1984』に出てくる歌の歌詞がすごくよくて、そういうところからも拾ったりしますね」

――“Youth terrorism”はリリックもいいですが、途中の転調、カウントが入ってガラッと気配が変わるところがとてもかっこよかったです。

「あそこはモロにPeople In The Boxの影響です。“旧市街”という曲の、サビ前の怒涛のキメからカウントが入ってサビへ、という構造をめちゃくちゃ参照しています」

――そう言われると、スネアの音とかも全体的にPeople In The Boxっぽい。

「残響レコードが好きで、“5O”という曲は残響のバンドをリファレンスにしてます」

――ちょっとポストロックっぽいギターリフも入ってるし。

「僕は残響レコードの音楽ってすごい東京を表してると思っていて。冷たい都市感が出ているんですよ。そこに、モブ・ディープとかア・トライブ・コールド・クエストとかローリン・ヒルとか、ブラックミュージックの影響を混ぜたら今までにないものになるかなと」

 

誰かのフォロワーにはなりたくない

――2000年代の残響レコードとヒップホップの組み合わせは面白い! それこそ今の東京っぽいですね。“5O”のラップは誰の声?

「Logicに入っている海外の声のサンプルをひたすら細かく貼り合わせて、ラップっぽく聴こえるように構成しました。歌詞の意味も通っているかわからないけど、見てくれがかっこいいからいいという感覚で。ラップしている人が明らかにいるのにフィーチャリングがいないという面白さもあるし」

――ジャズやヒップホップもずっと好きなんですか? すごく血肉化しているように聞こえます。

「ジャズは結構最近なんです。黒人音楽をちゃんと聴き始めたのは大学1年生の夏休み明け。最初はレディオヘッドがあって、そのあとUKレイヴとか、白人の電子音楽にどっぷりハマって。それが一旦終わって、ブラックミュージックのフェーズに入った感じです。マイルス・デイヴィスも最初は『Kind Of Blue』を聴いてまったくわからなかった」

――それにしては血肉になっている感じが伝わります。吸収が早いんですね。

「レコーディング中に東海岸のヒップホップを聴いていたので、その反映もあります。“5O”がまさにそういう曲ですけど」

――ボーカルの位置づけはどう考えていますか? 楽器として使っている感じがして。

「まさにその通りで、楽曲のパーツの一部として声を使いたかった。最初のデモは〈インストかというくらい声が引っ込んでいる〉と言われました。レディオヘッドの『Kid A』も『The King Of Limbs』も、口ずさめるメロディはないけど気持ちいい、あの感じを目指していました。ただ最近は、メロディをもっと前に出した曲もやってみたくなっています」

――今作だと“iAmAcitykidiliveintheplAzAhotel”はメロディが立っていて、星野源っぽさも感じました。

「あぁ、わかります。あの曲は少しキャッチーなものを挑戦したかった」

――同時に、長谷川白紙や君島大空のようなフィーリングもあるし、ハイパーポップっぽさもある。でも、その流れとも違うような、もっと別のものに更新しようとしている意思を感じるんですよね。

「それはとても嬉しいです。誰かのフォロワーになることが一番避けたいことなんです。影響を受けるのはいいけど、自分のやりたいこととどうハイブリッドさせるかが大事で。R&Bをおしゃれに聴かせるバンドやアーティストも増えましたけど、そこに新しさはないんじゃないかと思ってしまいます」

 

今はやりたいことを全部やりたい

――今作はアルバムとして一体感がありますよね。統一感のある作品を最初から出しているのも、今までのアーティストと違うことしたい気持ちの表れなのかなと。

「元々狙ったわけではないです。デモがどんどん溜まってきたので、そろそろまとめられるんじゃないかと思ったのがきっかけで。

ただ、シームレスな繋がりはめちゃくちゃ意識しました。プログレの影響があって、ピンク・フロイドやイエスのようにアルバム一枚で一つの曲、という意識です。ピンク・フロイドの『The Dark Side Of The Moon』をプラネタリウムで体験したとき、あの40分が夢のような時間で。曲が繋がることの心地よさをそこで強く感じたんです」

――レディオヘッド、ケン・イシイ、ビル・エヴァンス、トーキング・ヘッズ、残響レコーズ、モブ・ディープ、ピンク・フロイド……固有名詞がとっちらかっていて楽しいです(笑)。

「音楽を聴くのが本当に楽しいんですよね(笑)」

――今後どんな音楽家になりたいですか?

「将来どうしたいかは正直まったく考えていなくて。今は大学2年生の20歳で、好きなことを好きなだけやれる時期にいると思っています。この先そうも言ってられない時期が来ると思うんですよ。それまでにどれだけやりたいことをやって、どれだけリスナーを増やせるか。その時期が来たらその時に考えるというマインドなので、今はとにかくやりたいことを全部やりたい。たくさんの人に聴いてほしいという気持ちは本当にあります」

――不特定多数の人に聴かれたいという欲求もあるんですね?

「めちゃくちゃあります。面白い音楽をやっていると思って作っているから、どうですかという感じで、いろんな人に聴いてほしい。だからもっとがんばりたいですね」

 


RELEASE INFORMATION

orlik 『New contemporary』 APOLLO SOUNDS(2026)

発売日:2026年3月18日(水)
品番:APLS2604
価格:3,300円(税込)

TRACKLIST
1. New contemporary
2. AUX-PC
3. iAmAcitykidiliveintheplAzAhotel
4. PRET-A-PORTE
5. 5O
6. Hanky-Panky
7. Youth terrorism
8. 非O
9. Humanistic approach
10. OLDTAPE
11. Another Killer
12. untitled(2005,19)

■全曲
作詞:中島輝智
作曲:中島輝智
アレンジ:中島輝智

■参加ミュージシャン
Track 1 北川大智(ドラムス)
Track 7 山田隼也(エレクトリックベ-ス/ドラムス)

レコーディング&ミックスエンジニア:セガワロク(FREEDOM STUDIO INFINITY)
マスタリングエンジニア:木村健太郎

 


PROFILE: orlik
orlik(読み:オルリック)は中島輝智(読み方:なかしまてるとも)のソロプロジェクト。2005年、福岡県福岡市生まれ。音楽を愛する家族の影響を受け、幼少期よりクラシック、エレクトロニック、ロック、ポップスなど幅広いジャンルに触れながら育つ。その多様な音楽体験が、後の創作活動における柔軟な表現の基盤となる。主な制作ジャンルはオルタナティブ、インストゥルメンタル、エレクトロニカで、シンプルな構造の中に独自の質感や旋律を組み込む作風が特徴。2025年8月には、初のアルバムとなる『New contemporary』のデモを完成させた。同作を契機に、東京を拠点として本格的なアーティスト活動を開始した。現在は引き続き新作制作を進めながら、作品発表の幅を広げている。
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