
残響レコードの冷たい都市感にヒップホップやR&Bを混ぜたら
――その一方、リリックにはネガティブな描写が多いですよね。“iAmAcitykidiliveintheplAzAhotel”の〈朝起きて、僕に関する悪いニュースが待っている(I woke up in the morning to find my bad news.)〉とか、“Youth terrorism”の〈天国で起きていた/残酷なテロリズム〉とか。ポジティブな人柄と少しギャップを感じたんですが、歌詞と自分の意識の関係についてはどう思いますか?
「歌詞にあまり重点を置いていないんだと思います。楽曲を組み立てる上でのパーツのひとつとして歌詞を考えていて、レゴブロックの一つのブロックみたいな感覚。ドイツのアーティストのナンセンスな歌詞が好きだったり、レディオヘッドが帽子の中に入れた言葉をシャッフルして並べた、みたいなアプローチに興味があったりするんですが、僕の歌詞もそれに近い。自分の中に曲の世界があって、その世界で起きたことをメモして歌詞に昇華させる感じです」
――曲の世界がまずあって、そこからイメージやストーリーを抽出するんですね。
「そうですね。“iAmAcitykidiliveintheplAzAhotel”については絵本から着想を得て書いたので、童話のイメージがありました。〈僕に関する悪いニュース〉みたいなフレーズも童話の一部で、自分の感情を表しているわけではないですね。あと、小説も好きなので、その影響も出ます」
――小説から言葉を拾うこともある?
「あります。読んでいて言い回しがいいなと思ったら写真を撮って、もじったりして使います。最近だと芥川の『地獄変』や坂口安吾の短編がよかったです。カフカの言い回しも好きですね。
あと、ベタなチョイスですが、オーウェルの『1984』に出てくる歌の歌詞がすごくよくて、そういうところからも拾ったりしますね」
――“Youth terrorism”はリリックもいいですが、途中の転調、カウントが入ってガラッと気配が変わるところがとてもかっこよかったです。
「あそこはモロにPeople In The Boxの影響です。“旧市街”という曲の、サビ前の怒涛のキメからカウントが入ってサビへ、という構造をめちゃくちゃ参照しています」
――そう言われると、スネアの音とかも全体的にPeople In The Boxっぽい。
「残響レコードが好きで、“5O”という曲は残響のバンドをリファレンスにしてます」
――ちょっとポストロックっぽいギターリフも入ってるし。
「僕は残響レコードの音楽ってすごい東京を表してると思っていて。冷たい都市感が出ているんですよ。そこに、モブ・ディープとかア・トライブ・コールド・クエストとかローリン・ヒルとか、ブラックミュージックの影響を混ぜたら今までにないものになるかなと」

誰かのフォロワーにはなりたくない
――2000年代の残響レコードとヒップホップの組み合わせは面白い! それこそ今の東京っぽいですね。“5O”のラップは誰の声?
「Logicに入っている海外の声のサンプルをひたすら細かく貼り合わせて、ラップっぽく聴こえるように構成しました。歌詞の意味も通っているかわからないけど、見てくれがかっこいいからいいという感覚で。ラップしている人が明らかにいるのにフィーチャリングがいないという面白さもあるし」
――ジャズやヒップホップもずっと好きなんですか? すごく血肉化しているように聞こえます。
「ジャズは結構最近なんです。黒人音楽をちゃんと聴き始めたのは大学1年生の夏休み明け。最初はレディオヘッドがあって、そのあとUKレイヴとか、白人の電子音楽にどっぷりハマって。それが一旦終わって、ブラックミュージックのフェーズに入った感じです。マイルス・デイヴィスも最初は『Kind Of Blue』を聴いてまったくわからなかった」
――それにしては血肉になっている感じが伝わります。吸収が早いんですね。
「レコーディング中に東海岸のヒップホップを聴いていたので、その反映もあります。“5O”がまさにそういう曲ですけど」
――ボーカルの位置づけはどう考えていますか? 楽器として使っている感じがして。
「まさにその通りで、楽曲のパーツの一部として声を使いたかった。最初のデモは〈インストかというくらい声が引っ込んでいる〉と言われました。レディオヘッドの『Kid A』も『The King Of Limbs』も、口ずさめるメロディはないけど気持ちいい、あの感じを目指していました。ただ最近は、メロディをもっと前に出した曲もやってみたくなっています」
――今作だと“iAmAcitykidiliveintheplAzAhotel”はメロディが立っていて、星野源っぽさも感じました。
「あぁ、わかります。あの曲は少しキャッチーなものを挑戦したかった」
――同時に、長谷川白紙や君島大空のようなフィーリングもあるし、ハイパーポップっぽさもある。でも、その流れとも違うような、もっと別のものに更新しようとしている意思を感じるんですよね。
「それはとても嬉しいです。誰かのフォロワーになることが一番避けたいことなんです。影響を受けるのはいいけど、自分のやりたいこととどうハイブリッドさせるかが大事で。R&Bをおしゃれに聴かせるバンドやアーティストも増えましたけど、そこに新しさはないんじゃないかと思ってしまいます」