H ZETTRIOのニューアルバム『QUESTUNE』がリリースされた。本作には2025年に配信リリースした12曲に、新曲1曲を加えた全13曲を収録している。3人が描き続ける音楽の地図はさらに大きくなり、リスナーをまた新たな冒険へと導いてくれる――そんなワクワクが詰まった作品だ。そんな新作と、このたびアナログ盤がリリースされた前作『Dosukoi SS』、前々作『Dynamics』についてライター土佐有明に綴ってもらった。 *Mikiki編集部

音源でしか実現しえない音像を創り出す
2024年6月、東京・渋谷クラブクアトロでH ZETTRIOのライブを観た。その時の彼らのパフォーマンスの印象をひとことで記すならば、生粋のエンターテイナーにしてサービス精神の塊、ということになるだろうか。特にピアノのH ZETT Mは、鍵盤を肘で叩き、コミカルな動きでステージ上を歩き回り、しまいには椅子の上に立ってショルダーキーボードを弾きまくっており、観客も大歓声で応えていた。
一方、H ZETTRIOの11枚目のアルバム『QUESTUNE』は、ちょっとライブとは趣きが異なっている。スタジオ盤ならではの音響的実験やポストプロダクションの妙、スタジオワークの結晶によって、音源でしか実現しえない音像を創出しているのだ。実際、本作のコンセプトは〈QUEST MAP(音の探検図)〉であり、納得がいくまでひとつひとつの音をスタジオで磨き上げていったことが窺える。
具体的に個々の楽曲を見ていこう。1曲目“Mukashi Mukashi”は短いイントロダクションだが、ローファイでくぐもった音像がハードボイルドな雰囲気を醸す。2曲目“Questune”ではドラムのスネアに空間系のエフェクトがかかる瞬間があるし、最後のピアノのフレーズには曲の余韻を残すかのようにディレイが施されている。
3曲目“Keep on Going”や10曲目“夏のGravity”はドラムがヒップホップのそれを想わせるラギッドなブレイクビーツを叩きだしているし、7曲目“Mangalitza”では突然全体にフィルター処理が施されている。9曲目“Growin‘”の冒頭はスクラッチの音で始まるという凝りようだ。
こうした音響的実験はリスナーによっては気付かないほど細かなものかもしれないが、これらはいわば料理におけるスパイスのようなもので、かかっているといないとでは大違い。たとえ細部に気付かなくても、全体の印象はまるで変わって聞こえるはずである。なお、H ZETT NIREのベースは音響的処理を経た形跡はほとんどないが、野太くメロディックなラインを繰り出し、自由に動き回るピアノを更にドライブさせる役割を果たしている。
なお、曲調はいつも以上に様々なタイプの曲が並んでいる。ジャズロック、ラテンジャズ、アフロビート、ゴスペル、フュージョン、ファンク、R&B、ラグタイム、ブギウギなど、まるでバリエーションの見本市。いつどんな音楽的要素が飛び出してくるか分からない、闇鍋的な面白さが本作を下支えしている。そう言っていいだろう。
もうひとつの目玉が、彼らの代表曲“Dancing in the mood”を再解釈した“Mood in the Dancing feat. Yucco Miller”だ。ユッコ・ミラーの全身で歌っているようなサックスをフィーチャーし、ポリリズムやラテンのフィーリングも滲ませるこの曲は、4人が持てる力をすべて出し切ったような熱気にあふれており、現在のH ZETTRIOが到達したひとつの極致と言えるのではないだろうか。その“Mood in the Dancing feat. Yucco Miller”で上気したリスナーの耳を冷ますかのように、最後は“All Will Be Fine”という静謐で抒情的なバラードでアルバムは幕を閉じる。構成も完璧である。