〈ハーデスト・ワーキン・マン〉といえばジェイムズ・ブラウン、しからばH ZETTRIOは〈ハーデスト・ワーキン・ピアノ・トリオ〉である。
メンバーはH ZETT M(ピアノ)、H ZETT NIRE(ベース)、H ZETT KOU(ドラムス)という不動の3人。この2021年にもコンセプトアルバム『SPEED MUSIC ソクドノオンガクvol.3』、『同vol.4』、『同vol.5』を発売し、H ZETT Mはさらにソロアルバム『記憶の至福の中に漂う音楽』、『アニメ「幼女社長」オリジナルサウンドトラック』をリリースした。
そんな3人が来たる2022年元日、オリジナルアルバムとしては『RE-SO-LA』以来2年ぶりとなる『トリオピック~激闘の記録~』をリリースする。2020年に配信シングルとして登場した12曲をベースに、〈EXCITING FLIGHT盤〉には“Never Ending (REMIX)”、〈DYNAMIC FLIGHT盤〉には2020年に決行した東京公演のライブ音源(“Drum solo~Workout(「年末大演会2020 先駆け2021トリオピック前哨戦」)”)をボーナストラックとして収録している。
また、それに先駆けて、2021年12月20日(月)には東京・Bunkamuraオーチャードホールで〈H ZETTRIO LIVE 2021 -激闘のレコ発トリオピック-〉を開催。これは同アルバムのレコ発ライブとしては唯一の公演であるため、絶対に見逃せないものになっている(会場では『トリオピック~激闘の記録~』を先行販売)。
新型コロナウイルスの猛威のなか、いち早く無観客配信ライブ、有観客ソーシャルディスタンスライブ、無料配信ライブなどに取り組み、36か月連続の新曲シングルリリース(いずれもiTunesジャズチャート1位)も継続中の3人のアティテュードは、取材中にKOUが語った〈自粛はするけど委縮はしない〉というフレーズそのもの。この創造力、エネルギーはどこから湧いてくるのか? 音楽シーンを泳ぎ続け、走り続けるH ZETTRIOに話を訊いた。
自粛生活、オリンピックの延期、何もかもイレギュラーな2020年
――『トリオピック~激闘の記録~』、タイトルもジャケットもすごく勇ましいですね。
H ZETT M「2019年ぐらいから〈2020年はニレニレイヤーだ〉と言っていたんですが……」
H ZETT NIRE「(笑)」
H ZETT KOU「〈トリオピック〉という言葉が出てきたのは2019年の末だったと思います。〈来年、東京オリンピックがあるから乗っかっちゃおう〉と。そのころはまだ(オリンピックを)2020年にやるということだったから、それなら先にやっちまおうぜというので〈先駆けトリオピック〉というタイトルのライブもしていたんですよ。でも結局オリンピックが延期になって、アルバムも本来は今年の元旦に出せればよかったんですけど、それも延期になって。それも含めて〈激闘の記録〉ということですね。まさに激闘の2年間でした」
M「このアルバムには2020年の1月から12月にかけて発表した曲が入っています。月イチで配信をしている時から、アルバムが出るだろうという予測のもとで曲作りをしていました。だから、出来た曲を並べてみたら、こういうものになったという感じでもあるんです」
――Mさんがおっしゃったように、今作には月イチで配信されてきた楽曲がアルバムに収められていますが、単にそれを1月分から順に入れているわけではなくて、すごく起承転結を感じさせる、美しい曲の並びだと思いました。とくに本編ラストの“Silent Snow”は、〈絶対に何があってもこの場所しかない〉という印象を受けました。
KOU「〈H ZETTRIOのトリオピック〉を1枚のアルバムとして考えるのなら、こういう流れしかないという感じですね。〈こういった順番ではどうですか?〉とメンバーでLINEしながら、最終的に決めました」
M「〈トリオピック〉というタイトル名がまずありましたので、だいたいこんな感じかなという感じで曲を配置して」
――2020年当時は、新型コロナウイルスというものがとにかく未知の存在で、ワクチンを接種する未来がやってくるなどと想像できるわけもなく、買い物に出るのも命がけだった……というのが僕の実感です。〈コロナ禍〉という言葉もまだなくて、好きなミュージシャンやタレントが急死したり、とにかく得体のしれないヤバいものでした。
NIRE「本当に最初の頃は何だかよく分からなかったじゃないですか。最初の緊急事態宣言が出た時(2020年4月7日)は、〈家から出ちゃダメだ〉みたいな感じだった。そこ(取材場所の壁)に前のツアー(〈RE-SO-LA Tour 先駆けトリオピック2020〉)のポスターが貼ってありますけど、予定されていたライブが全然できず、ただ家で自粛生活をしていて、レコーディングに関しても、最初の頃は〈そもそもできるのか?〉みたいな不安はありました。
でも、とりあえず〈やってみるか〉ということになって、ライブができないならレコーディングでも、とやってみたらできた。その辺からある程度自分の中で不安みたいなものの範囲が決まったというか、狭まった感じがしました。レコーディングできるかどうかがひとつの基準ではあったんですよ。だからツアーの中止は残念でしたけど、録音して、それを人に届けることができる、配信できるのは心の支えになりました。気持ちを切り替えていこうということでどんどんレコーディングしていきましたね」
M「(新型コロナウイルスは)世界規模のことですからね……ただ個人としては逆境になるほどエネルギーが出る体質ではあるんですよ。なので、(コロナ禍であっても)創作のペースは変わらなかったですね。関係ないと言っていいのかわからないですけど、曲は出来続けました」
KOU「ツアーが半分もできなくて、中止になって。とても残念でしたけど、Mさんが言ったように、ある程度負荷があったほうが結果的にいいものが作れたりすることはあるんです。3人で集まるのさえ躊躇してしまう時期もありましたが、個人的にはとりあえず前向きに、〈自粛はするけど委縮はしない〉という心づもりでしたね」