振り返られない80年代後半の独特な音
――原曲のリリースは1990年ですが、サウンドは過渡的ですよね。
「1990年的ではあるけど90年代にいききってない(笑)。いわゆる80sというと、80年代前半のテクノポップやシンセポップのようなサウンドを想起するけど、80年代も後半にもなると楽器自体が変わってくる。ハウスやテクノといったダンスミュージックの影響が出てきたり、セカンド・サマー・オブ・ラブ的なサイケデリックな匂いも薄らあったり、同じ80年代でも前半とはまったく違いますよね。80年代といって主に振り返られるのは前半から中盤だけど、後半のサウンドは独特なわりにほとんど光があたらないんですよ」
――ザ・ミッションとか。
「ウェイン・ハッセイ、顧みられないね(笑)。ザ・シスターズ・オブ・マーシーならまだしも。たしかにザ・ミッション、一瞬ビッグだったもんね。ネオサイケからハードロックに移行するグラデーションみたいな──」
――あのニュアンスは置き去りになっている気がします。ただ、それを即座に理解していただけるのも小山田さんらしいと思います。
「それは当時を知っているからだよ。でもザ・ミッションの話、いま誰もしてないと思うよ(笑)。若い子なんかはとくに」
――細かいディテイルはいくらでもあると思うんですよ。
「ひたすらあるよね」
AI時代のヒプノシス的発想
――『Refractions』はその点にも意識的だと思いました。陽水さんのカバーもそうですが、アート・リンゼイ、ザ・モノクローム・セットのビド、ショーン・レノン、坂本慎太郎らとの共作を通して他者性と向き合おうとしているように感じました。サウンドもあえて記号的であることで外部をとりこもうとしていると思います。
「うん。まさに他者を媒介に自己を屈折させるようなコンセプトではあります。ここ2作がわりと内省的というか、シンガーソングライター的な内容だったので、ちょっと違う感じにしたいという思いがあり、ほかの人が作った言葉なり歌なりを歌い、ビドやアートさん、ショーンにも歌ってもらったというのもあります。
あとはAIですね。AIを、自己を屈折させる媒介として扱っているんです。そうして、なるべく自己完結しない方向で考えるということだよね」
――プロンプトの結果、意図した答えではなくとも、自己が屈折したものとして受容してみるということですね。
「受容したり受容しなかったり(笑)。AIは自己が拡張したもの、自分の延長と思う一方、AIを使えば、考えを外に出していくらでも分岐させられる。その一部をこちらに採用したり、あちらで取り込んだり、さらに外に出したり、それを編集したり、一時はそういうことをひたすら繰り返していました」
――可能世界の編集といった感じですね(笑)。個別の楽曲に話を映すと、ショーンさんとの“Aeons”のMVのモチーフはシド・バレットですか?
「よくわかりましたね」
――シド・バレットとピンク・フロイド『Ummagumma』の合わせ技だと思いました。
「『Ummagumma』はわからないけど、シド・バレットのつもりでした」
――『Ummagumma』のジャケットといったのは合わせ鏡という意味です。でもなぜシド・バレットなのでしょう。
「『The Madcap Laughs』のジャケットに映っている床の紺と黄色の縞模様が好きなんですよ(笑)。花が刺さっている花瓶があって、そこにクラウチングスタートみたいな格好でシド・バレットが蹲っている。今回は抽象的な幾何学模様がビジュアルのテーマなのでこれでいこうと。あれってヒプノシスだよね」
――ヒプノシスのアートディレクションについてはどう思われますか。
「好きなのがたくさんあります。今回、僕がやったのはデザインというよりは写真、イメージの生成なんですね。その考え方自体がヒプノシス的といえるかもしれない。なんらかのオブジェクトや世界を作り、それを撮影する。それをヒプノシスは数千万円かけて実写でやっていたわけですよね」
――工場の上空に豚のバルーンを飛ばすとか(笑)。
「砂漠に椅子のセットを作るとかね」
――ヒプノシスのストーム・トーガソンが手がけた、カナダ人の歌手、ブリンカー・ザ・スターの『August Everywhere』のカバーは荒野に白鳥の氷像を据えた写真ですが、白鳥の氷像は実物だったそうです。
「いまヒプノシスがいたらAIを使うと思う?」
――あえて使わないんじゃないですか。
「10代や20代ならやっているかもよ(笑)」
音楽と映像と陰謀論の結びつき
――AIネイティブのヒプノシスというのもすごいですね(笑)。そういえば“Twisting & Glistening”の配信ジャケの真ん中の捻れたオブジェ、レッド・ツェッペリンの『Presence』で家族が囲んでいる謎の物体と似ていませんか。あれもヒプノシスですが。
「(笑)。『Fantasma』のボーナストラックに “Typewrite Lesson”という曲があるんですけど、アルファベットの3文字をタイプライターで打つというようなコンセプトで、地味な曲なんだけど、サブスクでなぜかすごく再生されているんですね。なぜだろうと思って調べたら、TikTokとかYouTubeショートでバズったらしい。YouTubeにもいろんな人が音に映像をつけた解説動画があがっていて、それらが陰謀論と結びついているんです。3文字に〈洗脳〉〈監視社会〉〈アメリカ崩壊〉に関する暗号が散りばめられていると。すでに定説化しつつある(笑)」
――都市伝説ですね。“天国への階段”を逆再生すると悪魔のメッセージが聞こえるというような。
「〈ポール(・マッカートニー)は死んだ〉みたいなやつとか、あったよね」
――SNSの余波で思わぬものが思わぬところで、それまでとまったく異なる文脈で再生されることが頻発していますよね。ことにCorneliusはジングル的なものがミーム化していくにあたって適応しやすい気がします。瞬間的なポップさと強度が尋常ではないですし。
「VHSの時代からやっているくらいだから、画に合わせて使いやすいといえば使いやすいかもしれないよね(笑)」