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還暦を控えるいま挑むダンサブルな音楽

――『Refractions』の話に戻ると、夢や眠りがあり、そこから覚醒していくような志向性といいますか、最後の“溶解線”で現実に戻っていくような流れを感じました。

「“溶解線”はどちらかといえば、現実と非現実の境界線がさらにわからなくなっていく感じに近いのかもしれない」

――『Sensuous』を思わせる風鈴の音が鳴っていたのにカーム(calm)な印象をおぼえたせいかもしれません。

「あの風鈴の音は『Sensuous』と同じ音源だね」

――なにか意図はありますか。

「特別な意味はないんだけど、日常に、ニュートラルな感じに戻るということに近いのかもしれない。アルバムが始まって、違う視点が現れてくるというか、没入した世界から出ていく。そのようなメタファーとして風鈴の音を使っています」

――それを私は目覚めとして受けとったのかもしれません。

「それはあるかもしれないね」

――全体的にダンサブルな仕上がりですが、その点にはこだわりをもって、ということですね。

「ここ2作、アンビエントな、インナー系の内省的なアルバムだったからね。……もうすぐ60なんですよ」

――60というのは?

「年齢(笑)。いま57なんですけど、あと何年かで60歳になる。そうすると、こういうビートがしっかり入った曲を演奏できる期間も、せいぜいあと10年か15年だと思うんです」

――年齢は関係ないですよ(笑)。ザ・ローリング・ストーンズだってまだ現役です。

「ストーンズは特殊な例じゃない。そういうことを考えると、ここらへんでダンサブルな曲をやっておいたほうがいいと思ったの。ライブでとりあげる曲でリズムが強いものが昔の曲ばっかりになってきたのもあります。なにより体が動くうちにそういうことをやっといたほうがいいなということですね(笑)」

――別に小山田さんが踊るわけじゃないじゃないですから。

「踊らなくても、演奏も大変だよ。ほら、バンドでガンガンやるうるさい曲とか、70になるとしんどいんじゃないかという予想ですよ(笑)」

――先ほどから70を念頭に置かれた発言がつづいておりますが(笑)。

「男性平均年齢が70何歳かじゃないですか

※厚生労働省による最新の統計によると日本人男性の平均寿命は男性が81.35歳、女性は87.33歳

――寿命の話ですか。

「寿命の話です。信藤さんだって75で亡くなったし、坂本龍一さん、(高橋)幸宏さんも70代前半で亡くなられました。そういう出来事がひとつひとつ残るんです。自分が70のときはどうなのだろう、と考える機会が増えるんですよ」

――その結果、ダンサブルなサウンドは本作で取り組むべきだと判断されたわけですね。

「ダンサブルというよりは体が動くような、ということですね。こういう音楽が好きだというのも大前提です。この先どうなるかはわからないけど、40代で『Mellow Waves』や『夢中夢』は老成感としては早すぎたかもしれない(笑)」

――小山田さんの老成のはじまりは『Point』(2001年)なんじゃないですか。

「それはしょせん若造が想像する老成じゃないですか」

――もちろんそうです。翻って考えるに、いよいよ老成がリアリティを帯びつつあるということですか。

「いや、まだリアルになってなくて、でもこの先絶対そっち(老成)もありだし、そっちに興味をもつことも絶対出てくる、ただ早い段階でやるべきはこっち(体が動くほう)かな、ということです(笑)」

 

作風がかたまると壊したくなる

――妙に納得してしまいました(笑)。音作りに耳を向けるとシンベ(シンセベース)が効いていますよね。もうシンベとはいわないですか(笑)?

「シンベっていいますよ(笑)」

――ライブでは大野由美子さんがシンベを弾かれる場面もありますが、そこからのフィードバックもありそうな気がしました。

「ダンスではやはりベースが重要なんですよね」

――『夢中夢』に較べると音がたくさん鳴っています。

「そうですね。作風みたいなものがかたまってくると壊したくなるんです」

――ツアーがありますが、ダンサブルな楽曲は再現性の面では不安はないですか。

「難しいけど、ライブでやりたいと思って作った曲だし練習しているので大丈夫です(笑)」

――メンバーのみなさんもベテランの域ですものね。

「平均年齢はまだ50代だけど、もうすぐ……」

――小山田さんとはここ数年、年齢の話をしている気がします(笑)。

「気にしすぎかもしれませんが、日に日におじさんみも深まってきていますから。実際、初老じゃないですか(笑)」

――持続することとフレッシュであることの両立はとても難しいことだとは思います。

「ね。ストーンズのメンバーもポールも80代だけど、あれはもう伝統芸能だから。やってくれているだけでありがたい。あっ、でも、テリー(・ライリー)さんがいた。91歳だよ」

――“溶解線”のシタールはテリーさんへのオマージュではないですか。

「あれはテリーさんを意識したものではないけど、テリーさんはすごく好きだし、去年の90歳記念ライブもすばらしかった。先日野外フェス〈Festival de FRUE〉でも拝見しましたが、やっぱりすばらしかった。いまでも毎日、鍵盤を弾いたり、曲を作ったり、練習したりしているみたいだから。ロックミュージシャンはまだ80代だけど、ジャズなんかだと90代の現役という例もあるからね」