初の自伝的エッセイ「ここで1球チェンジアップ」を先週7月14日に刊行した漫才コンビ・エバースの佐々木隆史。本書についての記者会見・取材会が本日7月23日に東京・芳林堂書店 高田馬場店で開催された。ここでは、代表質問や記者の問いに対する答えをたっぷりとお届けしよう。

初の著書を刊行した現在の心境についてはこう語った。
「まだ『M-1(グランプリ)』で優勝したわけでもないので、エッセイなんか書いて偉そうじゃないかなと思ったんですけど、発売されて、すごくいろんな人から反響を頂いて、〈読みました〉という話もよく聞くので、結果、書いてよかったなって思いました」
発売から約1週間、相方の町田和樹は本書を読んだのかというと……。
「町田はまだ読んでないですね。町田って僕に興味ないので。読んでくれないと思います」
読んでいない町田ではなく、すでに読んだ読者の感想は?
「仕事で関わるスタッフさんにはけっこう言われましたね。レギュラーでやってるラジオのスタッフさんとか、ライブや劇場でお世話になってるスタッフさんとかで、〈あっ、この人が買ってくれたんだ!〉みたいな。そんなに絡みがない人でも〈読みました〉と言ってくれました。〈1日で読んじゃいました〉とか〈すぐ読んじゃいました!〉ってみんなに言われて、〈内容、薄かったのかな?〉とはちょっと思いましたけど、すぐ読めるっていいことなのかなと思って」
書き下ろしのエピソードが多数収録されているが、多忙ななかでの制作についてはどう感じていたのだろうか?
「いまちょうど単独ライブの全国ツアー中で、これを書きながら単独ライブの新ネタも作る同時進行の時期もありました。いっぱいいっぱいになっているときに楽屋とかで相方の町田がずっと寝てたりしてたので、普通に〈解散しよかっかな!〉と思ったぐらいムカつきました」
執筆業に挑戦した手応えを聞いた記者の質問には、このように答えた。
「手応えは正直まったくなくて。もちろん期限があったので、そこまでになんとか書き切んなきゃっていう気持ちで書いてて。途中で元・日向坂(46)の影山優佳さんのエッセイをたまたまSNSで見かけて読んだんですよ。そしたら、めちゃめちゃ頭いい人の文章というか、〈頭いいな〜!〉っていうすごい言い回しをしてて。そのあと自分のやつを読んだら、めっちゃまっすぐそのまま書いてたので、ちょっと恥ずかしかったんです。けど、逆に〈読みやすい〉って言われるので、結果オーライかなって感じです」
今後も書き手としての仕事には興味があるのだろうか?
「これはエッセイなので、自分にあったこととか自分の考えてることとかを書いただけなんですけど、最近だと又吉(直樹)さんや若林(正恭)さんとか、芸人の方でも小説を書いたりする方もいるので、そういうのも勉強してかなきゃなって思いましたね。人の作品を読んだりとか。文字を書く大変さはちょっとはわかったので、いろんな人の小説を読んでみたいなって思いましたね」
人生を振り返った本を書いた佐々木。自身にとって、どういう人生だと感じたのか?
「人生においてはまだぜんぜん旅の途中だと思いますけど、だいぶ運がよかったなと思いますね。ずっと野球をやってたときのことも書いてるんですけど、野球を辞めて、たとえば、そのまま自堕落な生活を送る可能性もありましたし、ずっとバイトだけしてる人生になってた可能性もあるし。芸人になって相方とコンビを組んでからも、たまたまいまのところうまいこといきましたけど、ぜんぜん飯を食えてない可能性もあったので。ほんとに〈うまいこといったなー!〉って感じですね。運がよかったなって感じです。僕が生まれてからの世界線がいろいろ分かれるとしたら、だいぶ運がいい世界線に来てるなって感じはしますね」

編集者の〈目標を失ってしまった人にとっての、新たな希望になるような本にしたい〉という思いから出発した本書。書き上げた結果、どんな本になったのだろうか?
「出版社の方にはそう言われてたんですけど、全部書き終わって、全然それを意識して書いてなかったなってことに気づいて。最後にうまいことまとめて、それっぽくして書いたんですけど、自分的には共感してくれる人が多いんじゃないかなと思うので。やる気がなかった時期の話とかも書いてますし、共感してくれたらいいなーって感じですかね。クドカンさん(宮藤官九郎)も〈共感しかない〉って書いてくれてるので」
野球に打ち込んでいたところからお笑いの道に進むことを決意した佐々木。その決断を下すときに必要だったものとは?
「行動力。〈やっちゃえ!〉みたいな気持ちで、芸人になるときはそんなに深く考えなかったかもしれないですね。〈とりあえずやっちゃえ!〉みたいな感じでしたかね」
ところで、「ここで1球チェンジアップ」というタイトルにはどんな思いが込められているのだろうか?
「これはですね、一応月イチで連載してたコラムのタイトルなんですけど。ずっと漫才ばっかりやってる芸人生活で、コラムの仕事を初めて頂いたので、漫才が〈ストレート〉だとしたら、一旦ここで〈チェンジアップ〉、読む人も一息ついて読める、みたいな。一旦ここでちょっと球速を変えてみます、みたいな気持ちのタイトルにしたんです(笑)。そんなに深い意味はないです」
執筆という〈チェンジアップ〉に挑戦したことによって、〈ストレート〉にも変化も生じたそうだ。
「ずっと漫才を作ってたときは相方のことを考えながらとか、相方をどうおもしろくするかみたいなことを考えて作ってたんですけど、こういうコラムや本を書くってなったら自分のことを書くので、自分の話をするっていうのがすごく新鮮ではありましたね。僕らは月イチぐらいで即興漫才のライブをやってるんです。お題だけもらって、出てって、即興で漫才するっていうライブをやってて。たしかに最近、僕だけ一方的にしゃべっちゃったりとかしちゃいますね。昨日もそのライブだったんですけど、後半、町田は僕に任せてサボってました。1人でぶわーってしゃべっちゃうネタとかをするようになっちゃいましたね」
本書を書いて、今年の「M-1」に向けての思いは変わったのだろうか?
「今年も『M-1』は出ます。こんな本を書いて今年決勝に行けなかったら恥ずいので、自分へのプレッシャーにはなったなって気はしますね。引き締めというか。これで予選で落ちたら、〈いやいや、本なんか書いてる場合じゃねーだろ〉ってなっちゃうので、より漫才を頑張んなきゃって思えましたね。野球で言ったら、より〈ストレート〉を磨くことで〈チェンジアップ〉も活きてくるので」
本書で描かれた高校時代の仲間たちからも反響があったそうだ。
「〈買って読んだよ〉って野球部の仲間からも来ました」
読んでほしい読者像については、次のように語った。
「やっぱ……フリーターの人とか。なんかやりたいけど、やりたいことが見つかってないから、とりあえずフリーターやってますみたいな人とか、次の一歩をまだ踏み出せてない人とかに読んでもらえたら嬉しいかなって感じですかね」
そんな本書のなかでも、特に力を込めた章は?
「やっぱり、第2章の〈甲子園には行けなかった人生〉。ここはけっこうスラスラ書けましたね。当時のことを思い出して書いたので、ほんとに思ってたことを書いたというか。高校時代の野球部の話はあんまり普段のラジオとかでもしないので、〈こんなときあったなー〉と思い出して、新鮮な気持ちにはなりましたね」

Mikikiの書評では、本書から〈エバースの漫才はなぜおもしろいのか?〉を考えてみた。ボケとネタ作り担当の佐々木自身にとって、現在のネタや漫才に最も繋がっている経験は何だったのかを聞いてみた。
「相方とルームシェアしてた時期があるんですけど、そのときに自主ラジオをstand.fmってアプリで始めて、週イチ1時間録って、毎週上げる、みたいな。やりはじめたときはファンがまったくいなかったので、ほんとに100再生とか、そんなものから始めて。聴いてる人はほとんどいないけど、でも、毎週1時間しゃべったら、会話で漫才を作れるようになりましたね。机に向かって〈ネタ書かなきゃ〉じゃなくて、町田と毎週1時間会話しながら、〈あっ、いまのおもろかったから漫才にできそうだな〉とかができるようになりましたね」
町田と出会う以前、漫才の道に進む前の経験では?と質問すると……。
「これは僕の持論なんですけど、部活を一生懸命やってたとか、学生時代に一個のことを一生懸命やってた人のほうが、その人の〈おもしろい〉が確立してるので、ネタに芯がある感じがするんですよね。ただ〈こういうのをやっとけばウケるでしょ?〉っていう漫才の作り方じゃなくて、〈これをおもしろいと思ってる俺ら〉みたいな漫才をする人が多いイメージがあります。学生時代に野球部内でおもしろいと思われるためにやってたこととか、部室で言ってたこと、しゃべってたこととかがいまにも繋がってるなって気がしますね」
この本は、全国の書店で大々的に展開中だ。ここから初めて佐々木を知る人、佐々木を知らずに本書を手に取る人に対してはどんな思いがあるのだろう?
「僕のことを知らなくて読んでおもしろいかどうかはあんまわからないんですけど……。〈甲子園をずっと目指してたけど行けなかった〉っていうのは、いろんな人の別のことにも置き換えられるような気はするんですよ。部活だったり、学生時代に頑張ってたこととか、でも、全国には行けなかったとか、夢が叶わなかったとか。そういう経験はたぶん似てるものがあると思うので、(本書は)そっから次の目標、次の夢に向かって頑張る話なんです。僕のことを知らなくても、みんな共感はしてくれるんじゃないかな、という感じですかね」
帯コメントを寄せたのは脚本家の宮藤官九郎。書評ではエバースの出囃子が宮藤のドラマ「木更津キャッツアイ」の曲であることに触れたが、宮藤に依頼した経緯とは?
「宮藤官九郎さんは、僕らが『M-1』の準決で落ちて、敗者復活戦に出たとき――2023年ですかね、そのときに見てくれて、そのあとの単独ライブを見に来てくれたんですよ。だから、『M-1』の決勝に行く前から見に来てくれてたんです。で、出身が同じ宮城県で、僕が登米市、クドカンさんが栗原市とすごく近いこともあって、〈せっかくだったらダメ元でお願いしようかな〉みたいな経緯でお願いしました。そしたら、これをすぐ送ってくれたらしくて、さすがだなって感じです」
宮城県登米市という田舎で育ったがゆえに自信を持つことができた、というエピソードも綴られた本書。「田舎で夢を追いかける子ども、田舎で悩む大人に伝えたいことはありますか?」という記者の質問に対してはこう答えた。
「僕の地元が登米市っていうほんとになんにもないとこなんです。有名人なんかほぼいないですし。だから、有名人になるとか、大人になってテレビに出るとかは夢のまた夢でした。ほんとにありえないぐらいの田舎で育ったので、〈東京に出てきてやりたいことをやったら、意外にいいとこまでいけるんだ〉っていうのは言ってあげたいですね。責任は持てないですけど、〈意外にいけるぞ〉って」
BOOK INFORMATION

発売日:2026年7月14日(火)
ISBN:9784778341350
仕様:四六判/240ページ予定
価格:1,980円(税込)
目次
【第一章】 なんにもない田舎で育てた自信 ──小学生~中学生時代
野球一族の末っ子として誕生
弱小高校夢の(妄想)甲子園への道
2003年の『M-1』はガチでえぐい
井の中の蛙大海を知らず
人を笑わせられるヤツがかっこいい
【第二章】 甲子園には行けなかった人生 ──高校生~大学生時代
ついに始まった人生の「本番」
空気を読んだ結果なったキャプテン
ナメられたくない一心でつかんだ優勝
手がかかりもしなかった最後のチャンス
アウェーで知った本当の自分
学生コーチって何?
忘れられない親の顔
【第三章】 まだ、本気出してないだけ ──NSC入学
超絶堕落大学生
人生の新たな軸を探して
「観る」から「やる」に変えたダイアンのラジオ
大谷翔平マインドでNSCへ
『M-1』が待っていてくれた…?
めっちゃスベってたヤツと、とりあえずコンビ結成
面白い漫才の作り方を知らないだけ
何もわからないままプロへ
【第四章】 最強の漫才師への道 ──デビューから下積み時代
感情を殺していた四軍時代
やりすぎた現実逃避
褒めてくれる人に出会い、動き出した芸人人生
兄貴からのバイト代
一回戦敗退経験「四回」
恐怖と隣合わせの猛獣との暮らし
エバース最大の危機
何もできない相方の良さ
特別コラム① 無限大地獄
特別コラム② バイト先の美人なお姉さん
【第五章】 人生、意外にうまくいってる? ──『M-1グランプリ』決勝進出後
『M-1』が持つパワー
手放すしかなくなってしまった家宝
キャッチャー・町田が出したサイン
根拠のない自信に救われてきた
野球少年が漫才師になって
特別コラム③ 『M-1』決勝に行けた人生
特別コラム④ 『桜の木の下』で
特別コラム⑤ ちゃんみなの“本質を見極める能力”
特別コラム⑥ ワインドアップはやめない
特別コラム⑦ 終わらなかった夏休みの宿題
特別コラム⑧ 好きだった子とポケモン
特別コラム⑨ 『ABCお笑いグランプリ』
特別コラム⑩ 人類8週目の僕たちは
特別コラム⑪ 隣の大天狗の振り見て我が振り直す
特別コラム⑫ 記憶がない記憶
特別コラム⑬ 全部ひっくり返す
特別コラム⑭ とにかくおもしろい漫才を
特別コラム⑮ 人生の最高傑作