「笑いを通じて自分でかっこいいと思うものを見つけたいんです」
2013年に「NHK上方漫才コンテスト」や「THE MANZAI」で優勝して注目を集めたお笑いコンビ、ウーマンラッシュアワー。一時はテレビのレギュラー番組を数多く抱える売れっ子だったが、痛烈な社会風刺をネタにするようになってからテレビの露出は激減する。そんななか、ネタ担当の村本大輔は笑いにどんな風に向き合ってきたのか。映画「アイアム・ア・コメディアン」は村本に3年間密着したドキュメンタリーだ。監督を務めたのは日向史有。カメラは村本の葛藤の日々を赤裸々に描き出す。村本は撮影をこんな風に振り返った。
「迷惑といえば迷惑なんですよ。僕と親父が喧嘩しているところも撮影するし、かと思ったら大事な時にタバコを吸いに行ったりする(笑)。ちょっとポンコツなところがある監督なんですよね。でも、そういう不器用なところに変に惹かれたというか。賢く立ち回ろうとする奴は苦手なんですけど、監督とは一緒にいてリラックスできたんです」
不器用さに惹かれた、というところに村本の人柄が伝わってくる。うまく立ち回れば売れっ子芸人であり続けたのに、震災や原発など社会問題をネタにうするスタイルを貫いたために村本はテレビから煙たがられた。しかし、ネタの変化は安っぽい正義感のためではなく、笑いを追求した結果だということが映画から伝わってくる。そもそも社会風刺は笑いの重要な要素だった。
「そう感じてくれたら嬉しいです。正義を振りかざすコメディアン、という風に思われがちなんですけど、僕が興味があるのは人間で、いろんなことを調べていくなかで違和感を感じたことをネタにする。最近のお笑い番組ってウケればなんでもいいっていう風潮があるじゃないですか。笑いをやるうえで自分なりの哲学を持っていないとお客さんは離れていくと思うんですよね」
映画の中で村本は様々な場所に赴きライヴをして、時には終演後に観客と言葉を交わして彼らの話に耳を傾ける。被災地、沖縄、原発のある街(彼の故郷には高浜原発がある)にも何度も足を運び、地元の人々と話をすることで伝わってくるリアリティがネタを生み出す。そうした交流を大切にしているところに村本の人間に対する好奇心を感じさせた。
「東日本大震災で被災した女性が、お酒を飲みながら震災で亡くなった旦那と子供のことを彼女なりに笑い話にして話してくれたことがあったんです。その時、周りの人が「ちょっと笑えませんよ」と引いたら、彼女は「笑ってください。そうすることで気持ちが楽になるから」って言うんですよ。笑いにはそういう力がある。お笑い芸人も子供の頃にいじめられたこととか嫌な体験を笑いにしてきた。僕自身もそうだったんです」
村本の父親が癌で人工肛門になった時、そのことをユーモアを交えて村本に伝えたエピソードが映画で紹介されるが、束の間でも悲しみや苦しみを追い払うことができる笑いは〈生きる力〉と言えるかもしれない。しかし、テレビでは笑いが大安売り。そんななか、村本は40代で渡米してスタンダップコメディアンとして修行を積む。それほどまでに村本を笑いに駆り立てるものとは何だろう。
「アメリカのテレビは日本以上に規制が厳しいけど、コメディアンは過激なやり方で社会問題をネタにして笑いにする。世の中のルールに挑戦する姿勢がすごいんです。僕は子供の頃から自分を従わせようとするものが嫌で、それに逆らって嫌われてきました。日本人はすぐに大きな流れに従うけど、そんな風に生きていたら自分が何者かわからなくなってしまう。以前、坂本龍一さんと対談した時、時代にとらわれずに自分が格好いいと思うことを貫けばいい、と言ってくれました。僕は笑いを通じて自分で格好いいと思うものを見つけたいんです」
有名なコンテストに優勝してビッグになる。そんなメディアが作り出した〈物語〉から飛び出し、自分の物語を作り出そうとする男の挑戦を描いた本作は、改めて笑いの力について考えさせてくれた。
FILM INFORMATION
「アイアム・ア・コメディアン」
監督:日向史有
出演:村本大輔(ウーマンラッシュアワー)/中川パラダイス(ウーマンラッシュアワー)他
英語字幕付き上映
配給:SPACE SHOWER FILMS
(2022年|日本・韓国|108分)
2024年7月6日(土)よりユーロスペース他にて全国順次公開!
https://iamacomedian.jp/