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即興は生きることに似ている

――〈Atelier Concert〉用の音源がまるごとディスクになるのは、Days of Delight史上初めてとのことです。私は『プラーナ』を聴いていて、〈互いの音に反応しなければ〉という力みを感じさせない即興だと感じました。例えば鳥の鳴き声、川のせせらぎが同時に聞こえる場合、別に鳴き声とせせらぎは互いに触発しあっているわけではないですが、同じ空間に気持ちよく共存している。そういったことに通じる印象です。

橋爪「ありがとうございます。もちろん〈反応することが全て〉みたいな表現の音楽もあるし、そこにも大きな意味があると思うけれど、それはあくまで表現のひとつですからね。僕はあえて普通に、3人で会話するように即興をやりたい。今回はそれぞれ7~8分のテイクで、1つの物語を話していったような感じです。音での会話を、こっちサイド(音楽家)だけじゃなく、聴いている人みんなとシェアできたら嬉しいなと思います」

西嶋「僕にとっても、即興は〈ここで何をカマそうか〉と気負ってやるものではありません。〈あ、なんか疲れてきたな〉と思ったら弾くのをやめたりしますし(笑)。あまり考えずに、ボーッと歩いているのと変わらない」

大村「即興というと、抽象的で、ちょっと非現実的で、芸術志向が強い、という印象を持っている人が少なくないと思うけど、僕自身の考えはまったく逆で、極めて日常的なものだという認識です。じっさい人生だって台本がないわけですからね。そう考えれば、即興は生きることととても似ている。即興はその時に流れてきたアイデアを、共演者と共有して演奏しているだけであって、その感覚はタブラでもドラムでも変わらないですね」

橋爪「僕は日頃メロディの演奏を担当することが多いのですが、個人的には伴奏に憧れがある。ジャズにおいていちばんアーティスティックな部分は伴奏だと思っているくらいです。素晴らしい伴奏者がいて、初めて音楽は前に進み、立体的になっていくと感じるので。その意味では〈亘くんがタブラでメロディを奏でている間、僕は伴奏しよう〉などと、いつもと違う役割で音楽に参加できるのは楽しいですね」

 

プラーナ=呼吸は生きることの根源

――主と従にわかれていないところも、〈いい会話〉という感じがします。ところで今回の録音場所は岡本太郎さんのアトリエです。ライブスポットやレコーディングスタジオとはまた異なるバイブレーションがあるのではと想像するのですが……。

大村「音楽をやるためにデザインされた場所ではないけど、キャンバスとキャンバスの隙間が反響板になっているように感じられたり、〈オブジェの曲面の間を音が踊っているんじゃないか〉とか、イマジネーションも湧いてきて、とても刺激されますね。程よく天井も高くて、音の響きも良くて、とてもリラックスして演奏できました。

『プラーナ』というタイトルは〈呼吸〉という意味です。呼吸自体が生きることの根源でもありますし、呼吸する行為に飽きることはないと思うんです。なので、この作品が皆さんにとって何回聴いても飽きないアルバムになっていたら嬉しいです」

西嶋「普段から僕らがやってきたことの結節点みたいなものがアルバムに発展していったのは、やっぱり音楽の力なんだろうなと思います。誰かが〈こうやろうぜ〉と引っ張っていったこともなく、たまたまこうなったという感覚が自分的には強い。それがすごく心地よくて、自然で素敵なことです」

橋爪「特定のスタイルを当てはめようとして聴くと〈なんだこれは、こんなものはジャズじゃないだろ〉と思われるアルバムかもしれませんが、ぜひナチュラルな、真っさらな感覚で聴いてみてください。リスナーの方にどう感じていただけるのか、今からとても楽しみです」

 


RELEASE INFORMATION

大村亘, 橋爪亮督, 西嶋徹 『プラーナ』 Days of Delight(2026)

リリース日:2026年8月21日(金)
品番:DOD-064
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST
1. part I
2. part II
3. part III
4. part IV
5. part V
6. part VI
7. part VII
8. part VIII

(2026年4月14日 東京録音)

■演奏者
橋爪亮督 tenor & soprano saxophones, lyricon, suling, electronics
西嶋徹 bass, daxophone, violin, electronics
大村亘 tabla, bayan

 


PROFILE: 大村 亘
青年期を過ごしたオーストラリアでドラムと出会い、シドニー大学、シドニー音楽院ジャズ科に進学すると、師弟関係にあるテナーサックス奏者デイル・バーロウとのツアーやレコーディングを始め、積極的に音楽活動を展開。2006年に活動拠点を東京に移す。2013年からインド古典音楽界の巨匠にしてタブラのグル・パンディット・ヨゲシュ・サムシに弟子入り。2016年には文化庁からムンバイに派遣され、80日間におよぶ研鑽を積む。

PROFILE: 橋爪亮督
岡山大学在学中20歳のときに奨学金を得て米バークリー音楽大学に留学。1996年にジャズ作曲科を卒業すると、早くもその年にデビューアルバムを、翌年には2作目をアメリカ国内でリリースするという快挙を成し遂げる。1997年、帰国。プレイを通じて提示する独自の世界観が注目され、既存のスタイルに収まらない斬新なアプローチがコアなジャズファンを惹きつけている。

PROFILE: 西嶋 徹
5歳でバイオリンを、高校時代にビオラとエレキベースを始め、大学卒業後コントラバスに転向。野崎良太のJazztronikや葉加瀬太郎バンドに参加し、日本の音楽シーンの中核で活躍。ジャンルを超えたトップアーティストからの信頼を得て、幅広くその名を轟かせている。これまでにベースソロアルバム『Phenomenology』、自身のグループ〈幽けき刻〉などのアルバムをリリース。

Days of Delightについて
日本ジャズに特化したレーベルとして2018年に創設。テーマは〈いまここにあるジャズ〉。半世紀にわたって日本ジャズ界を牽引してきたレジェンドから20代のライジングスターまで、第一線のプレイヤーによるクリエイティブなプレイを届けている。本作品で66タイトルをリリースしてきた。
公式サイト:https://www.dod-jp.com/
YouTube:https://www.youtube.com/@daysofdelight6986/videos