1989年リューベック音楽大学の学生4人で結成し、96年ミュンヘン、97年プレミオ・パオロ・ボルチアーニという弦楽四重奏団として最高峰と称されるコンクールで優勝したアルテミス・カルテットが、2012年第1ヴァイオリンにラトヴィアのヴィネタ・サレイカを迎えた。新メンバーで録音したのはメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲集。勢いに満ち、大海原へ漕ぎ出していくような前向きな姿勢を感じさせる演奏だ。
「メンデルスゾーンを録音したいと計画したのは数年前。そこにヴィネタが加わったため機が熟したと考え、録音に踏み切った。メンデルスゾーンの作品は過小評価されているけど、本当は非常に情熱的で明確なキャラクターがある。それを私たちはじっくり練って個性ある4人のアイディアをまとめ、細部まで検証して録音に臨んだ。作品を初めて聴く人や、クラシックをあまり聴かない人にも、作曲家と私たちの情熱がともに伝わるよう心がけたつもり」
彼らのリハーサルはとても刺激的で、丁々発止の意見が飛び交い、それを徐々に調整していく。創設メンバーであるチェロのエッカート・ルンゲは、このカルテットが当初ワルター・レヴィン(ラサール四重奏団の第1ヴァイオリン)やアルバン・ベルク四重奏団から学んだことを現在も基本に据え、第2ヴァイオリンのグレゴール・ジーグルは、みんなの声(意見)を完璧にまとめる。ヴィオラのフリーデマン・ヴァイグルは、全員のエンジン役で、あらゆる方向に向けて視野を広く保ち、常に上を目指す。そしてヴィネタは、オーディションにおいて3人が一致して入団を希望した逸材。あらゆる可能性を秘めていると彼らは評す。
「世界には1000人単位でいいヴァイオリニストがいて、そのなかで200人がトップレヴェル。さらに6人がカルテットに向いている。私たちはその6人をオーディションに招き、即座にヴィネタに決めたんだ」
この新譜は、第2番と第3番が真摯で荘厳で情熱的な作品。第6番は悲嘆の影をにじませているが、彼らは各々の作品の深奥にひたすら迫り、新鮮で革新的なメンデルスゾーンを世に送り出している。
「メンデルスゾーンはまさに革新的な音楽を作り出した作曲家。私たちも平和的な革新性を表現したいので、メンデルスゾーンとは非常に相性がいいと思う」
彼らは音楽以外の分野の人々との交流も積極的に行い、他の楽器の演奏家からも多くを学んでいる。
「ピアノのブレンデルからもいろんなことを学んだ。技術的なことではなく、彼からは音楽性とアイディアを吸収した。私たちの強みは人との出会いから何かを吸収すること。それが演奏を肉厚なものにするから」