INTERVIEW

キセル 『明るい幻』 Part.1

明るい幻のなかに映し出されるのは、過去? 現在? それとも未来? ゆらりと漂う音像に素朴な歌心を浮かべてきた兄弟が、15年目に辿り着いた新境地とは――

キセル 『明るい幻』 Part.1

サラッと時間が流れるアルバム

 2013年に念願だった日比谷野外大音楽堂での単独公演を成功させ、結成15周年にあたる今年は5月に記念ライヴを実施するなど、ひとつの区切りを迎えたキセル。オリジナル・アルバムとしては実に4年半ぶりとなる7作目『明るい幻』は、そんなメモリアル・イヤーを締め括ると同時にこれからの2人の行く先をも提示した、素晴らしい作品である。

キセル 明るい幻 KAKUBARHYTHM(2014)

 「ずっとやりたかった野音でワンマンをやって、今年15周年のライヴもやってっていうなかだったので、もう一回リスタートっていう気分はあったと思います。自分らのモチベーション的にも、次の作品は〈やり切ったな〉っていうのを出さないとダメだと思ったんですよね。この15年っていうのは、〈ノリでやってきた〉っていうと言いすぎですけど、ビクターを離れたときでも、そんなに焦ったりはしなかったんです。ただ、これから先さらにやっていくとなると、これは結構大変やぞって思うようになって……年齢とかそういうのもあると思うんですけど」(辻村豪文、ヴォーカル/ギター)。

 「兄さんは僕より5つ上だから、40を目前にしてとかってあると思うんですよね。僕はまたちょっと違って、ちょうど『凪』(2010年)を作ってたときの兄さんの年齢がいまの僕の年齢かと思うと、〈これはヤバいな〉っていう危機感はあったかもしれません」(辻村友晴、ベース/ヴォーカル)。

 本作の構想が生まれたのは、2012年の末に札幌で行われたKAKUBARHYTHMのイヴェントの打ち上げ会場。行きつけになっている元TOMATOS松竹谷清の店、BAR BAHIA恒例の〈ユーミン・タイム〉がきっかけだったという。

 「普段はブラジル音楽とかいろいろかかるんですけど、夜の深い時間になってくると、ユーミンがかかることがよくあって(笑)。そのときの、みんながやいのやいのユーミンを聴きつつ喋ってるっていう雰囲気がなんか安定感あっていいなぁと思って。及ばずながら、そういう感じのアルバムを作れたらいいなと思ったんです。メロディーが立ってるっていうのはキセルのいいところだと思うんですけど、曲が始まってから終わるまでの時間の流れがサラッとしてるほうがいいなって」(豪文)。

 キセルはこれまでもフォーキーな極上のメロディーを紡いできたし、浮遊感のあるサウンドが魅力だったことは言うまでもないが、その延長で〈時間の流れがサラッとしたアルバム〉を作ろうとしたら、それはただのBGMになってしまう危険性もあったかもしれない。しかし、本作ではお馴染みの内田直之をエンジニアに迎え、『旅』(2005年)以来となるアナログ・レコーディングを敢行。なおかつ、大半のドラムを豪文自身が叩いたことによる有機的なアンサンブルが楽曲の〈芯〉となっている。数曲では千住宗臣ウリチパン郡などでもお馴染みの生感と打ち込み感の同居したドラミングで貢献し、他にもエマーソン北村野村卓史北山ゆうこ武嶋聡といったゲスト・ミュージシャンが作品に彩りを与えているものの、本作は〈2人であること〉を見つめ直した作品だと言えるだろう。

 「いつもはループのリズムっていう規定が何となくあったんですけど、今回は最初にギターでメロディーを作った時点で、生ドラムを想定していて。だったら、手打ちドラムの打ち込みもよくやってたので、自分でドラムを練習したほうが、拙くても生でキセルらしさが出せるんちゃうかって。結構なチャレンジでしたけど」(豪文)。

 「いつもの打ち込みの味もちゃんと出したかったので、いろんなドラマーの人も考えたんですけど、最終的には兄と僕で〈せーの〉で録ったほうが〈らしいもの〉が出来ると思ったので、大半はそういう録り方をしてます」(友晴)。


過去・現在・未来を映す幻

 また、近年の彼らは古いブラジル音楽やソウルをよく聴いていたそうで、それによってミュージシャンとしての現在地を再確認した部分もあるようだ。

 「僕、だいぶ前にロー・ボルジェスをジャケ買いして、最初はよくわからなかったんですけど、そのうちすごいハマって、トニーニョ・オルタとかいろいろ聴いてました。なんでか不思議にローカルな感じがするっていうか、すごく新しい感覚で聴けるのに、京都のベッドタウンで育った身にも、懐かしさを覚える感覚も同時にあって」(豪文)。

 「僕はオーティス・クレイとか、ハイの人たちとかもよく聴いてました。逆に〈何でいままで聴いてなかったんやろ?〉って思うんですけど、いまピントが合ったんでしょうね。カーティス・メイフィールドとかも、好きになるとは思ってなかったんですけど」(友晴)。

 「カーティスは昔から好きでしたけど、やっぱり、歳もあるのかなあ……演歌とかを好きになるのに近いのかも(笑)」(豪文)。

【参考動画】ロー・ボルジェスの79年作『A Via Lactea』収録曲“Clube Da Esquina No.2”

 

 フォーキーかつメロウな“時をはなれて”や、ゴスペル風のコーラスが美しい“君をみた”などからは仄かにブラック・ミュージックのテイストを感じることができるし、タイトルからしてズバリの“ミナスの夢”や“声だけ聴こえる”はフルートも印象的で、アレシャンドリ・アンドレスなど、現代のミナスのミュージシャンとのリンクも想起させる。これら楽曲の大半は2013年には出揃っていたものの、リリースまでにさらなる時間を要したのは、主に歌詞が原因だったそう。本作は震災後にリリースされる初めてのオリジナル作でもあり、そのなかで見い出したミュージシャンとしての覚悟が、歌詞やアルバム・タイトルから確かに滲み出ている。

 「これまではもうちょっと余白を残して、ライヴでやっていくうちに〈いいな〉って思えるものも多かったんですけど、今回はもう少しやり切りたい思いが強かったんです」(豪文)。

 「余白とか、フワフワした部分っていうのは今回もあるにはあるんですが、ちゃんと土台があったうえでの余白というか、そこが今回は形としてしっかり見えているので、そのぶん聴き応えもあるのかなって思います」(友晴)。

 「いま自分が生活してて、すごい気持ち悪いなって気になることが度を超してきてるなぁって思いがありつつ、それに対して、自分のなかでの答えっていうのは特にないんですけど、キセルとして歌にするときの落としどころっていうのはずっと考えてました。〈幻〉っていうのは、これから先のヴィジョンも含まれてるし、僕らより前の世代の人たちが見てきた〈いま〉でもあるし、自分の記憶のなかの明るい光景だったりもします」(豪文)。

 フワフワとした心地良さは残しながらも楽曲の土台を見つめ直し、同時に仲間と共に笑い合う音楽のある日常に目を向けたことで、これまでにない作品としての重みを感じさせる『明るい幻』。これが15年目のキセルが辿り着いた新境地である。

 

 

▼キセルの近作を紹介

左から、2010年作『凪』、2011年のレア音源集『SUKIMA MUSICS』、2013年のライヴDVD「野音でキセル」(すべてKAKUBARHYTHM)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

 

 

▼関連作品

左から、荒井由実の73年作『ひこうき雲』(ユニバーサル)、ロー・ボルジェスの79年作『A Via Lactea』(EMI Brazil)、オーティス・クレイの73年作『Trying To Live My Life Without You』(Hi)、アレシャンドリ・アンドレスの2014年作『Olhe Bem As Montanhas』(Independente)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

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