意匠を凝らしてフォーク・ミュージックの奥深さを示した結成20周年記念盤! 予想外のカヴァーからオリジナルの新曲まで、丁寧に歩みを進めてきた2人の道程がここに
今年でハタチになったハンバート ハンバート。結成20周年を記念した新作『FOLK 2』は、2016年にリリースしたカヴァー集『FOLK』の続編だ。このシリーズはその名の通り、〈フォーク・ミュージック〉をコンセプトに60~70年代のフォークやそれ以降のJ-Pop、そして自分たちの楽曲を生楽器だけでカヴァーするという企画。今回も前作に負けないくらいさまざまなナンバーが並んでいる。
「ライヴでいろんな曲をカヴァーしてきたんですけど、そのなかから自分たちらしさが出たものを選びました。ただ、ユーミンの“ひこうき雲”はこのアルバムに入れるためにアレンジを考えたんです。実は10年前くらいにユーミンの曲を弾き語りでカヴァーしていたことがあったんですけど、〈ただ好きでやっている〉みたいな感じになっちゃって(笑)。なので、今回はハンバートならではの表現をいろいろ考えました」(佐野遊穂、ヴォーカル)。
同じく先輩のカヴァーでは、去年亡くなったフォーク・シンガー、加川良の“教訓1”も。やはり彼らにとって重要な曲だ。
「加川さんとはライヴでいろんな曲を一緒に歌ったりして、可愛がってもらったんです。そのなかでも、特に思い出深かったのがこの曲でした」(佐藤良成、ヴォーカル/ギター/フィドル他)。
「ストレートなメッセージが込められているけど説教臭くないし、何より曲としてすごく良いんですよね。今回はマリア・マルダーのイメージで歌ってみました」(佐野)。
そんなふうに自分たちへ影響を与えた名曲に取り組む一方で、それ以外のJ-Popのカヴァーでは意外な取り合わせを楽しむことが可能。例えばMONGOL800“小さな恋のうた”は、彼らのスタイルで爽やかに聴かせてくれる。
「アコースティック・ギターの場合、間合いを詰めてジャカジャカ弾くとラテン音楽みたいになってしまうんです。でも、緩めると緊張感がなくなってしまう。爽やかだけど熱い感じになるように、ギターの弾き方や伴奏のリズムのちょうどいいバランスを見つけるのに苦労しました」(佐藤)。
また、そうした他者の楽曲との取り組み以上に発見が多かったのは、自分たちの曲だという。二人にとってセルフ・カヴァーは、このユニットの歴史を見つめ直す作業でもあった。
「曲はライヴで演奏しているうちに自然に変化していくんです。だから、ライヴでオリジナルと全然違うアレンジで演奏している曲も多くて。今回は現時点での決定版を記録に残したいと思いました」(佐野)。
「あと、いざ録音することになって丁寧に曲を見直していくと、〈こうすればもっと良くなる〉っていうことに気付くんです。例えば“大宴会”は10年前に作った曲ですが、今回見直したことでコーラスの効果がすごく上がったと思います」(佐藤)。
そして、ゲストとの共演で新しい息吹を与えられたのが彼らの代表曲“おなじ話”だ。この曲は『FOLK』にも収録されていたが、今回はキセルの辻村兄弟とコラボレート。兄の豪文と佐野がデュエットするなど、長い付き合いだからこその息が合った歌と演奏を聴かせてくれる。
「ライヴで誰かと共演する時、共演者と一緒に“おなじ話”を歌うというのを6年前から始めたんです。その最初の相手がキセルでした。キセルとはいちばん共演した回数が多いし、身近に感じているので20周年のお祝いに参加してほしかったんです。アレンジもキセルの二人と一緒に考えたんですけど、僕の思い付かないようなコードを提案してくれて、すごくキセル風味になっておもしろかったですね」(佐藤)。
そんなふうに多彩なカヴァーが収められたなか、新曲も一曲お披露目されている。白髪混じりになった主人公が過去の恋を振り返る“永遠の夕日”は、〈20年〉という年月をアルバムを通じて振り返る彼らの姿と重なるところもある。
「この曲は最初は一人で歌っていたんですけど、途中から二人で歌い分けることにしたんです。そうすることで、同じ歌詞を歌ってもイメージが広がる。男女パートで歌い分けるっていうのは、僕らの最大の武器ですからね」(佐藤)。
さまざまな工夫を凝らしながら、自分たちのスタイルでフォーク・ミュージックを奏でた本作。〈フォーク〉にジャンル分けされることに対して、「それだけじゃない」と思っていた時期もあったそうだが、最近はその奥深さを実感して考え方も変わってきたとか。
「もう、〈この車(フォーク)に乗っていくしかない!〉って感じです」(佐野)。
そして二人を乗せた車はひた走り、歌を巡る旅は続く。その道程のマイルストーンとして、本作は大切な一枚になるはずだ。
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