〈音楽クリエイター育成プロジェクト Tokyo & Paris to the NEXT〉で世界初演作品を発表する向井響がIRCAMのコンピュータ・ミュージック・デザイナーのセルジュ・ルムトンと現状を語る
東京文化会館では、野平一郎が音楽監督に就任して以来、多彩な新しいプロジェクトが展開されている。中でも、2024~29年の5年間で、3名の作曲家と1名のエンジニアをIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)に派遣する〈音楽クリエイター育成プロジェクト Tokyo & Paris to the NEXT〉は、とても斬新で面白そうだ。
プロジェクトの第一弾として、日本からIRCAMに送られたのは向井響。コンピュータ・ミュージック・デザイナーのセルジュ・ルムトンと9週間のクリエイションを行い、新作が2027年1月にパリで世界初演、2月に日本初演される。今回は6月末からの4回目のクリエイションに際して、二人にコラボレーションの様子を聞いた。
――2025年12月からIRCAMでのクリエイションが始まったそうですが、お互いの最初の印象ややりとりはいかがでしたか。
向井響「彼は優れた器楽と電子音楽のミクスト作品の制作に携わってきた有名なコンピュータ・ミュージック・デザイナーですので、最初は少し不安でしたが、話してみるととても穏やかで、思慮深く、すべてを知っている師匠のようでした。私の創作活動にもとても興味を持ってくれて、どのように日本の伝統文化の概念を西洋の音楽に融合させるかという問題についても相談に乗ってくれました」
セルジュ・ルムトン「私たちは、最初に、技術的、そして美学的なアイデアについて話し合ったのですが、その際に響が彼の文楽のリサーチプロジェクトをいくつか見せてくれました。文楽はまったく知らなかったのでとても興味深かったですし、多くのことを学びました。伝統とモダンの両面性を持つプロジェクトというのも面白い点だと思いました」
――今回で4回目ですが、クリエイションはどのように進んでいますか。
向井「私たちはまずAIに、女義太夫の声から楽器の音へ、あるいは逆にモーフィングするよう学習させました。うまく行ったのですが、音源としてCDやYouTubeを使ったので音が圧縮されていて、それがAIの成果に影響を与えてしまいました。そのため、3回目のクリエイション後に、日本で女義太夫の方に直接録音させてもらい、今回はそれを使ってAIをトレーニングします。
また、この作品の一番重要なテーマは感情なのですが、IRCAMの声と感情についての専門家と話し合い、リサーチするつもりです。今回私たちは器楽のレコーディングも行います。もしエレクトロニクスと器楽の音が互いに感情を表現する音として影響し合えば、とても面白いものになるでしょう。明日、器楽奏者の録音を行い、その音を聞いてから、ライブエレクトロニクスのパッチをどのように組み立てていくか考える予定です。
これまで私は、ライブエレクトロニクスのためのパッチはステレオ、二つのスピーカー用のために作ることが多かったですが、IRCAMにはたくさんの良いツールがあり、マルチチャンネルで、より豊かな立体音響サウンドを作ることができるので、IRCAM toolsを組み込んだ新しいパッチを使って私のサウンドを立体音響にするのもとても楽しみです」
ルムトン「響が大体のことを言ったので補足になりますが、IRCAMのプロジェクトでは、最初の段階でテクノロジーの現状と照らし合わせます。IRCAMは設立当初から音声分析や音声合成に力を入れてきましたが、今や非常に多くの科学がAIと関わっているので、今回は、私たちも最新のテクノロジーであるAIを使うことに決めました。そしていろいろと試行錯誤してみています。そのあたりは制作というよりほぼリサーチですね。
感情は、IRCAMの音響心理学について研究するチームにおいても重要なトピックで、IRCAMはすでにこの主題に関するプロジェクトをいくつか行っています。このプロジェクトは私にとっても、新しいテクノロジー、新しいコンセプトを実験し、試すことができるという意味でもとても意義深いです」
――このプロジェクトを通して最も実現したいことは何ですか。
向井「やはり、ベストを尽くして、いい作品を作ることです。それから、日本では、こういったテクノロジーやコンピュータを使った音楽を聴くのはまだあまりポピュラーではありません。今回のIRCAMのベストチームとのプロジェクトの演奏をきっかけに日本の音楽社会をいくらかでも変えることができればとてもうれしいです」
ルムトン「IRCAMの中で仕事をしているのも面白いのですが、閉鎖的になる可能性もあるので、こういう機会に別の国に行って人々と交流するのは非常に大事です。今回初めて東京に行くので、そこで仕事をしている同業関係者たちに会い、様々な視点や考え方に触れるのが楽しみです」
LIVE INFORMATION
音楽クリエイター育成プロジェクト成果発表「プレミエ・コンサート」
2027年2月26日(金)東京・築地 浜離宮朝日ホール 音楽ホール
開場/開演:18:30/19:00
■曲目
向井響:人の声/機械の声〈日本初演〉 ※東京文化会館、IRCAM共同委嘱作品
向井響:裸の声、感情の水面で〈世界初演〉 ※東京文化会館委嘱作品
北爪裕道:sparking(2011)
リン・メイファン:RemembeЯ(2025)〈日本初演〉
フィリップ・ユレル:弦楽四重奏曲第3番「En Filigrane」〈日本初演〉
野平一郎:謎(2006)