舞台芸術の殿堂・東京文化会館で〈休館前最後〉のバックステージツアー
休館中も主催公演は実施
オペラやバレエなど舞台芸術の殿堂である東京・上野の東京文化会館が2026年5月7日から、大規模改修工事のために約3年間休館する。3月末、休館前最後となるバックステージツアーがあると聞き、貴重な機会を逃すまいと参加した。
東京文化会館は1961年に建築家・前川國男により建てられた国内を代表する劇場・音楽ホールである。通常、文化会館の一般向けのバックステージツアーは所要時間が約2時間だが、ツアーは予約がすぐ埋まってしまうほどの人気という。今回はメディアなど向けの特別ツアーとなった。

まず第22回東京音楽コンクール弦楽部門第2位の平井美羽 (ヴァイオリン)ら若手音楽家による弦楽四重奏のミニコンサートが大ホールであった。4人は文化会館主催の〈まちなかコンサート〉に出演後、ツアーでの演奏に臨んだ。室内楽の響きを大ホールで聴くことは少なく、新鮮な気持ちで心地よい音を堪能した。
その後は舞台に上がり、オペラやバレエではお馴染みの終演後のカーテンコールを体験した。〈オペラカーテン〉と呼ばれる緞帳の構造、布の重なり方、ソリストを幕内から幕外に送り出すための花道確保の方法なども教えていただき、華やかな舞台の裏にある別の「物語」に接することができた。
大ホールの舞台裏の壁面や柱には、出演者らのサインが無数に残されている。2024年に亡くなった指揮者の小澤征爾さんをはじめ、ウィーン国立歌劇場やミラノ・スカラ座、シカゴ交響楽団、ボリショイバレエなど世界の錚々たる団体の関係者や出演者のサインがあった。確認できる最古のサインは1967年に来日したユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団だという。
これほど有名音楽家のサインが残されている劇場は、世界的にも珍しいのではないか。これこそ貴重な〈文化遺産〉である。改修後はサインがどうなるのか気になるところだが、基本的にそのまま残す方向だと聞き安心した。
楽屋エリアに移ると、いかにも年季の入ったリハーサル室があった。床は1999年の改修時に大ホールで使っていた床を移設した。楽屋の〈個室1〉は指揮者用の部屋として知られ、ソファーが置かれているなど他の楽屋と少し仕様が異なる。〈大ホール楽屋3〉はオペラやバレエ公演の際には衣裳部屋として使うことが多い。部屋には大型洗濯機の置き場があり、使い慣れた洗濯機を楽屋に持ち込んで衣裳を洗濯する団体もある。
東京文化会館の奈落は特殊な構造で、普段は反響板が奈落にまるごと格納されている。「反響板が上がっていると、奈落がかなり深く感じますよ」と説明を受けたが、確かに高所恐怖症の人であれば足がすくむレベルだった。


オーケストラピットは、舞台の一部床が下降することであの窪んだ形になる。ピットの面積は約85㎡、オケが演奏するときのピットの高さは1.8メートル。客席との距離や高さがちょうどいいのだという。
東京文化会館を設計した前川は、世界的な建築家、ル・コルビュジエの弟子である。文化会館に隣接する国立西洋美術館はコルビュジエが手がけた建築であり、師匠と弟子による〈対の名建築〉が上野の文化度の高さを象徴している。
国内外の舞台公演を牽引する文化会館の3年間の「空白」は痛手ではあるが、この間も東京文化会館としての主催事業は都内で場所を変えて行われる。
同会館の音楽監督である作曲家・ピアニストの野平一郎が立ち上げた現代と古典の音楽がクロスオーバーした音楽祭〈フェスティヴァル・ランタンポレル〉(2027年2月24日~3月1日、浜離宮朝日ホール)のほか、子どもなど向けのシアター・デビュー・プログラムである音楽劇「シミグダリ氏~鉄靴の姫と麦粉の王子~」(2026年8月7日・8日、渋谷区文化総合センター大和田さくらホール)、ラヴェルの音楽とダンス、演劇が融合した舞台「ラヴェル最期の日々」(2026年6月27日・28日、新国立劇場中劇場)などが予定されている。
この3年間は東京文化会館の復活とさらなる進化を期待するとともに、同館が長年培ってきた舞台芸術の知見や経験を取り入れた個性的な企画を楽しみたいところである。
INFORMATION
大規模改修に伴う全館休館のお知らせ
東京文化会館は昭和36年に開館し、65年経過いたしました。設備をはじめ施設全体の経年劣化が進んできていることから、このたび、東京都において全面的な設備機器更新等の大規模改修工事を行うため、以下の期間休館いたします。
■休館期間
2026年5月7日~2028年度中(予定)
・大ホール、会議室等 2026年5月7日~
・小ホール 2026年5月14日~
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2024/09/2024092711