沼野雄司・向井響・柴山真太朗・坂東祐大
3人の作曲家が語るAI時代の作曲の可能性

 30代の作曲家3人に〈何らかのかたちでAIを用いた新作〉を委嘱した演奏会が、今年の9月に開かれる。われわれの生活にあまりにも急速に浸透しつつあるAIは、音楽創作においてどのような可能性を持っているのだろうか。


 

――最近聞いた話。70年代ソウルミュージックのマニアが、もうあらかた曲を聴きつくしちゃったので、AIで〈新曲〉をどんどん生成してると。しかし、どんなクオリティなんだろう。

坂東祐大「今や相当に完成度の高いものができると思います。

柴山真太朗「たとえばSUNOってあるじゃないですか。あれもかなり優秀ですよ。

―ん? あのモフモフしたキャラクター、かわいいよね。

向井響「それは〈SUUMO〉。不動産サイトです……。SUNOは簡単にいろいろなジャンルの音楽を作ってしまうソフトで、無料でも使えるから、かなり一般化してますね。

――……。いまやプロの創作においてもAIは浸透しつつあるのだろうか。

坂東「コンサートで演奏される音楽は楽譜を書いて終わりですが、レコーディングワークは最終的なオーディオ作品として最後の課程まで携わります。こうした録音作品を作る場合には、工程になんらかのAIが介在しているのはもはや普通です。最近はDAWのソフトウェアにClaudeを連携させるような例も出てきてますね。それから……(徐々に専門的な話に突入)」

沼野雄司

――(咳払いして)ま、細かいことはともかく。そうすると何が起こるの?

柴山「例えばシンセのパラメータを理解して操作するのが、今より簡単になったり」

向井「IRCAMでの私の制作では、浄瑠璃を素材として扱ってるんですが、AIを使ってその語り言葉を器楽へとモーフィングさせたりもできる。かなりいろいろな工夫が必要ですが」

――ただ、それは〈作曲する〉のとは本質的には少し違いますよね? 一種のエフェクトという気がする。たとえば、新しい管弦楽曲をAIに作らせて、それを楽譜として出力することは可能なのだろうか。

坂東「それは今はまだ無理かもです。精度高くないものなら出来るかもですが。楽譜とオーディオでの出力は、思考方法が根本的に異なっていますから」

柴山「この前、和声課題を画像としてAIに送ってやらせようとしたんですが、全然ダメでした。AIがそれらしい結果を出すためには膨大な学習データと専用の認識技術が必要だけど、その両方がないから楽譜が読めない。MIDIデータならかなり読めると思いますけど」

向井響

――確かに文章はWeb上にいくらでもあるけど、楽譜はあんまりないよね。とすると、今のところ〈現代音楽〉の作曲はAIと相性がよくない?

坂東「ええ、少なくとも、楽典から始めて徐々に複雑なものを積み上げていく、いわゆる音大の教育で習うような作曲の手順とAIのやり方は全く違う」

――AIの学習の仕方は、われわれの考える〈基礎〉からではなくて、〈結果〉から入るわけか。

坂東「そしてクラシックの〈主題労作〉みたいなものは、サウンドそのものというよりは五線譜の上での〈視覚的な〉操作という側面があるから、その意味でもAIのオーディオの生成とは違う方向を向いてますね」

――なるほど。逆にいえば、楽譜ベースで作られているクラシックは、楽譜という〈視覚〉にかなり依存しているから、実はけっこう非・音楽的なのかもしれないな……。

坂東「いずれにしても僕はAIに関しては、まだ〈0波〉の段階だと思ってます。この先にもっと悪魔的ともいえるような用法が出てきてからが本番という感じがする」

 

柴山真太朗

――悪魔的。でも、それは可能性でもあるね。さて、みなさんの新作の展望を。

柴山「僕は最近、フルクサス的な、言葉によるテキストスコアを使った実験音楽を手掛けることが多いのですが、これならAIはかなり得意なんですよ。それこそ〈オノ・ヨーコ〉的な作品、と指示したらちゃんと出てくる」

――なるほど、レフ・マノヴィッチの新しい本(「人工美学」)にも、それに似た例が出てた。となると、新作もテキストスコア?

柴山「基本的には。細部は構想中ですが、テキストスコアといっても、いろいろ工夫して面白い結果を出力したいと思ってます」

向井「僕はこのところ、AIにどこまで浄瑠璃というジャンルを学習させることができるのかを試してきたので、新作もその延長線上になると思います。単に演者の声を作るだけではなくて、日本語とポルトガル語をAIで合成したテキストを歌わせたい。あとですね、AIを免罪符にも使おうと……」

――ん、免罪符?

向井「たとえば自分で詩を書くのは、ちょっと恥ずかしいじゃないですか。でも、AIを通すことによって愛やエロティックなあれこれ、あるいは宗教的なことであっても思い切って表現できるのではないかと」

坂東祐大

――そうか、さっきの〈悪魔的〉という話にもどこかでつながる気がするね。

坂東「僕はまだ、今のところいいアイディアを思いついてないです。普段の作風の延長線でAIを使うことをコンセプトに組み込むのがなかなか難しくて……。いずれにしても、AIに関しては1年後の予測さえ全然つかないわけで、これからはさまざまなゲームの戦い方が根本的に変わってくるように思ってます。その意味では、上の世代は逃げ切ることができてうらやましいなとも(横目でチラリと聞き手を見る)」

――オレはまだ現役だから逃げ切ってないよ! 9月の演奏会を心から楽しみにしています。

 


LIVE INFORMATION
Featuring Future シリーズ Vol. 1
ー21.5世紀の音楽ー
「AIと現代の音楽」

2026年9月26日(土)神奈川 横浜市港北区民文化センター ミズキーホール
開場/開演:13:30/14:00

第1部 シンポジウム「AI(人工知能)と現代の音楽について」
■登壇者
安藤大地(作曲家、音楽/情報科学研究者、東京都立大学学術情報基盤センター教授)
徳井直生(株式会社Neutone 代表取締役、跡見学園女子大学情報科学芸術センター特任教授)
中ザワヒデキ(美術家、人工知能美学芸術研究会(AI美芸研)代表)
沼野雄司(音楽学者、神奈川芸術文化財団 音楽事業芸術参与/企画監修)

第2部 AI × 委嘱作品 世界初演コンサート
■出演
柴山真太朗
坂東祐大
向井響

https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/future01