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ピアニスト萩原麻未、東京文化会館の2大企画に〈新しい命〉を吹き込む――平常との現代人形劇「ロミオとジュリエット」&堤剛(チェロ)とのプラチナ・シリーズ

※編集部注 〈プラチナ・シリーズ第4回 堤剛~至高のチェリスト~〉は堤剛の関節炎に伴う療養のため中止となりました。以下のインタビューは中止発表の前に行われたものです

 ピアニストの萩原麻未(1986年広島市生まれ)は、東京文化会館が小ホールを舞台に企画した意欲的な主催公演2つへ、立て続けに出演する。

 1つ目は平常(たいら・じょう)が同ホールで続ける現代人形劇のシリーズ第6作に当たる「ロミオとジュリエット」(1月31日&2月1日)で、中高生を対象にした〈シアター・デビュー・プログラム〉の一環。シェイクスピア不朽の名作をもとに平が脚本と演出、人形操演に当たり、チェロ奏者の宮田大が音楽構成と選曲を手がける。

 萩原は「平さんの舞台には夫(ヴァイオリニスト成田達輝)が以前出演しましたが、私は全く初共演です。さらに言えば人形劇とピアノの組み合わせ、演劇的要素の強い企画に参加すること自体がほぼ初めてです」と明かす。「もともとピアノソロのリサイタルよりも室内楽など誰かと一緒につくるプロセスを好んできたため、今回、音楽と人形のコラボレーションという総合芸術の一端を担えることに相当の魅力を感じています」。

 「自分が物語の中に身を置き、音楽の演奏を通じて入っていけるという期待はあります」。平と宮田はすでに「ハムレット」(2016)、「SALOME」(2019)、「ピノッキオ」(2023)の現代人形劇シリーズで協働、平がイメージする台本の執筆に合わせながら時間をかけ、選曲する。今回はラヴェルやラフマニノフ、サン=サーンスなどのピアノ曲&協奏曲が中心になりそうだ。

 すでに始まった音楽稽古では萩原がオーケストラ作品も含めて演奏しながら、平がセリフを擦り合わせていく。「ちょっとしたニュアンスにも反応、セリフの間合いがどんどん変わるので、平さんの音楽的感性は本当に鋭いですね。朗読付きの演奏会の経験はありますが、これだけの言葉と絡むコミュニケーションは初めて。室内楽の密な音楽の会話に近い世界です。舞台セットも素敵なので、衣裳の色にも気をつけたいと思います」。

 もう1つは内外一流アーティストの至芸を小ホールの空間で堪能する贅沢な企画、〈プラチナ・シリーズ〉第4回での堤剛(チェロ)との共演。堤と萩原のデュオは2016年7月、マイスターミュージックにフランクとR・シュトラウスのソナタ、三善晃の“母と子のための音楽”を録音する企画とともに始まった。2019年には同じレーベルにラフマニノフとベートーヴェン(第4番)のソナタ他も収め、すでに気心知れた仲だ。

 「CDのお話をいただいた時点ではまだ、共演歴がありません。堤先生が果たして気に入ってくださるかも不安で〈一度だけ、実際にご一緒させていただけますか〉と私がお願い、町田市内(東京都)の小さなサロンでの共演が実現しました。いざ共演させていただくと、堤先生のようにあれだけ偉大な方にも関わらず、私との年齢差関係なく、同じ目線で向き合ってくださることに大変感激し、自然と緊張がほぐれることに時間はかかりませんでした。堤先生の素晴らしいお人柄がそのまま伝わってくるような、作品への深淵なアプローチ、スケールの大きな音楽に私も大船に乗った気持ちで、本番でしか生まれ得ない大切な瞬間を感じながら、のびのびと演奏させていただいています」。

 2月22日の東京文化会館小ホールではベートーヴェンの第4番、ブラームスの第2番、ドビュッシー、R・シュトラウスのチェロ・ソナタ4曲で共演。ピアノとのほかに権代敦彦の新作(夫人で劇作家の堤春恵の委嘱)““N”-ん-(チェロと尺八のための)”世界初演(尺八=黒田鈴尊)があり、堤の文化勲章受賞祝いも兼ねる公演になった。

 萩原は目下、第2子を懐妊中。このホールには2020年2月22日、コロナ禍ですべての演奏会が中止や延期に追い込まれる僅か4日前にリサイタルを行った奇縁もある。「大ホールよりも客席全体を見渡せ、お客様に良い音楽を提供できる環境が整っていますし、歴史ある会場で弾かせていただく喜びもあります。教鞭をとっている東京藝術大学から歩いて来られる利便性があり、移動も楽です」。萩原は新しい命の鼓動をじかに感じつつ、2025年1~2月の公演に臨む。

 


萩原麻未(Mami Hagiwara)
広島県出身。2010年、第65回ジュネーヴ国際コンクール〈ピアノ部門〉において、日本人として初めて優勝。第27回パルマドーロ国際コンクールにて史上最年少の13歳で第1位。現在、日本、フランスを中心に、スイス、ドイツ、イタリア、ベネズエラ、ベトナムなどで演奏活動を行っている。東京藝術大学常勤講師として後進の指導にも力を注いでいる。

 


LIVE INFORMATION
Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム
平常 × 萩原麻未『ロミオとジュリエット』

2025年1月31日(金)東京文化会館 小ホール
開場/開演:18:30/19:00

2025年2月1日(土)東京文化会館 小ホール
開場/開演:13:30/14:00

■出演
平常(たいら じょう)(脚本・演出・人形操演)/萩原麻未(ピアノ)

■曲目
ラヴェル:『マ・メール・ロワ』より/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18より/サン=サーンス(リスト編曲):死の舞踏 S555 R240/サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 Op.78「オルガン付き」より ほか

https://www.t-bunka.jp/stage/23433/

Music Program TOKYO
プラチナ・シリーズ第4回 堤剛~至高のチェリスト~ ※公演中止

2025年2月22日(土)東京文化会館 小ホール

■出演
堤剛(チェロ)、小菅優(ピアノ) 、黒田鈴尊(尺八)

※萩原麻未は第2子妊娠に伴う出産準備に入るため出演を見送ることとなり、代わって小菅優が出演します(2024年12月13日)

※本公演は、出演者(堤剛/チェロ)の関節炎に伴う療養のため、中止となりました(2025年1月21日)

https://www.t-bunka.jp/stage/21585/