パリと東京から世界にむけて。Tokyo & Paris to the NEXTへの期待
2025年11月13日、東京文化会館。この日、第2回フェスティヴァル・ランタンポレルのトーク・イヴェントが、小ホールで開催された。登壇したのは5名。このフェスティヴァルをプロデュースする作曲家、ピアニストであり東京文化会館音楽監督の野平一郎、第一回からこのフェスとコラボレーションするIRCAMの副芸術監督でありマニフェスト・アカデミー部門ディレクターも務めるスザンヌ・ベルティ、今回のフェスでフィーチャーされたアンサンブルTrio K/D/M(トリオ・カデム)の芸術監督でアコーディオン奏者のアントニー・ミエ、今回のIRCAMシネマで日本初演されたサイレント・フィルムと室内楽アンサンブルのための作品“チャップリン・ファクトリー”の作曲者マルティン・マタロン、そして14日のコンサートを締めくくった作曲者とのトーク・イヴェントで、初演されたばかりの作品を作曲者とともにその魅力を掘り下げた音楽学者の沼野雄司だった。
この日、トークだけでなく今年生誕100年を迎えたIRCAMを組織した作曲家、指揮者のピエール・ブーレーズの“アンセム 1”、ゲストとして参加した向井響の“lava. Depois pó.Depois nada.”(世界初演)、二つの独奏ヴァイオリンのための作品が演奏された。
トークではまずIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)がどのような組織かが紹介された。作曲家が音楽制作を行い作品を発表する施設(レジデント・アンサンブルはアンサンブル・アンテルコンタンポラン)であり、音楽を現象として科学的に研究し、あらたなテクノロジーを開発する研究機関であるとともにその知見を広め教える教育機関でもあるという。設立以来、研究所は国内外からアーティスト、研究者を招くと同時に他国の同様な研究機関と提携したプロジェクトも手掛けてきた。IRCAMはパリにあって今日の音楽制作/研究/教育の国際的な拠点としてあり続けている。今回披露される、その技術を活かした最新作のひとつ“チャップリン・ファクトリー”について作曲家当人が語り、その演奏の一翼を担うトリオ・カデムについてアントニー・ミエから、アコーディオンと二人の打楽器奏者というユニークな編成のアンサンブルの出自と近況が語られた。そして東京文化会館とIRCAMとの今後のコラボレーションによるプロジェクトの説明があり、最初に参加する作曲家となる向井響が紹介され、彼の新作が披露されてイヴェントは終了した。
翌日フェスティヴァル開演前に、あらためてこのコラボレーションによる新たなプロジェクトについての記者発表が同館会議室で行われた。
プロジェクトは〈音楽クリエイター育成プロジェクト Tokyo & Paris to the NEXT〉と題されて〈音楽芸術を扱う日本人若手クリエイター(作曲家、音響エンジニア)〉を対象に東京文化会館とIRCAMが共同で作曲を委嘱し、パリでIRCAMのクリエイターとの共同制作を実施するという。2025年からの3年間はトーク・イヴェントにゲストとして登場した向井響(’26年)、北爪裕道(’27年)、横山未央子(’28年)が順に渡仏し制作に着手する。すでに向井は9月からIRCAMに赴き施設のクリエイターらからレクチャーを受けていて、年が明けると本格的に作曲を開始する。第1作となる向井の作品は’27年1月にパリ、2月には東京で初演の予定。北爪、横山も同様のスケジュールで制作に入り、’28年、’29年に作品が発表される。
向井はIRCAMで受けたレクチャーではモーフィングという技術に興味を持ったという。それは簡単に言えば、ピアノの音を尺八の音に変形させる、そんな音響技術のことのようだ。人形浄瑠璃に関心を持ち、この伝統芸能のために新作を書く作曲家は膨大な浄瑠璃のヴォーカル・フッテージが手元にありモーフィングを試してみたいと語っていた。これまでも海外の電子音楽の研究所で研究制作し、すでに生楽器と電子音響がアンサンブルする作品を多数発表してきた向井の感性が、IRCAMの現在に何を聞き、見つけるのかとても興味深い。
東京文化会館とIRCAMがともに若手クリエイターたちの新たな国際的な活動の場を創設したことが、このフェスティヴァルを機に音楽の現在が動き始めたんだと言える日が来るのも近い、と感じた。
LIVE INFORMATION
野平一郎プロデュース フェスティヴァル・ランタンポレル Festival de l’Intemporel ~時代を超える音楽~ *この公演は終了しました
2025年11月13日(木)~17日(月)東京文化会館
フェスティヴァル・ランタンポレル トークセッション *この公演は終了しました
2025年11月13日(木)東京文化会館 小ホール
開場/開演:18:30/19:00
■出演
マルティン・マタロン、アントニー・ミエ、野平一郎 ほか
IRCAMシネマ「チャップリン・ファクトリー」~現代音楽と無声映画のコラボレーション~ *この公演は終了しました
2025年11月14日(金)東京文化会館 小ホール
開場/開演:18:30/19:00
■上映映画
「放浪者」(1916年)、「舞台裏」(1916年)、「移民」(1917年)
監督:チャーリー・チャップリン
出演:チャーリー・チャップリン ほか
作曲・指揮:マルティン・マタロン
(2024年IRCAM-Centre Pompidou, the Compagnie Cadéëm, the Centre Henri Pousseur委嘱作品)
■出演
指揮:マルティン・マタロン
Trio K/D/M(トリオ・カデム)
アコーディオン:アントニー・ミエ
パーカッション:エミル・クイヨムクイヤン、ギ・フリッシュ
ソプラノ:砂田愛梨*
クラリネット:西川智也*
チェロ:髙木慶太
トロンボーン:髙瀨新太郎*
IRCAMエレクトロニクス:ディオニジオス・パパニコラウ
IRCAMサウンド・ディフュージョン:シルヴァン・カダー
Trio K/D/M(トリオ・カデム)~アコーディオン&パーカッションアンサンブル~ *この公演は終了しました
2025年11月15日(土)東京文化会館 小ホール
開場/開演:17:15/18:00
■出演
Trio K/D/M(トリオ・カデム)
アコーディオン:アントニー・ミエ
パーカッション:エミル・クイヨムクイヤン、ギ・フリッシュ
IRCAMエレクトロニクス:ディオニジオス・パパニコラウ
IRCAMサウンド・ディフュージョン:シルヴァン・カダー
マルティン・マタロンによるマスタークラス *この公演は終了しました
2025年11月16日(日)東京文化会館 大会議室
開始:11:00
キャロル・ロト=ドファン(ヴィオラ)&東京文化会館チェンバーオーケストラ・メンバー ~モーツァルト&ベンジャミン~ *この公演は終了しました
2025年11月16日(日)東京文化会館 小ホール
開場/開演:14:15/15:00
■出演
ヴァイオリン:篠原悠那*/福田麻子*
ヴィオラ:キャロル・ロト=ドファン/田原綾子*
チェロ:上村文乃*/加藤文枝*/西田 翔*
コントラバス:白井菜々子*/水野斗希*
メゾソプラノ:花房英里子*
指揮:馬場武蔵
*東京音楽コンクール入賞者・入選者
福間洸太朗ピアノ・リサイタル~モーツァルト&ベンジャミン~ *この公演は終了しました
2025年11月17日(月)小ホール
開場/開演:18:15/19:00
■出演
ピアノ:福間洸太朗