NHK交響楽団創立100年の記念すべき年に、N響を40年にわたり指揮した名匠ヴォルフガング・サヴァリッシュの貴重な遺産が最新リマスターでSACDハイブリッド盤化された。〈タワーレコード × “Sony Classical” 究極のSA-CDハイブリッド・コレクション〉シリーズ第13回の『メンデルスゾーン:オラトリオ「エリア」1986年N響創立60周年第1000回定期ライヴ』『ベートーヴェン:交響曲第5番・第8番、ブラームス:交響曲第1番、R.シュトラウス:死と変容』だ。今回はこの2作をTOWER CLASSICAL SHIBUYAのスタッフ森山慶方に紹介してもらった。 *Mikiki編集部
N響のカラーを作ったサヴァリッシュの輝かしい名演がSACD化
NHK交響楽団100年。内外の数多くの指揮者たちが登壇し、日本におけるクラシック音楽の発展と浸透を図るべく数々の名演を繰り広げてきた。なかでもドイツの名指揮者、ヴォルフガング・サヴァリッシュ(1923-2013)との40年間は〈N響100年史〉に輝かしいページとして刻まれている。
サヴァリッシュはほぼ毎年のようにN響を指揮し、ある意味で伝統的なN響のカラーを形作った中心的存在だ。今回〈N響100年〉を記念して、N響100年の歴史を振り返る上で欠かすことのできないサヴァリッシュとのアルバムが各2枚組2タイトルにまとめられ、初めて高音質仕様のSACDハイブリッド盤としてリイシューされた。
まず、1986年創立60周年第1000回定期公演ライブ、メンデルスゾーンの大作、オラトリオ“エリア”。管弦楽に10人の独唱者、200名を超える大合唱を擁し、さらにパイプオルガンをも含む大規模作品に対し、放送ラインとは別にマルチ録音のセッティングを敷き、万全を期して収録、初出時は約50日足らずでリリースされ、話題となった。
もう1組は、サヴァリッシュとN響の貴重な唯一のセッション録音(1982年)であるベートーヴェンの交響曲第5番・第8番。これを、名誉指揮者就任20年を記念した1987年ライブ録音のリヒャルト・シュトラウスの“死と変容”、ブラームスの交響曲第1番と組み合わせた2枚組。ベートーヴェンは当時欧米でもRCAやエラートから海外規格で発売され、N響のディスコグラフィにおいて今なお重要な位置を占める一枚。“死と変容”はシュトラウスの権威だったサヴァリッシュにとって唯一の正規録音であったし、ブラームスの第1番はサヴァリッシュが初来日時にN響を指揮したプログラムのメイン曲だ。コンサートの現場で長きにわたって心血を注いだオーケストラとしてのN響とのディスク制作に関して言えば、時期といい選曲といい、結果的にではあろうけれど、サヴァリッシュはある種のモニュメンタルな〈里程標〉として位置付けていたのかもしれない。
フィジカルで実感するメンデルスゾーン“エリア”の特別な意味
そういった〈音楽的遺産〉を見識ある編成のもとに選び抜き、最良の〈フィジカル〉として〈実在化〉することの意味は現況ますます高まっている。その強力な手段としての今回のSACDハイブリッド化、一聴、音像の鮮度が明瞭に向上し、音のエナジー感の手ごたえをしっかりと受け取れるのは大きなメリットだ。ベートーヴェンの第5番冒頭や終楽章への経過部で聴けるキレのあるソノリティ、そして“エリア”での大規模編成から生み出される楽音の厚み。“死と変容”でのソロ楽器の美しい明滅なども音のリアリティが感得できる好例だろう。元々が当時の最良の技術でエンジニアリングされた音源であり、ベートーヴェンは2002年に一度リマスターもされている。それでもなお、リフレッシュの効果を新たに活性化された音楽として享受する意義は深い。SACD層に加えて、従来盤との比較において通常のCD層でも刷新感を実感できたことも特筆したい。
また、ブックレットの高いクオリティについて付言しておきたい。精選され、濃密に収納された文字情報には、失われてはならない〈ジャーナル〉としての価値があることを痛感する。そこも含めて〈フィジカル〉のもつ有意味性をあらためて考えさせてくれた。
サヴァリッシュにとって“エリア”は特別な作品だ。このことはサヴァリッシュが当録音に寄せた、ブックレット収載のテクストからも窺い知れる。旧約聖書に登場する預言者を主人公とするこのオラトリオはまず、英国・バーミンガムで〈英語版〉がメンデルスゾーン自らの指揮で初演された。翌年には改訂版を完成し出版に至る。もちろん〈ドイツ語版〉が作られたが、すでに病を得ていたメンデルスゾーンにはもう指揮をする力はなかった。サヴァリッシュは一貫してドイツ語版を使用、38歳で早世した〈ドイツの偉大な抒情詩人〉であり〈ロマン主義者〉の最後の完成作品にメンデルスゾーンの本質を見い出し、〈人間〉の姿を活写する。忘れ去られていたバッハ“マタイ受難曲”の復活上演という、メンデルスゾーンの歴史的偉業に象徴されるように、バッハやヘンデルから受け継いだ系譜の証しとして、サヴァリッシュは“エリア”を捉えているし、N響との特別な公演でそのことを啓く喜びがすべての演奏者たちを巻き込んではち切れんばかりに横溢している。
サヴァリッシュはメンデルスゾーンゆかりの地、ライプツィヒで1968年に当時のフィリップスへセッション録音し、これはサヴァリッシュ壮年期の名盤のひとつとして知られる。さらにその他のディスク化されたライブ盤を併せ含めても、このN響1986年盤に息づく価値はそれゆえ特別なのだ。サヴァリッシュはその後2001年のN響75周年に際してもこの“エリア”を取り上げた。まさに汲めども尽きせぬ音楽の喜びをこのサヴァリッシュとN響の“エリア”はまとっている。
序曲に先立っていきなりエリアが導入する第一声から始まり、不穏を増幅する序曲が高潮の末に救いを求める民衆の大合唱へと移行する。冒頭のその劇的展開は圧倒的だ。第1部のクライマックス、第19曲でヴァイクルが歌うエリアの祈念の面持ち、その旋律の美しさ。接続していく第20曲、奇跡への民衆の感謝の合唱、豊麗に輝く管弦楽のソノリティ。2部にわたって各曲が緊密に配置され、それらで開示される音楽的深度から言っても、“エリア”こそはメンデルスゾーンの最高傑作にふさわしい。
ベートーヴェンにしても響きの稠密度の高さが際立っており、〈すみずみまで曇りがなく揺るぎのない演奏〉とは例えばこのような演奏を指すのだろう。この一枚こそは、サヴァリッシュが求める音楽に対しN響が全霊をもって応えたベートーヴェン録音としてひとつの〈理想型〉と言えるのではないか。
ブラームス&シュトラウスの演奏に込めた想いに感銘を受ける音楽的遺産
サヴァリッシュが名誉指揮者就任20年という画期を踏まえての“死と変容”、ブラームスの第1番も実に味わいが深い。サヴァリッシュの貴重な録音となる“死と変容”はまさに会心の演奏で、暗から明へ、リヒャルト・シュトラウスが巧みに綴った独特の書法に横溢する陶酔感をサヴァリッシュの自在なコントロールのもと、N響が絶妙な音響美で表現している。ブラームスの交響曲第1番で聴かせる、作品を深く掘り下げようとする姿勢が強固なまでに合一した末に現れる音楽の揺るぎない強さは瞠目すべきもので、この第1番も含まれていたN響初指揮からの歳月に宿る万感の想いを感じさせずにはおかない。終楽章のホルン主題からのここぞとばかりに重心低く噛んで含めるような筆致は、この演奏の根底をなすものでもあり、大詰めの強靭なコラール吹奏に見事に結実していく過程がことのほか感銘深い。
このように、サヴァリッシュの意志が透徹したプロダクトであるこれらのタイトルは、巨匠サヴァリッシュがN響と真摯に取り組んだ芸術の追求の証しでもある。〈N響100年〉に復刻するにふさわしい〈音楽的遺産〉として、ぜひ座右に置き、心してじっくりと傾聴したい。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2026年8月26日(水)
品番:SICC-19094
価格:5,940円(税込)
TRACKLIST
メンデルスゾーン:オラトリオ「エリア」作品70 MVW A25(1986年N響第1000回定期ライヴ)
■演奏
ルチア・ポップ(ソプラノI)、曽我榮子(ソプラノII)、五十嵐郁子(ソプラノIII)、アリシア・ナーフェ(アルトI)、荒道子(アルトII)、ペーター・ザイフェルト(テノールI)
小林一男(テノールII)、ベルント・ヴァイクル(バスI)、高橋啓三(バスII)、福島明也(バスIII)
草間美也子(オルガン)
国立音楽大学(合唱)、合唱指揮:長井則文
NHK交響楽団
指揮:ウォルフガング・サヴァリッシュ
■オリジナルレコーディング
録音:1986年10月1日&2日、NHKホールでのNHK交響楽団第1000回定期公演でのライブレコーディング(デジタルレコーディング)
プロデューサー:金子哲理
レコーディングエンジニア:半田健一
リマスター:世界初ハイブリッド化、発売以来初のリマスター、初のDSDリマスター
リマスターエンジニア:鈴木浩二(ソニーミュージック・スタジオ)
ライナーノーツ:ウォルフガング・サヴァリッシュ「メンデルスゾーンと『エリア』」、池田卓夫、金子哲理、曲目解説:星野宏美、歌詞対訳付き(歌詞訳:星野宏美)
商品の説明
※世界初SA-CDハイブリッド化
※音匠レーベル使用
※日本独自企画・完全生産限定盤
※マルチケース仕様
リリース日:2026年8月26日(水)
品番:SICC-19094
価格:5,940円(税込)
TRACKLIST
ベートーヴェン:交響曲第5番・第8番、ブラームス:交響曲第1番、R.シュトラウス:死と変容
DISC 1
ベートーヴェン:
1-4. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
5-8. 交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
DISC 2
R.シュトラウス:
1. 交響詩「死と変容」作品24 TrV 158
ブラームス:
2-5. 交響曲 第1番 ハ短調 作品68
■演奏
NHK交響楽団
指揮:ウォルフガング・サヴァリッシュ
■オリジナルレコーディング
録音(デジタルレコーディング):1982年5月7日 & 8日、埼玉県新座市民会館でのセッションレコーディング(DISC 1)、1987年4月30日 & 5月1日、NHKホールでのNHK交響楽団第1023回定期公演でのライブレコーディング(DISC 2)
プロデューサー:陶山義則(DISC 1)、金子哲理(DISC 2)
レコーディングエンジニア:大野正樹(DISC 1)、鈴木智雄(DISC 2)
ミキシング&エディティング・エンジニア:半田健一(DISC 2)
リマスター:世界初ハイブリッド化
・DISC 1=2002年以来24年ぶり2度目のリマスター、初のDSDリマスター
・DISC 2=発売以来初のリマスター、初のDSDリマスター
リマスターエンジニア:鈴木浩二(ソニーミュージック・スタジオ)
ライナーノーツ:池田卓夫、金子哲理、曲目解説:門馬直美、歌崎和彦
■商品の説明
※世界世界初SA-CDハイブリッド化。SA-CD層:2ch
※音匠レーベル使用
※日本独自企画・完全生産限定盤
※マルチケース仕様

