入念な準備と優れた身体能力――〈指揮者はエンターテイナー〉の原田慶太楼
85年東京・品川生まれの指揮者、原田慶太楼がNHK交響楽団との初共演盤『Danzón(ダンソン)』を2021年6月23日、日本コロムビアからリリースする。2020年11月25日 & 26日、サントリーホールの演奏会をそのまま収めたライブ盤だ。4歳から17歳まで都内のインターナショナル・スクールに通った後はアメリカ合衆国が本拠、同地とロシアで指揮を学んだ。日本では2014年に新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮してデビュー。「コロナ禍をきっかけに忙しくなった」のは本人も認めるところで、来日をキャンセルした外国人指揮者の代役を次々と引き受けて認知度、人気ともに急上昇した。2021年4月には東京交響楽団正指揮者のポストも得た。
真のターニング・ポイントは2019年8月、コロナ禍の前に訪れていた。8月3日の〈フェスタサマーミューザ KAWASAKI〉と翌日の〈N響ほっとコンサート〉(同一曲目)で初共演したN響楽員をアンコールのヒナステラ“バレエ音楽《エスタンシア》”の“終幕の踊り《マランボ》”(グスターボ・ドゥダメルの十八番)で立たせ、踊らせてしまったのだ。「僕は子どもたちに〈オーケストラって、かっこいいね〉と思ってもらいたい一心で楽員の皆さんに〈是非立って演奏して!〉と頼みました。楽員の立ち演奏で会場がとても盛り上がり、楽しいコンサートになりました。今年の〈ほっとコンサート〉では台本も引き受けたので、たくさんの〈サプライズ〉を入れました」
「アメリカで数多くの育成コンサートを手がけた経験を踏まえ、僕は指揮者もオーケストラもエンターテイナーだと自負します。コロナ禍の中、コンサートに来てくださるお客様はリスクをとり〈感動したい〉〈ジーンとした気持ちに浸りたい〉のエンターテインメントを求めておられるのです。リハーサルでは音色や奏法、和声を整えるのみならず、楽譜に書かれていない内容を言葉でじっくりと説明し、どれだけ多くの物語を引き出していけるかに全力を傾けます」。原田のリハーサルは無駄なく適確、全身を駆使したダイナミックな指揮はあくまで本番用の起爆剤だ。
原田慶太楼, NHK交響楽団 『Danzón(ダンソン)~コープランド、バーンスタイン、ウォーカー、ピアソラ、マルケス』 コロムビア(2021)
南北アメリカ音楽を集めた『Danzón』もエンターテイナー・原田 & N響の魅力が全開したアルバムだが、しみじみと語りかけるコープランド“バレエ組曲《アパラチアの春》”、ウォーカーの“弦楽のための抒情詩”など、爆発一辺倒ではないダイバーシティを備える。ジョージ・ウォーカー(1922ー2018)は96年、黒人で初のピューリッツァー賞を授かった作曲家だ。「BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人差別に対する抗議運動)が活発化した年に、アメリカ本拠のアジア人指揮者として、絶対に手がけるべき作品だと思いました」。慶太楼の奥行きは深い。
LIVE INFORMATION
パシフィック・ミュージック・フェスティバル
2021年7月23日(金)北海道・札幌コンサートホール Kitara
開場/開演:14:00/15:00
2021年7月24日(土)北海道・札幌コンサートホール Kitara
開場/開演:13:00/14:00
出演:原田慶太楼(指揮者)/三舩優子(ピアノ)/郷古廉(コンサートマスター)
PMFオーケストラJAPAN
■曲目
バーンスタイン:「キャンディード」序曲/ガーシュウィン:ピアノ協奏曲 へ調/コープランド:ロデオ ‐ 4つのダンス・エピソード他
http://kharada.com/schedule/