インタビュー

パーヴォ・ヤルヴィ(Paavo Järvi)が語るコロナ禍での試み、N響との再会、ブルックナー&ストラヴィンスキーの録音

パーヴォ・ヤルヴィ『ブルックナー:交響曲全集(第0番~第9番)』『20世紀傑作選4ストラヴィンスキー:春の祭典』

©Kaupo Kikkas

ライフワークと位置付けてフランクフルト放送交響楽団と大切に進めてきたブルックナー交響曲全集が完成! そして、NHK交響楽団と練り上げたストラヴィンスキー第二弾。没後50年に15年ぶりの再録音となる“春の祭典”を含むメモリアル・アルバムをリリース!

 パーヴォが帰ってきた。彼が去る6月に指揮したNHK交響楽団の特別公演は、2015年のシーズンからシェフをつとめてきたオーケストラとの、1年3ヶ月ぶりの再会にあたるものだった。

 「長かったというのが実感です。N響と取り組む予定だった意欲的なプログラムの数々も、渡航が制限された間に、その多くがご破算となってしまった。今回のステージに立ってみて、楽団員はもちろん、日本の聴衆と結んできた絆をかみしめる思いがします。この秋から、首席指揮者として臨む最後のシーズンが始まります。我々が積み重ねてきた音楽作りを、そこで改めて評価していただければ……」

 コロナ禍のもとで、多くの都市がロックダウンにまで追い込まれたヨーロッパ。そこに彼も身を置きながら、自己を見つめ直す日々を過ごしたという。

 「多くの音楽家が職を失い、特にフリーランスの演奏家の境遇は悲惨なものでした。こうした状況を支える国際的な共同体制などは存在しない。そのこと自体にフラストレーションを抱きましたね。さらには施政者たちの無策が招く事態の悪化。我々の世界がカタストロフへの備えなどできていない事実を、良くも悪くも確かめる機会だったと思います。
 しかし悲観することばかりではない。昨年の秋以降、幸いにして私は自分のオーケストラであるチューリヒ・トーンハレをはじめとする、様々な楽団のストリーミング配信プログラムを指揮する機会に恵まれました。当初はいわゆるソーシャル・ディスタンス配置で、今までにない音響面の困難を抱えながら。そもそも弦楽器のプルトが組めないと、譜めくりからして支障をきたします(笑)。マスクの着用も各現場の判断次第。無観客の状態で始め、そこへ徐々に聴衆をどう迎え入れるか……。世界のオーケストラがこうして〈新たな日常〉を模索し、共有する過程の当事者となったのは貴重な経験です。コロナ禍に向き合う上で可能なことを、ありとあらゆる形で試す場に立ち会えたと自負しています」

 レコーディング・アーティストとしての日常までいったんの仕切り直しを強いられたパーヴォだが、コロナ禍以前に収録を終えていた音源のリリースは大物が控えている。それもブルックナーの交響曲全集。既発売の8曲に“第0番”と“第8番”を加えたボックスでお目見えするものだが、これはライフワーク的な姿勢で彼がじっくりと練り上げたプロジェクトにあたる。2006年の“第7番”から数えて、完成まで実に11年を費やすに至った。

PAAVO JARVI, FRANKFURT RADIO SYMPHONY ORCHESTRA 『ブルックナー:交響曲全集(第0番~第9番)<完全生産限定盤>』 RCA Red Seal/ソニー(2021)

 「2017年に録音した“第0番”が最後の1曲となりました。ブルックナーが〈無効〉と記した作品ですが、実際には“第1番”よりも後に書かれており、彼がシンフォニストとして歩んだ軌跡をたどるには欠かせない存在。他の9曲をこなしてから取り組むのは、真価を理解する上でも非常に有意義だったと思います。そんな長い旅路を歩むパートナーとして、フランクフルト放送響は理想的なオーケストラでした。彼らが有するブルックナー演奏の〈血脈〉は大きな財産です。そして透明度の高い合奏は、この作曲家のイメージにつきまとう過度な重厚感や儀式めいた身振りを排しながらスコアを再現しようとする、私の解釈を見事なまでに生かしてくれます」

PAAVO JARVI, NHK交響楽団 『20世紀傑作選4ストラヴィンスキー:春の祭典』 RCA Red Seal/ソニー(2021)

 そしてN響とのストラヴィンスキー。“春の祭典”をメインに初期の管弦楽曲(“花火”“幻想的スケルツォ”、さらには2015年に再発見された“葬送の歌”)をカップリングした、2019年2月にサントリーホールで行なわれた演奏会のライヴだ。

 「現代のオーケストラにとって“春の祭典”はあまりにも〈簡単〉な演目と化してしまいました。初演当時はほとんど演奏不可能な箇所もあったのに、今や楽譜が単純明快に書かれているような印象すら与えかねない(笑)。それは曲の本質に逆らう現象だと私は思う。邪教時代のロシアを舞台とする音楽の根源的なパワーを、合奏精度を保ちながら掘り下げてみたい。まさにその点において、N響の持つポテンシャルの高さを再確認できるレパートリーですよ!」

 


LIVE INFORMATION

明電舎 presents N響名曲コンサート2021
2021年9月6日(月)東京・赤坂 サントリーホール
開場/開演:19:00
曲目:エネスコ:ルーマニア狂詩曲 第2番 ニ長調 作品11-2/チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35(服部百音、ヴァイオリン)/サン・サーンス:交響曲 第3番 ハ短調 作品78「オルガンつき」
https://www.nhkso.or.jp/concert/20210906.html

NHK交響楽団 第1936回 定期公演 池袋Cプログラム
2021年9月10日(金)東京・池袋 東京芸術劇場 コンサートホール
開場/開演:18:30/19:30(休憩なし)
2021年9月11日(土)東京・池袋 東京芸術劇場 コンサートホール
開場/開演:13:00/14:00(休憩なし)
曲目:バルトーク:組曲「中国の不思議な役人」/管弦楽のための協奏曲

https://www.nhkso.or.jp/concert/20210910.html

 


PROFILE: パーヴォ・ヤルヴィ (Paavo Järvi)
62年、バルト三国の一つエストニアの首都タリン生まれ。古典から現代音楽までを網羅する幅広いレパートリーで先鋭的で鮮度の高い演奏を実現する手腕は同世代の中で群を抜く。N響首席指揮者、ドイツ・カンマーフィル芸術監督、エストニア祝祭管創立指揮者、ペルヌ音楽祭主宰。チューリヒ・トーンハレ管首席指揮者兼音楽監督。

タグ