川谷絵音の優れた批評性と卓越したプロデュース・ワークに裏打ちされた4人組がメジャー・デビュー! 新作で繰り出すカウンターは〈テンポを落とした4つ打ち〉
2013年に発表された2枚のミニ・アルバム『ドレスの脱ぎ方』『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』がロング・セールスを記録。ファンクやプログレッシヴ・ロックなどを自在に採り入れたバンド・サウンドやラップ調も飛び出すヴォーカル、知性と悪意が混ざり合ったリリックによって、瞬く間にブレイクを果たしたゲスの極み乙女。から、メジャー・デビュー作『みんなノーマル』が届けられた。現在のバンド・シーンにおいて特異な個性を発揮している彼らだが、3枚目のミニ・アルバムとなる本作では、前作からのシフト・チェンジを試みている。その変化の中心にあるのは、高速の4つ打ちナンバーからの脱却だ。
「セカンドはあえて4つ打ちをやってみた作品だったんですよね。それは〈同じ4つ打ちでも、俺らだったら違うことができる〉という意味合いだったんですけど、そこでわかったのは、〈これ以上、いまのバンド・シーンに入っていく必要はないな〉ということだったんです。作品では他のバンドとの違いを見せられたと思うんだけど、ライヴだけを見るとお客さんは同じように盛り上がっていて、そのことに違和感を覚えたというか。だからこのアルバムは、とりあえずテンポを落とすところから始めたんですよ。前作は170〜180くらいのBPMの曲が中心だったんですけど、今回はかなりテンポを下げてますからね。1曲目の“パラレルスペック”も138だし」(川谷絵音、ヴォーカル/ギター/シンセサイザー:以下同)。
キレのいいギター・カッティングとファンキーなリズムが絡み合う“パラレルスペック”、叙情的なピアノのフレーズと心地良い16ビートがひとつになった“ユレルカレル”など、さらに奥行きを増したアンサンブルを堪能できる本作。そこにはゲスの極み乙女。が持つ音楽的な振り幅の広さが提示されている。
「例えばマイケル・ジャクソンの曲は(BPMが)120〜130くらいだし、ダフト・パンクの“Get Lucky”も120前後くらい。でも、たくさんの人が踊っていて、ヒットしてるじゃないですか。自分たちもそういうことがやれたらおもしろいだろうなって。4つ打ちだから踊るのではなくて、心にグッときたから踊るほうがいいじゃないですか。メンバーも個性的なプレイヤーばかりで、技術もあるから、俺が難しいことをムチャぶりしてもだいたいやってくれるし」。
現在のシーンに対する思いがダイレクトに反映されたリリックも、今作の特徴。豊潤なグルーヴを湛えたサウンドで身体を揺らしているうちに、川谷のシャープな言葉が次々と飛び込んでくる──その刺激的なバランスこそが、このバンドの最大の武器なのだと思う。
「〈ゲス〉という言葉にはいろんな解釈があると思うけど、俺は〈自分のなかにある黒い部分〉みたいな感じで捉えていて。このバンドではその部分を出してるんですよね。普段は言えないようなことをサウンドに乗せて歌うというか。今回のアルバムの場合は、〈自分の声が届かない〉〈歌が響かない〉という嘆きが如実に出てますね」。
川谷絵音の優れた批評性と卓越したプロデュース・ワークに裏打ちされたゲスの極み乙女。。現在のシーンに対するカウンター機能も備えた『みんなノーマル』によって彼らは、その異彩を放つ存在感をさらに強めていくことになるだろう。
「これが売れるかどうかによって、俺らの今後が決まるでしょうね(笑)。大事なのはリリース後だと思います。アルバムの曲をライヴでやったとき、みんながこのリズムについてきてくれるかどうか……。こういう曲で踊ってくれる人が増えるのは、もちろん良いことだと思いますけどね」。
▼関連作品
左から、ゲスの極み乙女。の2013年のミニ・アルバム『ドレスの脱ぎ方』『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』(gesukiwa)
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