ギター・ポップの聖地=グラスゴーを経由して、日本のインディー・シーンに届けられた新しい才能、Kazuna Hiroseが率いる5人組バンド、kazuna hirose with ECHO。Hiroseは日本に先駆けてスコットランドでソロ・デビューしているが、その時、彼をバックアップしたのは、なんとグラスゴー・シーンの顔役、スティーヴン・パステル(パステルズ)だった。まずはその経緯をHiroseに振り返ってもらおう。
「僕は生まれは日本なんですけど、両親の仕事の関係でフランスで育ったんです。でも、フランスで流行ってるテクノ系の音楽が好きじゃなくて。そんななかで、パステルズとかオレンジ・ジュースの音楽に出会ってグラスゴーのバンドが好きになったんです。それが中学生の頃。その後、日本に戻って高校に通ってたんですけど、高3の時にバイトで貯めた金でグラスゴーに行こうと決心して、スティーヴンが働いているレコード屋を訪ねてデモテープを聴いてもらったんです。そしたら〈レコードを作ろうよ〉って言ってくれた。しかもその夜、ノーマン・ブレイクのライヴに招待してくれて、行ったらジーザス&メリー・チェインとかモグワイ、ベル&セバスチャンとかグラスゴーのスターたちが勢揃いしていて、〈俺、こんなところにいていいの?〉って(笑)」。
思わぬ急展開でグラスゴー・シーンの仲間入りを果たしたHiroseは、「一人よりバンドを組んだほうがいい」というスティーヴンのアドヴァイスを受けて大学進学と同時にバンドを結成。メンバーそれぞれ通ってきた音楽は違えど「根底で同じ美学を持っている」バンド、ECHOと共に制作したのがファースト・アルバム『Grand M』だ。
「今回は山のようなアルバムを作りたいと思っていました。最近、日本のインディーってフワフワした軽い音のものが増えてきてるから、そのアンチテーゼじゃないですけどドッシリしたもの、機材とかもこだわってちょっとゴージャスなものを」。
作詞/作曲はすべてHiroseが手掛けていて、「ギターを持つとどんどん溢れ出てくる」メロディーは親しみやすく、バンド・サウンドはオーガニックで骨太。そして、ホーンが高らかに鳴り響くソウルフルな“Monkey Lagoon”や、ループするピアノとビートが柔らかなグルーヴを生み出す“Serchlight”、スタジオの窓や扉を開け放ってレコーディングしたナイーヴなバラード“FLOWER”など、メンバーでアイデアを出し合って作り込んでいくアレンジはヴァラエティーに満ちている。
「このアルバムには、いろんな音楽の玉があると思っていて。大地を突き破るような暴れ玉みたいな曲もあれば、触れば崩れるような、繊細な雪玉のような曲、カラフルなあめ玉みたいな曲もある。だからこのアルバムは〈音の玉〉をヒントに聴いてもらえればと思います」。
アルバムのなかに散りばめられたカラフルな音の玉。それをビリヤードのように勢いよくはじきながらHiroseのパワフルな歌声が疾走する。サウンドのところどころに仕掛けられたサイケデリックなエフェクトがそこに加わって、アルバムにハイな昂揚感を生み出しているのも本作の魅力だ。
「〈飛ぶ〉っていう感覚が好きなんです。生きていると、いろんなところでエクスタシーを感じるじゃないですか。ドラッグやセックスだけじゃなくて、例えば自転車で坂道を走り抜く時の〈おおおっ!〉みたいなのとか。音楽もそうだと思うんです。トリップできる曲を作りたいし、聴いてくれる人は曲ごとに旅してほしい」。
生々しさと洗練を併せ持った本作は〈ポップである前に、まずロックであること〉というグラスゴー・サウンドのエッセンスをしっかり受け継いでいる。でも、「次のアルバムはまた違ったものになると思います。いまは秘密ですけど」なんて不敵な笑みを浮かべるHiroseの音楽の旅(トリップ)は、ますますおもしろくなりそうだ。
kazuna hirose with ECHO
Kazuna Hirose(ヴォーカル/ギター)、Ami Seino(キーボード)、Takuya Endoh(ギター)、Satoru Isobe(ベース)、Yuki Kawasaki(ドラムス)から成る、全員が現役大学生の5人組。2011年に東京で結成。同年冬にHiroseが単身でスコットランドはグラスゴーに渡り、スティーヴン・パステル(パステルズ)へデモテープを渡したことをきっかけに、彼らの支援を受けて初のEP『19's trip』を制作(プロデュースは杉山オサムが担当)。2013年1月にまずグラスゴー/ロンドンを中心にリリースされ、2月には日本でも全国流通を開始する。その後はマイペースにライヴ活動を続けながらレコーディングを進め、2015年1月14日にファースト・アルバム『Grand M』(felicity)をリリースする。