(C)Takehiko Tokiwa @ The Jazz Gallery

 

 1940年代のビバップ全盛時代、それ以前は、ジャズのコンセプトとトラディションは、世代の異なるアーティスト達の共演によって受け継がれてきた。現代は、全米各地の大学にジャズ科が置かれ、多くの優秀な若手が教育システムの中で成長するが、やはりステップ・アップにはヴェテランとの共演が必要となる。

BRIAN LYNCH,EMMET COHEN Questioned Answer Hollistic MusicWorks(2014)

 本作の主人公の一人、1956年生まれの中堅トランペッター、ブライアン・リンチも、高校生の頃は地元でバディ・モンゴメリー(p)、メルヴィン・ライン(org)の薫陶を受け、ニューヨーク進出後は、フィル・ウッズ(as)、アート・ブレーキー(ds)、エディ・パルミエリ(p)らと共演によって、ジャズのエッセンスを吸収し自らの音楽を構築した。円熟の境地に達しつつあるリンチが、当時20歳でマイアミ大の学生のエメット・コーエン (p)に出逢ったのは、2011年の1月の ジャズ・クルーズだった。学生バンドで参加していたコーエンのプレイは、リンチに強い印象を残した。そして秋から偶然にもマイアミ大で教鞭を執ることとなったリンチは、コーエンとデュオのセッションを重ね、コーエンの作曲の才能をも見いだすこととなる。マイアミ大を卒業後、マンハッタン・スクール・オブ・ミュージックの修士課程に進んだコーエンは、ニューヨークで数々のグループに起用され頭角を顕す。

【参考動画】ブライアン・リンチ&エメット・コーエンのデュオによるパフォーマンス映像

 

 そして、リンチとのメンターシップは本アルバムに結実した。大ヴェテランのビリー・ハート(ds)、堅実なリズムを刻むボリス・コズロフ(b)のサポートを得て、コーエンはフレッシュなプレイを展開する。《How Deep is The Ocean》、《I Wish I Knew》、《Just In Time》では、緊密なデュオも聴かせてくれた。コーエンも、情報が溢れた現代でも、共演というリアルな経験からリンチから、多くのことを学んだと語っている。ジャズのたいまつが今、手渡された。