コラム

ノア・ハイドゥ(Noah Haidu)が深い慈しみを込めてキース・ジャレットに捧げたトリビュート作

ノア・ハイドゥ『Slowly: Song For Keith Jarrett』

©John Rogers

ノア・ハイドゥの中で輝く、キース・ジャレットのスピリット

 前作『Doctone』では、ケニー・カークランド(ピアノ)をトリビュートしたノア・ハイドゥ(ピアノ)は、キース・ジャレット(ピアノ)の復活が困難なニュースに触れ、改めてジャレットの音楽の影響を認識した。そして本作では、69年にベティ・カーター(ヴォーカル)のグループで出会って以来、長年共演し鉄壁のコンビネーションを誇るビリー・ハート(ドラムス)と、バスター・ウィリアムス(ベース)のヴェテラン・リズムを迎えて、ジャレットへのトリビュートを表現した。

 キース・ジャレットの音楽は、ハイドゥに個人的な思い出をもたらしている。彼をジャズへと導いてくれた父と、いつもジャレットのコンサートを一緒に聴きにいっていたハイドゥ。しかし父は、ジャレットのラスト・コンサートとなった2017年2月15日のカーネギー・ホールでのパフォーマンスの1週間前に世を去った。死の床に臥した父から、チケットを託されたハイドゥは、人生の節目の様々な思いを巡らせながら、そのコンサートを聴いたそうだ。

NOAH HAIDU 『Slowly: Song For Keith Jarrett』 Sunnyside(2021)

 本作では、3人のオリジナルとスタンダード曲を、シンプルにメロディーを慈しみ、インタープレイで大きく展開させてプレイした。ジャレット、ゲイリー・ピーコック(ベース)、ジャック・ディジョネット(ドラムス)のトリオの方法論を、ハイドゥらの異なるアプローチで輝かせている。“Rainbow / Keith Jarrett”は、76年にジャレットの元妻のマーゴットが書いた美しいワルツに、ハイドゥのオリジナルを繋げたジャレット讃歌だ。タイトル曲の“Slowly”では、ジャレットのソロ・ピアノをオマージュしたソロ曲である。バスター・ウィリアムスはオープニングを飾る美しい“Air Dancing”、ビリー・ハートはリリカルなリズムの“Duchess”、“Lorca”を寄せている。

 アルバムはコロナ禍の中で、多くの困難を乗り越え、3人の音楽への情熱と共に、2020年の11月末に録音された。キース・ジャレットのスピリットは形を変えて、ノア・ハイドゥの中で輝いている。