1969年、凍えるような秋の話――シックスティーズのピリオドに心打たれた
ブラーのデーモン・アルバーンが愛するカルト映画。日本では、91年に一部の映画館で上映されたものの、未だビデオ化もDVD化もされていない〈幻の映画〉でもある。こんな「ウィズネイルと僕」(87年)が、23年ぶりにスクリーンに甦る。
文化史的には、ロックやアート、ファッション、文学などの分野でサイケデリック・カルチャーの影響が顕著だった時期。すなわち1966~67年頃を起点とする〈60年代〉。「ウィズネイルと僕」は、こうした〈60年代〉の終焉が描かれた作品だ。監督および脚本を手掛けたブルース・ロビンソンは、第二次世界大戦終結後のベビーブーマー世代(1946年生まれ)のイギリス人。「ウィズネイルと僕」は、彼が俳優学校に通っていた時代をもとにした半自伝的作品である。
69年の秋。ロンドンのカムデンタウンのフラットで同居している2人の売れない役者、ウィズネイルと僕。彼らは、ゴミ箱のような荒んだ住居で、酒とドラッグ漬けの日々を過ごしている。彼らの知り合いといえば、ドラッグの売人のダニーだけだ。こんな生活に嫌気をさした2人は、ウィズネイルの伯父のモンティがイングランド北部の田舎に所有している別荘で気分転換を図ろうとする。ところが、田舎の生活は厳しく、当然のごとく2人はよそ者扱いされ、さらにそこへモンティが突然訪ねてきたことから、状況は思いがけない方向に転がっていく――。
69年8月、ウッドストック・フェスティヴァルが開催され、延べ40万人の若者が集まった。が、その一方、元ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズはこの年の7月に自宅のプールで遺体で発見され、12月のローリング・ストーンズのコンサートでは、かの〈オルタモントの悲劇〉が起こり、ヒッピーが掲げたスローガン〈愛と平和〉は一瞬にして崩れ落ちた。また、「ウィズネイルと僕」は、ジョージ・ハリスンがデニス・オブライエンと設立した映画会社の作品だが、ビートルズも、69年で事実上消滅。そして70年に入ると、ジミ・ヘンドリックスとジャニス・ジョプリンが相次いでドラッグで命を落とし、ひとつの時代が完全に終わった。
「ウィズネイルと僕」は、部分的にはホモフォビアやイギリスの階級社会への風刺が込められたコメディである。しかし、2人の青年の葛藤が、60年代の終わりの空気と絡めながら描かれている作品なので、全体的なトーンはどんよりとくもった空のようだ。1969年という〈分かれ目〉の年、2人の運命もくっきり分かれる。ただし、時代に取り残された側の〈60年代〉を終わらせるものは、〈死〉ではない。だからこそ、ラスト・シーンで呆然と立ち尽くす〈彼〉の姿が、なおさらやるせない。
MOVIE INFORMATION
映画「ウィズネイルと僕」
監督・脚本:ブルース・ロビンソン
製作:ポール・ヘラー
製作総指揮:ジョージ・ハリスン/デニス・オブライエン
音楽:デイヴィッド・デュンダス/リック・ウェントワース
撮影:ピーター・ハナン
編集:アラン・ストラッチャン
出演:リチャード・E・グラント/ポール・マッギャン/リチャード・グリフィス/ラルフ・ブラウン/イケル・エルフィック
提供:是空/ハピネット
配給:日販(1987年 イギリス)
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INFORMATION
THE LAST BAUS さよならバウスシアター、最後の宴
2014年4月26日(土)~2014年6月10日(火)東京・吉祥寺 バウスシアター
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バウスを巡る映画たち
2014年4月26日(土)~2014年5月16日(金)
「グーグーだって猫である」「鉄コン筋クリート」「タカダワタル的」「注目すべき人たちとの出会い」「ウィズネイルと僕」「ライブテープ」
■Bプログラム
第7回爆音映画祭
2014年4月26日(土)~5月31日(土)
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ラスト・バウス/ラスト・ライヴ
2014年6月1日(日)~2014年6月10日(火)