今回は、昨今のインディー・シーンの重要アクトたちがこぞって出演する新宿のライヴハウス、MARZの店長を務めながら、当連載でもLUCKY TAPESがYogee New Wavesとの出会いの場として名前を挙げていたMARZのレギュラー・DJパーティー〈New Action!〉の主宰としても活躍するキーパーソン、DJの星原喜一郎をフィーチャー! シーンの最前線とも言える現場に身を置き、常にアンテナを張りながらその動きをチェックしてきた星原氏だからこそ語れるシーンの舞台裏や、まだメディアには大きく露出していない新たなトレンドについても語ってくれました。インディー・シーンの行く先を占う重要証言……いざスタート!
【新宿MARZ店長までのキャリア】
――星原さんはどのような経緯でMARZの店長になったんですか?
「自分がMARZに入ったのは4年前の10月で、当時の店長だったDJのタイラダイスケさんの引き継ぎで入ったんです」
――人気DJパーティー〈FREE THROW〉のタイラさんですよね。もともとお知り合いだったんですか?
「入店以前からタイラさんはDJの先輩として知っていて、一緒に〈soultoday〉というパーティーをやったりしていました。タイラさんが〈MARZを辞めようかな〉と話していたときに、ちょうど僕も〈DJやイヴェンターだったり音楽的な活動で食べていけたらいいな〉と考えていた時期で。2人で飲んだときに自分から〈引き継ぎたい〉と伝えたら、向こうも〈やらせたい〉と考えていたみたいなんです」
――ドンピシャのタイミングだったんですね。そこから店長業務が始まるんですか?
「いえ、タイラさんが辞める少し前に別の方が店長に就任したので、最初はブッキングとして勤務していました。それから1年くらいで当時の店長が辞めて、僕が店長になったんです。ちなみにその前店長はヴィジュアル系寄りの人でしたね」
――いまと全然カラーが違うんですね。
「そういったバンドも出つつ、自分は自分でインディー寄りのブッキングをして、けっこうゴチャゴチャしていました(笑)。僕が入った当初から、わりとMARZ自体がアイドルも出たり、いろんなジャンルが混じったライヴハウスだったんです」
――もともと雑食性が高かったと。
「それと……余談になるんですが、僕は2009年に大学を卒業してからニートDJのような感じで食い繋いでいたんですが、あるタイミングでタイラさんの家に転がり込んで、すごくお世話になったんです」
――へぇ~。居候状態だったということですか?
「居候したうえに、いろいろお世話にもなって」
――人生の恩人なんですね。
「そうですね。それにもうひとつ大きかったのは〈COUNTDOWN JAPAN 08/09 -WEST-〉にDJとして出演したこと。それまで、普段のDJでは洋楽のインディーを回すことが多かったし、パーティーも洋楽がメインのものをやっていたのですが、フェスの出演がきっかけで邦楽のバンドとの接点ができたんです。〈CDJに出ました〉と言うと食いついてくれることが多くて」
――フックになったんですね。
「そうですね。その看板を1年間くらいは掲げていてもいいかなと思って。それまで邦楽のバンドとの繋がりは全くなかったけど、面白いパーティーを仕掛けていくうえでいずれはバンドと一緒にやってみたかったから、その期間中にどんどん輪を広げていったんです。それと並行してMARZでレギュラー・パーティーを企画したいとタイラさんに伝えたら〈いいね〉と言ってもらって」
――そこから〈New Action!〉に繋がっていくわけですね。
「はい。月1のレギュラー・パーティーということで、まずは曜日を決めるのですが、金土日は敷居が高くてリスクもあると。〈平日だったら好きにやってもいいよ〉と言われたので、最初は月曜でやっていました。〈ブルーマンデーをハッピーマンデーに〉というコンセプトを打ち出して」
――あ! それは知ってます(笑)。
「後付けだったんですけどね(笑)。曜日はタイラさんに勧められて決まったんですが、月曜はなかなか埋まりづらいんです。続けていくうちに、多くの人にとって週の頭は仕事始めだから、それよりも水曜だったり週の真ん中あたりのほうがお客さんを呼びやすいなと思って」
――現在の〈New Action!〉は毎月最終水曜日の開催ですよね。
「実は昨年11月まで、〈New Action!〉を一緒にやってるDJの遠藤さん(遠藤孝行)と新宿の老舗ロックバー、ROLLING STONEで毎週水曜日にレギュラー・パーティーをやっていたんです。でもお店が閉店しちゃったこともあって、〈New Action!〉を月曜から水曜に移動しようと決めました。それで今年からは毎月最終水曜日に開催しています」
【〈New Action!〉から眺めるインディー・シーンの風景】
――そうやって始まった〈New Action!〉ですが、過去の出演者を振り返ると、その後にインディー・シーンで名前を知られるようなアーティストがたくさん出ていますよね。〈これはウチが早く見つけた〉というアーティストいますか?
「やっぱりYogee New Wavesでしょうか。彼らは、初ライヴが〈SUMMER SONIC 2013〉への出場権をかけたオーディション〈出れんの!? サマソニ!?〉の最終選考のステージだと思うのですが、MARZでのライヴが人生で2回目だったらしくて。ヴォーカル/ギターの角舘健悟とは、彼がYogeeの前にドラムを叩いていたSTOKHOLMというバンドのころから知り合いだったんです。当時から〈別でもバンドやってるよ〉とは聞いていたんですが、実際Yogeeを聴いたらめちゃくちゃよくて。あれは“CLIMAX NIGHT”だったかな? それで〈MARZでも誘わせてくれ〉と頼みました」
――いきなり〈New Action!〉に呼んだんですか?
「最初は普通のブッキングで組んだライヴでした。生で観たらやっぱりすごくよかったので、その年の10月に〈New Action!〉に出てもらったんです」
――そこからYogee New Wavesと〈New Action!〉の付き合いが始まっていくんですね。
「毎年12月に〈New Action!〉のスペシャル版として、MARZと近隣のライヴハウスであるMotion、Marbleの3会場を使った忘年会的なパーティーを開催していて、Yogeeには一昨年に出てもらいましたね。ちなみに昨年は〈New Action!〉とYogee New Wavesの共催で〈UTOPIA SHANGRI-LA TOGENKYO〉というパーティーも開催しています。一昨年の話に戻ると、その年に自分が出会ったバンドのなかでも一押しの3組を集めたイヴェントを去年の3月に行いました。最初は、Yogee New Waves、(LUCKY TAPESの前身バンドである)Slow Beach、YKIKI BEATで考えていて」
――いまのインディー・シーンでも注目度の高い3組ですね。
「でもYKIKI BEATはスケジュールが合わなくて、最終的にはSlow Beach、Yogee New Waves、YKIKI BEATの秋山くん(Nobuki Akiyama:ヴォーカル/ギター)と嘉本くん(Kohei Kamoto:ギター)が在籍しているDYGLのスリーマンで行うことになりました。みんなインディー・シーンで少し騒がれはじめたくらいのタイミングでしたね。知名度こそありませんでしたが、その分チャージフリーにして敷居を下げて、とにかくたくさんお客さんを呼ぼうと意気込んでいたら、結局250人近くのお客さんが入って」
――それはスゴい!
「当日はSlow Beachのメンバーが体調を崩しちゃって、結局は彼らだけ出れなかったのですが。Slow Beachが同じく2014年3月のイヴェント〈Booked!〉に出た直後に、活動休止になってしまったんですよね」
――そうでしたか。ちなみに、その時点でSlow Beachとの付き合いは長かったんですか?
「彼らとはそれが2~3回目くらいでしたね。最初は、MARZの学生主催のイヴェントにたまたまSlow Beachが出ていて、ライブを観てあまりにも衝撃的すぎたので思わず声をかけちゃいました。日本にもこんなバンドいるんだと。YKIKIを知ったときと近いような衝撃を受けました」
――今回の取材のきっかけとなったのが、Slow BeachがYogee New Wavesと〈New Action!〉で出会ったという逸話だったんですが、ほかにも〈New Action!〉ならではのエピソードがあったら教えてください。
「それなら、YOUR ROMANCEでしょうか。もともと、ドラム(Shun)とヴォーカル(Shinji)のメンバーが沖に娘ありというバンドをやっていて、そのバンドはチバユウスケさんのような声でロックンロールとジャズを足して割ったような、音楽的にはYOUR ROMANCEとは全然違うグループだったんです。沖に娘ありの時代からMARZによく出てもらっていて、僕も2人とは仲がよかった。そのうち沖に娘ありは解散するんですが、ちょうどそのころYOUR ROMANCEのツイン・ヴォーカルの片割れになるinuiくんがDarebear名義で弾き語りでMARZに出演していて、彼らが出会ってYOUR ROMANCEを結成することになるんです」
――〈New Action!〉が出会いのきっかけだったということですか?
「当時、オーストラリアのラスト・ダイナソーズというバンドのツアーを〈New Action!〉で組んだのですが、資金が潤沢には用意できなかったから、沖に娘ありの解散後に暇をしていたShinjiの一軒家にラスト・ダイナソーズのメンバーを連れて、泊めさせてもらったことがあったんです。その頃は毎日のように一緒になって遊んでいて、ROLLING STONEにもよく遊びに来てくれていました。そういった流れがあって、いろんな洋楽に刺激を受けていた時期の3人が曲を作り始め、スタジオに入って楽しく遊んでいたら、いつの間にか昨年の夏にYOUR ROMANCEが結成されてた(笑)。〈やってるんです〉という話は聞いていたんですけどね。知らないうちに曲(“(We’re)Lonely After All”)も公開されて、けっこう話題になっていましたね」
――〈New Action!〉がいまのインディー・シーンに与えた影響は、結果的には大きいものがあったんですね。
「YogeeやYOUR ROMANCE、LUCKY TAPESとか、偶然タイミング的にMARZに出てもらえたという面はあると思うのですが、外から〈盛り上がってるな〉という見方をされることで、いい循環が生まれている部分もありますね。ライヴハウスへの問い合わせでも、いまのシーンに合った感じの、でもまだバンドを始めたばかりのアーティストから連絡がきたりして。4月の〈New Action!〉で共催パーティーを企画したLucky Kilimanjnaroも実はそのひとつなんです。そういった流れが増えたので、こちらも新鮮で面白いバンドと出会う機会が増えています」
【シーンの新たな流れ】
――話は変わるんですが、一時期よりも落ち着いた感があるとはいえ、シティー・ポップのトレンドがずっと継続していると思うんです。まず訊きたかったのが、現場と世間の流行のタイムラグはあるのかな?という部分で。
「シティー・ポップに関しては、むしろいまの方がお客さんは増えているし盛り上がっている感じがありますね」
――そうなんですね。
「個人的にはいまもシティー・ポップ系の音楽は聴くし、ライヴを観ていいなと思うこともあるけど、膨らみすぎて飽和状態にあるようにも見えます。シーンの流れってどんどん変わっていくものなので、これからバンドやるうえでの参照元としてはシティー・ポップはちょっと古いかな、とは思いますね」
――ここから新しい展開はなさそうだと。
「そうですね。シティー・ポップをやっているけど、それを超えるオリジナリティーがあれば面白いですけどね。シティー・ポップ的な音楽に憧れてバンド始めて、近いことやっても面白味は少ないかもしれない」
――その流れで、星原さんがいま現場で肌で感じる新しい流れのようなものがあれば、ぜひうかがいたいと思って。
「パンクのシーンですかね」
――パンクって、昔から連綿と続く確固としたシーンがあると思うのですが、それとは違うということですか?
「はい、違いますね。クラウド・ナッシングスやアイスエイジだったり、海外のインディー流れのパンクに影響を受けたアーティストがメインになると思います。パッと思いつくところでCAR10だったり」
――最初にその流れに気づいたのはどのポイントだったのでしょうか?
「最初はDYGLかな……彼らの音楽性は若干変わったんですが、最初はサーフ・ポップっぽいことをやりつつ、ガレージ・パンクっぽい雰囲気にもなってきて〈いいな〉と思っていたところで、そういった音のアーティストが増えてきているように感じて。SoundCloudを流しっぱなしにしていると、ちょっとずつ近いような音が聴こえてくるようになったんです」
――ほかにどういった人がいるんですか?
「さっき言ったCAR10はもちろんカッコいいんですが、その流れでJIVだったり、タワレコメンにも選ばれたNOT WONKだったり。NOT WONKは苫小牧のバンドですが、同じ北海道のTHE SLEEPING AIDES & RAZORBLADESとか、向こうのシーンが気になっていて。JIVに聞いたら、関西のパンクのシーンもアツいみたいで、THE FULL TEENZとか。そういった同時多発的な流れがうまく盛り上がれば、シーンとしても大きな流れになるんじゃないかという気はしています」
――すごく興味深いですね。
「それとは別のラインで、あまり自分は詳しくないのですがメロコア、エモっぽい感じのパンクもまた盛り上がっているのかな? 筆頭は04 Limited Sazabysですが、彼らの周辺からシーンが盛り上がって、ELLEGARDENの再結成くらいまで進んだら爆発するかな?とか……これはけっこう妄想ですが(笑)」
――ともかくいろんな流れから、パンクに動きが出てきていると。
「メロコア寄りのパンクと、洋楽インディー流れのパンク、どちらがきてもパンク全体のシーンは盛り上がる気はしますが……どうなるんでしょうかね。それと、京都のHomecomingsだったり、ネオアコっぽい感じのバンドと合流していくのが次のシーンの特徴になるんじゃないかなと思うところもあって」
――実はそのHomecomingsを含め、いままさに名前が挙がったバンドのほとんどが、元銀杏BOYZの安孫子真哉さんが主宰するレーベル、KiliKiliVillaが先月リリースしたコンピ『WHILE WE'RE DEAD. : THE FIRST YEAR』に入っていて。Homecomingsと同じ京都のHi,how are you?のようなインディー・ポップ寄りの人たちもいれば、NOT WONKやTHE SLEEPING AIDES & RAZORBLADES、CAR10のような新世代のパンキッシュなバンド、さらにSEVENTEEN AGAiNとかodd eyes、LINKのようにキャリアのある人たちまで、いろいろいるけど新しい流れを感じさせるセレクトに見えました。
「KiliKiliVillaはキーになる気がしますね」
――話は飛ぶのですが、バーガーというUSのレーベルはご存知ですか?
「はい、知ってます。渋谷にポップアップ・ショップができましたよね」
――音は若干違うんですが、いま勢いのあるバーガー周辺の流れとリンクするものを感じていて。バーガーはどちらかというとガレージやパワー・ポップ、サイケ寄りの音も多いんですが、昔のパンクとは違うインディー・ロック流れのパンキッシュさを持っているというか。海外も日本も同時多発的に発生してるのかなって。
「そのへんがまとまって一気に盛り上がりそうな気がしますね。それこそKiliKiliVillaあたりに、それまではシーンとして離れていた音が、ある共通のトーンのもとで集まっている感じがするので、そこがもっとしっかり合わさると絶対面白くなりそうですね」
――KiliKiliVillaのコンピについてるファンジンには、バーガーの創始者のひとりであるショーン・ボーマンのインタヴューも載っていました。
「やっぱりそこは日本と海外でリンクしているんですかね……面白い!」
――MARZや〈New Action!〉でその辺の動きをフックアップしていく動きはありますか?
「Homecomingsが所属する京都のSECOND ROYAL周辺に、ガールズ3ピース・バンドのSaToAという子たちがいるんです。Homecomingsをもう少しソリッドにしたサウンドなんですが、彼女たちだったり、名前の出ているJIVやCAR10も呼びたいです。新しいシーンを盛り上げるというより、単純に僕自身がいまそのあたりに興味があるので、ぜひイヴェントを組んでいきたいですね」
〈New Action! Vol.69〉
http://new-action.daa.jp/
日時/会場:5月27日(水) 東京・新宿MARZ
開場/開演:18:00
出演:
【LIVE】LUCKY TAPES、Suchmos、DYGL
【New Action! DJs】星原喜一郎、遠藤孝行
【VJ & FOOD】VJ:ASAKA × OYAMADA/FOOD:???
■チケット
前売/当日:2,000円/2,500円(共にドリンク代別)
※学割(学生証を受け付けで提示すると500円割引)
チケット購入方法:
1. プレイガイド イープラス/ローソンチケット(Lコード:79972)にて発売中。
2. 各出演者予約
3. New Action!メール予約(http://new-action.daa.jp/#top4)