Mikiki編集部が自信を持ってオススメしたい、ア~ベインな気鋭の若手を紹介する連載。これまでPAELLASを中心にその動向を追ってきました(これからも追いまっせ)が、また新たにア~ベインな追跡ターゲットを発見しました。その名もCICADA(シケイダ)! 今回は、先日ファースト・フル・アルバム『BED ROOM』をリリースしたばかりの彼らに、同作のお話もうかがいつつバンドのイントロダクションをしてもらうべくインタヴューを敢行しました~。Mikikiでは今後どんどんCICADAを追っていきますので、どうぞお見知りおきを!
FILE 02:CICADA
居場所がない――というのは、いわゆる〈ロック・バンド〉が圧倒的な数を誇る日本のインディー・シーンにおいて、ここで紹介するCICADAが対バン相手をなかなか見つけることができないという意味だが、本人たちも「ただ見つけられてないだけだと思う」と言う通り、ceroやシャムキャッツ、スカートなどがシーンに登場して以降は良質な〈ポップ・バンド〉が続々と登場し、注目を集めるようになっている状況ではあるはず。そんな粒揃いのインディー・ポップ・シーンにおいても、CICADAはひときわ光るものがあるバンドだ。
「もともとは本当にX JAPANしか聴いていなかったのですが、ニルヴァーナに出会ってからは洋楽も聴くようになって。一方、邦楽ではUAをきっかけに女性ヴォーカルのポップスがいいなと思うようになって、ACOや一十三十一とかを聴いていました。洋楽でもそういう音楽を探していたらポーティスヘッドに行き当たって、すごく良い音楽だなと。追ってそれがトリップ・ホップというものだと知って、マッシヴ・アタックに辿り着いた。それでこういう音楽がやりたいなと思ったんです。トリップ・ホップのようにバンド・サウンドは無機質で、ヴォーカルは温かみのあるバンドをやりたくて、メンバーを集めました」(若林とも、ギター/キーボード)。
若林がmixiでメンバーを募り、150人ほど(!)のヴォーカリスト希望者それぞれとカラオケへ行ってオーディションをしたなかで「アーティスティックな声とJ-Pop的な声が上手く合わさっていた」ために選ばれた紅一点の城戸あき子、もともと若林がサポート・ギターとして参加していたバンドのベーシストだった木村朝教とでCICADAを結成したのが2012年12月。そして翌年にmixiの募集で出会ったドラマーの櫃田良輔、木村の友人を介して知り合ったキーボードの及川創介が加わって現在の編成となった。それから1年半を経てリリースされた初のフル・アルバム『BED ROOM』では、彼らがめざすトリップ・ホップ的なサウンドがベースにあるというのはもちろんだが、いまの耳で聴くとロバート・グラスパー・エクスペリメントやテイラー・マクファーリンなど新世代ジャズ勢を思わせる瞬間もある。よって、そういった音楽からの影響もあるのかなと思いきや、そこは特別に意識はしていなかったらしい。
「J・ディラとか初期デ・ラ・ソウル、ア・トライブ・コールド・クエストあたりが好きなので、ジャズを意識するものをよく聴いていた、というのはありますが、90年代からあるニュー・ジャズと言われているもののほうがどちらかと言うと好きかもしれません。グラスパーの『Black Radio』のようなことは俺たちにはできないので、J・ディラがやっていた切り取ったジャズをループしていくほうが近い」(及川創介、キーボード)。
そう語る及川が『BED ROOM』全曲のプロデュース/アレンジ/ミックスを担い、作曲は及川と(どこまで本当かは定かでないが)「メロディーと歌詞にしか興味がない」と言う若林が担当している。
「バンドだし、トリップ・ホップ(そのまま)の低温感をCICADAで出すのは違うと思っていたので、生の感じを前面に出しつつ、でもちゃんとループ・ミュージックを作ろうと。それと長く繰り返し聴ける音にしようというイメージがあったので、音をいかに減らせるかっていうのが今回のテーマでしたね。そういう話し合いは多かったです、〈この音はいるのか〉とか。1曲に対して20~30パターンくらい作って、そのなかから選んでいくような作業でした。曲にも拠るんですけど、例えばクラッシュ・シンバルがサビの頭に毎回入ってきたり、毎回ドラムのフィルが入るというのは、CICADAの音源ではちょっと違うと思うんですよね。そういう引きのグルーヴを追求しました。EDMのような横から音が入りまくる音楽もカッコイイんですけど、CICADAの場合は縦が3~4本あるくらいの音楽がいいのかなと。その結果、何回でもリピートして聴けるものができたと思います」(及川)。
そこがCICADAの音楽がクールに映るところで、抑制の効いたビートを軸にしたトラックが支えているからこそ、上に乗る情感豊かなエレピや歌メロがグッと際立っている。ドラムが複雑なビートを刻む“君の街へ”や、ベースとドラムのタイトな掛け合いから始まる“熱帯魚”をはじめ、一筋縄ではいかないビートの組み立てやグルーヴの出し方は、リズム隊2人にとっても骨の折れる作業だったようで……。
「難しいフレーズは弾かないので、テクニック的な部分では簡単なんですけど、グルーヴの出し方をどうしようかというのがテーマでした。ソウル/ファンクのようなすごく沈みのあるグルーヴだったり、ジャズでも粘っこいもあれば、サラッとしたものもあるので、櫃田のドラムとどういうグルーヴにすればこの曲が映えるかをずっと考えていて。引っ張りすぎてもダメだし、突っ込みすぎてもダメだし。淡々と弾いてるところも多いので、それが4分とか5分とか続くと結構厳しいです(苦笑)」(木村朝教、ベース)。
「今回に限らないのですが、とにかく〈力を抜いて叩く〉というのをひたすら意識しました。前のバンドでは元気良く笑顔で叩いてたんですけど、このバンドに入ったらそれが通用しなくて(笑)。メンバーからいろいろな音楽を教えてもらったりして、〈あ、こんな世界があるんだ〉という発見が多くありました。特に及川はすごく音楽を知っているし、音にもこだわりがあるのでいろいろ教えてもらうなか、ドラムは大きい音より小っちゃい音のほうが良い鳴りをすることを知って。特に金物は繊細に叩いたほうが抜けのある良い音がするんです。でもドラム的には難しいことをやらされているので(苦笑)、そういう難しいことをやるとライヴでもやっぱり力が入るんですよね。いまでもなかなか上手くいかないですけど、それを気を付けるようにしています。優しく叩いても音がよく抜けてパワーのある音が出るので、それが成立するような音作りとフレーズを考えてレコーディングに臨みました」(櫃田良輔、ドラムス)。
また、サウンドのクールさはもちろんだが、フロントに立つ城戸あき子のヴォーカルがCICADA最大の武器と言えるかもしれない。「安藤裕子さんやクラムボンさんなど声に特徴があって、温かみのある日本の女性ヴォーカリストの作品をよく聴いていました」という彼女自身もまた、記名性のあるコケティッシュかつセクシーな歌声が持ち味。そんなヴォーカルからとても色っぽい女性をイメージしていたのだが、実際の彼女は非常にキュート&落ち着いた女の子で、そんなギャップにも心を掴まれてしまった――というのは余談だが、ここに至るまでには及川のみならず、とりわけ〈歌〉にこだわりのある若林による徹底的なヴォーカル指導=CICADAの〈イズム〉の注入があったという。
「最初の頃は単語単位で指示を出してました。自分が想像しているメロディーと歌詞の流れにならないと気に入らないところがあって……別にコントロール・フリークというわけではないんですけど。でも昔よりは任せられるようになりました」(若林)。
「CICADAが私にとって初めてのバンドで、それまでは大学でコピーをやっていたのですが、オリジナルを歌ったことはなくて。なので前の自主制作盤(2013年9月にミニ・アルバム『Eclectic』を発表)ではすごく指示がありましたけど、いまはその時よりは自分でいろいろやれるようになりました。今回は歌詞と音をどうリンクさせて歌えるかというところを意識していて、そこまでワーッと激しい感じではなく、静かだけどあまり振れ幅がないなかでどれだけ感情の揺れ動きを出せるか、と」(城戸あき子、ヴォーカル)。
90年代のACOやUAといったシンガーの楽曲に大きな影響を受けた若林作の儚くアンニュイなメロディーが美しい“door”あたりは、彼がめざすCICADA像が実を結んだ一曲ではないかと思うのだが、一方で「アッパーなのは苦手なんで、BPM 97がいいんです(笑)」と語る若林に替わって及川がペンを取ったという、エレピの流麗な旋律も肝の“Naughty Boy”や、男性メンバーが声を合わせたコーラスも良い味を出している“Colorful”といったアップテンポのナンバーはCICADAの新機軸と言って良いようだ。
「速い曲を作ろうということになって、そしたらアニメの主題歌みたいなのが(若林から)あがってきて(笑)。なんかヒーローものみたいな。で、(アップテンポ曲の作り方が)よくわかんないって言うから、こういう曲がいいんじゃない?って3時間くらいで作りました」(及川)。
「でも歌詞は若林が書いてるんですよ、すごく乙女な……(笑)」(城戸)。
「(女性の)気持ちがわかるんですよ。明るいポップ・チューンだったので、あまり陰鬱な感じにならないように。わりと〈取り残されてる……〉っていう歌詞を多く書いてるんで(笑)」(若林)。
「“Colorful”はいちばん時間をかけたかもしれません。レコーディングをした時は全然違うアレンジだったんですけどあまり気に入ってなかったんです。でもリズム隊の感じは好きだったからそれを活かしつつ、何度か作り直したんですがなかなかしっくりこなくて、すごく悩みました。前向きな歌詞なので、アウトドア感があって前向きな感じに。CICADAはあまり元気な人たちではないから振り絞って(笑)」(及川)。
生演奏主体ながら随所でエディットの妙に痺れる、聴くほどに発見のあるサウンドと鮮やかなメロディー、エモーショルだけどエモーショナルになりすぎないギリギリのテンションに耳が離せなくなるヴォーカル――『BED ROOM』はファースト・アルバムとは思えないほど端正で秀逸なポップ作品だと思うが、「でも頭ひとつ抜け出た曲を作れないと。僕はいまの音楽シーンが好きじゃなくて、それを僕が好きなようにするにはそういうのがないと」と若林は言う。〈ロック〉だけじゃなく、リスナーがもっとさまざまな音楽に目を向けるきっかけを作りたいという彼らの思いがあるようだ。
「(このアルバムで)僕は世の中にはいろんな音楽あるんだぜ、ということを伝えたいです。そこから他のいろんなミュージシャンに興味を持ってもらって、音楽を好きになってもらいたい」(若林)。
「流行りとは違うものを作りたかったんです。きっとこういう音楽の良さを知らないだけだと思うので、その入門編としてCICADAのアルバムを楽しんでもらえたら。流行っているものしか知らない人にぜひ聴いてもらいたいです」(及川)。