すべてを吐き出した後に残ったのは、〈音楽が好き〉という気持ち! リスナーとしての感性に従って誕生した、バンドの新しい姿とは?
彼女に何が起こったか? 色で例えれば黒から虹色へ、音で言えば直情的なロックからエレクトロニクスを取り込んだダンサブルなサウンドへ。FLiPのイメージを鮮やかに更新する、レーベル移籍後初のミニ・アルバム『BIRTH』を生んだのは、全楽曲を手掛けるSachiko(ヴォーカル/ギター:以下同)の、〈音楽を始めた頃のリスナーの感覚に戻った〉という内面の一大変化だった。
「ずっと、初期衝動をもとに曲を作ってたんです。とてもパーソナルな、痛々しい感情の、泣き叫びたいというパワーを原動力にしていた曲が多かったんですけど、それを2年前のアルバム(『LOVE TOXiCiTY』)で全部吐き出して、何も出てこなくなっちゃったんですね」。
一時は〈バンドを続けていくべきか?〉ということまで考え、自分と向き合う日々を経て、彼女が見い出したのは〈やっぱり音楽が好き〉という、極めてシンプルな結論だった。
「タワレコにも、めちゃくちゃ通いましたよ! 店員さんが書いてる文章を読んだり、気になるジャケットを探したり。海外のネットラジオを一日中聴いて、ダウンロードしたりCDを買ったり、そんな毎日を過ごすのがすごく楽しくて。そこで、自分が買いたくなる音楽をまず作ろうと思ったんですね。いままでのFLiPのカラーに縛られなくていいんだと思ったら、いままでと違う楽しみ方が出てきたんです」。
例えばハイム、チャーチズ、キャピタル・シティーズ、ミュー、イヤーズ&イヤーズ、スクリレックス&ディプロ、ミスター・ワイフ、オー・ランドなど。刺激を受けたという音楽を挙げるだけで、FLiPがいまどこをめざしているのかは明白だ。
「私が好きな曲は、構成がシンプルで、各パートのアンサンブルに余白があって、それが重なってひとつのグルーヴになっているんですね。でも大事なのは、洋楽の真似をしたいわけじゃなく、良いと思ったものをどれだけ自分のフィルターありきで落とし込めるか。自分で自分を試す時期でもあったんですけど、何より嬉しいのが、出来た曲を聴かせるたびにメンバーの反応がめちゃ良くて。〈これ買いたい!〉と言ってくれるのが本当に嬉しくて、元気をもらいました」。
めでたくも、バンドは今年で結成10周年。歓喜に満ちた音と共に、FLiPの新章はここから始まる。
「寿命の長い曲が作りたいです。聴く側が欲しいものだけを詰め込んだCDは、その瞬間は幸せなんですけど、飽きちゃうんですよ。でもそのなかに作り手の本当に譲れないもの、ディープな部分が一瞬あると、永遠に愛せると思います。自分が持ってるリスナーの感覚を大切にして、これからも作っていきたいです」。