没後50年を迎えた不世出のワーグナー指揮者、クナッパーツブッシュの最高傑作の一つ。冒頭の《さまよえるオランダ人》のモノローグ、ロンドンの歌唱も素晴らしいが、それ以上に圧巻なのがオーケストラだ。弱奏部での文字通り「身の毛もよだつような」恐ろしい緊張感。それが強烈なクレシェンドで激しい苦悩の叫びとなる劇的迫力。その後の感情の大波が揺れるような旋律の表出、生々しい金管のアクセント、金切り声のような高弦のトレモロ、地獄の沙汰が下されたようなティンパニの最強打! クナッパーツブッシュは迫真の演奏で作品のドラマを活かしきってゆく。半世紀以上前の録音も実に鮮明だ。

【参考音源】ハンス・クナッパーツブッシュ指揮、ジョージ・ロンドン歌唱によるワーグナー“ワルキューレ”