コンセプトは「明」と「暗」の相克! ブラームスを新たな角度で見つめ直すプロジェクトの第1弾!

 輝かしくも陰影に富んだ響きと晴朗な歌、溌剌としたリズムに満ちたブラームス演奏である。パーヴォ・ヤルヴィ初のブラームス・ツィクルスは、2004年からの手兵ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンとの交響曲第2番でスタートした。パーヴォは現在、フランクフルト放送交響楽団ブルックナーの交響曲ツィクルス、NHK交響楽団R.シュトラウス・ツィクルスを進行中であるが、ブラームスで総勢41人という小編成、時代考証演奏にも長い経験をもつこのオーケストラを選んだのには深い理由があるのだろう。

PAAVO JARVI,DEUTSCHE KAMMERPHILHARMONIE ブラームス:交響曲第2番、悲劇的序曲&大学祝典序曲 RCA Red Seal/ソニー(2016)

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 交響曲第2番冒頭から、ディテールまで見渡せるような透明で精妙なアンサンブルに惹きつけられてしまう。オケの配置は第1、第2ヴァイオリンを左右に振った両翼配置。弦楽器はノン・ヴィブラートで奏でられる。楽器間の音量バランスが適正であることで、各楽器の固有の色合いが明瞭に感じられる。ヴァイオリン群や木管楽器群の歌がいきいきと浮かび上がり、同時に低弦や金管楽器群が響きに深い陰影を加え、そのブレンドされたハーモニーの複雑な味わいに陶然となってしまう。それは同時に、この作品の二面性「明るい気分でチャーミングなもの」、「悲劇的でメランコリックで哀しい」(共にブラームスの言葉)を音色で示したものと言えるだろう。こうした二面性は緩急や強弱にもあてはまる。ヤルヴィの緩急強弱の振り幅は実に大きく、緊張と弛緩、高揚と沈思を巧みに織り交ぜてゆく。そして楽曲は一貫したエネルギーの中で生命力豊かに息づき、遂に歓喜の極みに達したコーダへと至るのである。

 カップリングが哀しい「悲劇的序曲」と喜ばしい「大学祝典序曲」であることも極めて示唆的だ。「悲劇的」は冒頭の2つの和音が、軽やかに舞うように演じられる場面から衝撃的だ。そして「大学祝典」コーダの気宇壮大な晴れやかさは、まさにパーヴォ芸術の輝かしい勝利そのものと言えるだろう。