クナッパーツブッシュがセッション録音した唯一のワーグナー全曲盤を簡便にお薦めできることがまずうれしい。1950年に第2幕が録音され、バイロイト音楽祭に初登場した翌51年に第1幕・第3幕が収録された。クナの統べるウィーン・フィルが美への憧憬を自ずと体現しており、音質の制約を超越してこの偉大な長尺物をどんどん聴かせてくれる。闊達な冒頭前奏曲に対してザックスの沈思を見事に音化した第3幕への前奏曲、ヴァルターが見た夢を優勝の歌へと優美に紡ぎあげていく絶妙な風情、あの五重唱で醸成される幸福感がもたらす余韻はどうにも忘れがたい。歌手では格調高いザックスを歌うシェフラーが素晴らしい。