精緻な文学的考証と野性味溢れる演奏で描く究極のパガニーニ映画
メニューイン、クレーメル、アッカルド。過去の音楽映画でパガニーニ役の吹替演奏(もしくは出演)をしたヴァイオリニストたちだ。その輝かしいリストに、デイヴィッド・ギャレットが新たに加わった。脚本執筆段階から製作に携わり、撮影現場では俳優としてパガニーニ役を演じ、劇中のスコアまで手がけた『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリスト』は、《24のカプリース》と《死ぬのは奴らだ》の両方を弾きこなすギャレットでなければ作り得なかった作品である。
物語は、1831年のパガニーニ英国初公演をめぐる騒動と、彼が未成年の女性歌手を誘惑した実話に基づいている。ツアー中に女とアヘンと賭博に溺れ、高額なギャラを要求するパガニーニの姿は、実のところ現代のロッカーと変わらない。そのパガニーニを、ギャレットは完全に“ロッカー”として演じきる。ちょうど、普段はクラシック奏者の彼が『ロック・シンフォニー』のツアー演奏で“ロッカー”になりきるように。ピストルズの伝記映画『シド・アンド・ナンシー』に主演したゲイリー・オールドマンを『不滅の恋 ベートーヴェン』に起用して物議を醸した、バーナード・ローズ監督らしいユニークなアプローチだ。
しかし、本作は“史上最初のロッカー”パガニーニの話だけで終わらない。19世紀、なぜパガニーニは“悪魔のヴァイオリニスト”と呼ばれたのか。その本質に迫るため、ローズ監督はパガニーニの半生にゲーテの『ファウスト』をダブらせるという驚嘆すべき仕掛けを用意した。ケレン味たっぷりの演奏会シーンにしても、パガニーニの実演を聴いた詩人ハイネが紀行文『フィレンツェの夜』に綴った演奏描写をかなり忠実に再現したものだ。これほど精緻な文学的考証に基づく音楽映画は、ついぞお目にかかったことがない。
かつてギャレットが17歳で録音した《24のカプリース》の演奏が、文字通り児戯に思えてくる本作でのギャレット=パガニーニ。そのエネルギッシュかつ野生味溢れる演奏を聴くだけでも価値があるが、なんとギャレットは友人のフランク・ファン・デル・ハイデンと協力し、パガニーニの名曲を分解・脱構築することで、パガニーニの人生のドラマを音楽そのものに語らせてしまう究極のスコアを作り上げた。相当なパガニーニ愛好家でも、本作を一度見ただけで使用楽曲名をすべて言い当てるのは不可能だ。音楽映画とはいかにして作られるべきか、ギャレットとローズ監督は我々観客にひとつの巨大な挑戦状を突きつけている。
映画「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」
◎7/11(金) TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!
監督・脚本・撮影
バーナード・ローズ
主演・製作総指揮・音楽
デイヴィッド・ギャレット
配給:アルバトロス・フィルム/クロックワークス(2013年 ドイツ 122分)
paganini-movie.com/
intoxicate presents
特別試写会
映画『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』
特別試写会に20組40名様をご招待!
7/2(水) 18:00開場 18:30開映
会場:TCC試写室