「日本の音楽マーケットに関して気付いたことは、みんな本当の音楽を愛しているということ。才能あるミュージシャンや素晴らしい曲を聴きたいという欲求が強いように思えるし、同時にソウル、R&B、ファンク、ディスコの大きなマーケットがあるように思えるわ。私たちもそういったスタイルの音楽を演奏するのでハマったんじゃないかと考えてる。レア・グルーヴを聴く〈Free Soul〉のようなすごくクールなシーンもあるわよね。そういうシーンがあるから、自分たち流にカヴァーしたレムリアのようなハワイの音楽も日本で受け入れられたんだと思う」。
スパンデッツが擁するフロント3人娘の一角にして、バンドの方向性を舵取りする才媛アレックス・テイトは、自分たちの支持が厚い日本のリスナーたちについてこのように分析する。実際、このソウル・バンドのファースト・アルバム『Spandex Effect』が日本上陸からすぐさま受容された要因は、ダフト・パンク効果でマスにも広まったディスコ/ブギー・リヴァイヴァルの流れや、それに伴うブルーアイド・ソウル~AORオマージュのマイルドな氾濫、あるいはアシッド・ジャズ再評価やレトロ・ポップの定着といった諸々の動きにジャストな様式で登場してきた、音楽性そのものにあるだろう(ある種のリスナーが抗えない白人女性ロマンをそそるジャケも作用したに相違ないが)。もちろん、そうした嗜好をコンセプトでガチガチになることなく表現している点に、スパンデッツ独自のブライトな美意識があるのは言うまでもない。果たして待望のニュー・アルバム『Sequin Sunrise』では、彼女らの個性がさらなる洗練を帯びて眩しく輝いている。アレックスは昨年末にソロ・アルバム『Thirty』も発表したばかりだが、このテンポの良さも活動の充実ぶりを示すかのようだ。
「すべてがとても早く進んだ感じ。あなたの言う通り、新作の制作を始める数か月前に『Thirty』を出していてスケジュールはとてもタイトだったけど、夏にはリリースしたいと思ってた。クォリティーを落としたり、何か犠牲を払ったりすることなくスムースに完成できたから、みんなでとても喜んでるの。新作では私たちの音楽的な成長を表現したかった。もっとラジオなどでプレイされるようにプロダクションをしっかりと練って作ったし、バンドにとっては非常にエキサイティングなステップだと思うわ。ただ楽しいものを作るだけじゃなく、構成にももっと意味を持たせたりして、曲作りのプロセスにおいてはもっと深いところまで行けるように考えてた。失恋や真実の愛とか、バンドとしても個人としても何かを求めて探求するような旅のような曲が含まれていて、リスナーの反応がどうなるか少しドキドキしているところもあるけど、アルバムを聴いてくれたらどの曲もきっと気に入ってくれると思う」。
今回プロデューサーに迎えられたのは、アレックスも「ハートで音楽を作るミュージシャン」と評するジャスティン・アベディン(元ジャックソウル)。カヴァー以外の全曲を共作もした彼の助力によって、同時にバンドの演奏が一体感を増したことによって、都会的なディスコ/ファンクやガールズ・ポップというフォルムはそのままに、全体のクォリティーは緻密にグレードアップされている。にもかかわらず肩肘張ったところがまるでないのは、アルバム全体に漂うフランクな開放感のおかげだ。〈スパンコール・サンライズ〉というアルバム・タイトルの由来にもそれは現れている。
「私たちのライヴって、夜中まで続くようなダンス・パーティーになっちゃうことが多いのね。それで夜が明けると、朝日が地平線を照らして、そのまま海や湖を照らしたらスパンコールがキラキラ輝いてるみたいな景色になって……そんなイメージをアルバムに込めたくて、このタイトルに決めたのよ」。
スパンデッツ
アレックス・テイト(ヴォーカル)、マギー・ホプキンス(ヴォーカル)、リジー・クラーク(ヴォーカル)、ケヴィン・ニール(ギター)、トーマス・フランシス(キーボード)、マイク・ミューゼル(ベース)、マッケンジー・ロンプレ(ドラムス/パーカッション)、パトリス・バーバンチョン(トランペット)、クリス・ブロフィ(サックス/フルート)から成る、カナダはトロント拠点のソウル・バンド。2013年に7インチ“Sweet & Saccharine”でデビューし、同年のファースト・アルバム『Spandex Effect』が日本で大きな話題を呼ぶ。今年に入って9月に来日公演も決定するなか、セカンド・アルバム『Sequin Sunrise』(The Spandettes/Pヴァイン)をリリースしたばかり。"