今回の課題盤(1)
「そういえば、この間イヤフォン失くしたんですよ。これまで買ったなかでいちばん高かったのに……」
――えー! 買ったばっかり?
「そう、買ったばっかり」
――あれまー……気の毒に……。
「その日レコーディングで、スタジオに自分の車で運転して行ったんですよ」
――お免許取ったばっかりのアレだ。
「そうそうそう。その日の行動パターンはすごく限られてて、自分の車かスタジオかタクシーか寄った店か、しかないんですよ。しかも結構深いトートバッグに入れてて、泥酔してたわけでもないのに……まったく謎で」
――車のシートの間とか? ちょっとでも歩いた道路とか?
「ないと思うんですよ……ちなみに、4万円」
――ぐぁっ!
「すごく気に入ってて。一生使えるようなものだったのにこんなに早く失くした。すごいショック。もう、〈死〉って感じです」
――……死。かわいそうに……この記事が公開される頃には見つかってますように(祈)。
「それで、前回の第1回は……」
――大変好評をいただきまして、とてもありがたい!
「すごいなー。今回は候補が2枚あって、どうしようかなと。カーティス・ハーディングの『Soul Power』と、ホセ・ジェイムズの『While You Were Sleeping』」
――いいじゃない、両方紹介しましょう。
「カーティス・ハーディングは広島の知り合いの洋服屋さんで、DJもやる人がInstagramに上げていて、〈推し曲だけじゃなかった!〉みたいに書いてたんですよ。そもそも僕、推し曲も知らなかったから〈いいんですか?〉って訊いたら、推し曲の“Keep On Shining”っていうのがいわゆる……なんて言うんでしたっけ?」
――ん?
「懐古的な……」
――ヴィンテージ・ソウル?
「あー、ヴィンテージ・ソウルだ。なんだよヴィンテージ・ソウルって(笑)!」
――便利な言葉ですよ(笑)。
「そのヴィンテージ・ソウル感のあるダンサブルな感じの曲なんですけど……観てみましょう」
「リトル・スティーヴィーに似てますね、顔(笑)。若い頃のスティーヴィー。このアルバムにはブラック・リップスのメンバーが参加してるんですよね。だからかアルバム自体はそんなにソウルに特化してないんですよ。ロック寄りというか」
――うんうん。
「そういう60~70年代の、ヴィンテージなもののリヴァイヴァルが少し前からあるじゃないですか。シュープリームスと同じことしようとしているグループとかが苦手で」
――前からよく言っていますよね。かつての音楽を焼き増したものは好きじゃない的な。
「〈だったら本家聴きますよ〉って言われてしまう系。でも、そういうのがワーッてたくさん出ていたなか、ここ1年半から2年ぐらいでかなり質の良い、ただの焼き直しじゃないものが出はじめたなって思うんですよ。bounceの連載で紹介したビン・ジ・リンみたいな」
――はいはい。他にもイイって言ってるのありましたよね、なんだっけ? 次紹介しようと言いつつ流れてしまった……。
「スパンデッツ! あれは本当によく聴いてますよ。スパンデッツのPVが全然見つからなくて、つい最近上がったんですけど、〈ママ友かよ!〉みたいな風貌の3人で……(笑)」
「いいですよね。スパンデッツのアルバムって、ある種コンピ感があるんですよ」
――音楽性の幅が広いと。
「すごく可能性を感じる」
――ヴィンテージっていう枠に収まってると、その先どうなるのだろうか……って思ってしまうこともあったりなかったり。
「カーティス・ハーディングみたいな人がこの後どうなっていくかで今後のソウル再評価が見えるんじゃないかなと」
――カーティスさんのアルバムはどこらへんの曲が良かったですか?
「推し曲の“Keep On Shining”とは違う、ホセ・ジェイムズみたいな変わったビートの、ダウナーな音色の曲もあって、さっきも言ったブラック・リップスのメンバーが参加しているちょっとロックっぽいもの、結構バンド感のあるものがいいな。音は決してお洒落ではないんですよ。雑味のある感じが良かった。飽きない」
――エディ・スリマンによるジャケット写真からイメージすると、スタイリッシュにまとまってそうなんですけどね。
「ブラック・リップスなんてヤンチャにも程がある!って感じのバンドですよ。僕ら生で観たことがあって。PVこんなですもん」
――荒れてるな~(笑)。
「なんでこのバンドと組んでるんだろう」
――“I Don’t Wanna Go Home”っていうブラック・リップスの人が参加してる曲は、ブラック・リップスの最新作(『Underneath The Rainbow』)にカーティスさんが提供した曲のセルフ・リメイクらしい。
「へー。身の回りにいる歳が近い人同士が〈いいじゃんこの感じ、やろうよ〉みたいな流れだったらすごい素敵なことですね。あと、2曲目の“Castaway”もいい曲なんですけど、これがつボイノリオの“断絶の壁”って曲とめっちゃ似てる」
――なにそれ! 誰(笑)?
「この感じ覚えててください」
「ほら(笑)」
――ハハハハハハハハ……(爆笑)。
「すぐにこれを思い出して。この“断絶の壁”はすごく良くて、〈プロテスト・ソング〉って言って始まる、人種を分けてしまう壁の話なんです。すごくいい歌詞なんですけど、最後に結局銭湯の壁の話だったっていうオチが……素晴らしいですよね」
――(笑)。全然知らなかった、この方。
「“金太の大冒険”の人ですよ、名古屋の大スター。小さい頃からすごい好きで、3年くらい前に名古屋へプロモーションで行った時、つボイノリオさんが出演している夕方の情報番組のスタジオ見学をさせてもらって(笑)。本当に緊張しました」
――へー、イイ話だ(笑)。かなりヴェテランの方なんですね。
「いま65歳だそうです。曲が全部いいんですよ、くだらなくて(笑)。“怪傑黒頭巾”っていう架空のヒーローのテーマソングがあるんですけど、それなんかもう天才。作曲能力がすごい。あとヴォーカルがすごくイイ」
――PVが全部アニメーションなんですね(笑)。
「つボイノリオの『あっ超ー』ってタワレコで買えるのかな? このアルバムもかなりイイですから、マジで。で、#$%&▲◎#$%&……」
※編集部注:しばらくつボイノリオについて熱く語ってくれましたが……ごめんなさい、割愛します!
「カーティス・ハーディングとつボイノリオを繋げたのは僕だけだと思います、たぶん」
――そうでしょう(笑)。
「『ゴールデン☆ベスト つボイノリオ』というベスト盤も出ているので、皆さん聴いてくださいね。いかに音楽的におもしろいかっていうのを知ってほしい。“オー・ジョーズ (つボイノリオのテーマ)” っていう和モノで優秀な曲もあります」
――普通にカッコイイ(笑)。
「インストなんですよ。このように、かなりつボイノリオっぽい“Castaway”ですが、なかなかこの手のソウル・シンガーにはない感じの曲でいいですよね。ホセ・ジェイムズの新作もそういう感覚に近いものを感じました」