ある種のリスナーにとってはあまりにも定番すぎたザップが来日も踏まえた過去の名盤リイシューや新作リリースを契機に改めて脚光を浴びるなど、新規リスナーによるファンクへの評価も相まってトークボクサーにも改めて熱視線が注がれている昨今。日本における先駆者ともいえるBTBやLUVRAW、あるいはORLANDのようにアーバン感を表出する舞台装置としても定着している魔法のエフェクター=トークボックスですが、2000年代にその効能を改めて世に提示した功労者となるのが、ここで紹介するフィンガズであります。もともとLAにてバンドで演奏活動していた彼は、ロスコーのクラシック“I Love Cali”(2000年)で強烈にザッピーなプレイを聴かせ、ウェッサイ系ヒップホップの中にファンクを永続させる触媒となって、ロジャー亡き後に世界中で増殖していったトークボクサーたちの勢いを10年以上も牽引してきました。
近年は配信のみの作品も多いものの膨大なソロ作をリリースする一方、ウェッサイ~チカーノ~ユーロGのシーンに止まらず、欧米のメインストリーム・ポップやK-Pop、そしてもちろん日本のアーティストとの絡みも多いフィンガズ。そんな彼の人気を不動のものにしたのは、チカーノ/ローライダー・コミュニティで愛されているクラシックなソウル/ファンク・ナンバーをあの音色(声色)でメロウに取り上げた全編トークボックスのカヴァー集『Classics For The O.G.'s Vol. 1』(2004年)でした。今回リリースされた『Classics 3』は、およそ6年ぶりに作られたそのシリーズ第3弾ということになります。
今作が第1~2弾と異なるのは、チカーノ/ローライダー・コミュニティで〈オールディーズ〉と呼ばれるファンクやスウィート・ソウルの古典から、選曲のテーマが大きく広がっていることでしょう。オープニングを飾るルーファス&チャカ・カーン“Tell Me Something Good”(74年)やマイケル・ジャクソン“I Can't Help It”(79年)、ヒートウェイヴ“Always And Forever”(77年)といったあたりは過去に取り上げてきたナンバーとも繋がるあたりながら、昨今のトレンドにも通じるタイムの“Get It Up”(81年)やキャミオの“Flirt”(82年)があり、あるいはルーサー・ヴァンドロスの“Never Too Much”(81年)やイヴリン“シャンペン”キング“Love Come Down”(82年)、シェレール&アレクサンダー・オニールの“Saturday Love”(85年)といった80年代ブラコン・クラシックも比較的ストレートに歌いまくった様子は明らかに過去作からの印象を新たにするもの。それと同時に、復活も記憶に新しいジョデシィの“Freek'n You”(95年)やシャイの“If I Ever Fall In Love”(92年)、アッシャーの“Nice And Slow”(97年)、さらにガイの“Groove Me”(88年)あたりも含めて、あまりトークボックスでカヴァーされてこなかったタイプの王道な90年代R&Bナンバーが俎上に乗せられているのも興味深いところであります。
純粋に良い曲をメロウ・ヴォイスでマイルドに翻訳したような『Classics 3』の仕上がりからは、単純にフィンガズ個人が親しんできた楽曲を歌いまくったかのような気安さがあり、それゆえか聴後感も絶妙に爽やか。オリジナル曲ではダブステップなどエレクトロニックなダンス・マナーも自由に披露し、プロデュース曲でも必ずしもファンク・トラックにこだわらない振り幅の広さを見せている彼だけに、今回の試みは改めて自身のルーツを身定めることになったのかもしれません。ソウル/ファンク好きならずとも一聴をオススメしたい作品です!