『Food』の副菜となる作品たち

 「作業してたらそういう感じになっただけで、意図してそういうふうにしたわけじゃない」という『Food』は、これまでのケリス作品と雰囲気の異なるものだが、かといってプロデュースを担ったデイヴ・シーテックのトーン&マナーがアレンジにハッキリ出ているということでもないだろう。ホームであるTV・オン・ザ・レディオはもちろん、ヤー・ヤー・ヤーズやフォールズを手掛けてきたデイヴは、フェデラル・プリズムの運営も相まって近年さらに飛躍している。特に昨年はCSSやビーディ・アイら下地にあるカラーが明確なバンドの新展開を委ねられ、ラン・ザ・ジュエルズのリミックスも送り出すなど仕事の幅を広げつつ、当然アウトプットは各々まったく異なるものだった。もしデイヴがアーティスト個々の美点と力量を引き出すプロデューシングを旨としているのだとしたら、この先はリック・ルービンのような役割になっていくに違いない。

デイヴ・シーテックがプロデュースしたCSSの2013年作『Planta』収録曲“Hangover”

 

▼関連作品

左から、CSSの2013年作『Planta』(Sub Pop)、ビーディ・アイの2013年作『Be』(Columbia)、ラン・ザ・ジュエルズの2013年作『Run The Jewels Deluxe Edition』(Big Dada/BEAT)
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KELIS 『Flesh Tone』 Will.I.Am/Interscope(2010)

『Food』の前作にあたる通算5作目は、ウィル・アイ・アムが後見したダンス・アルバム。EDMが北米のマスを沸かせるより前に、ボーイズ・ノイズやベナッシ兄弟、ゲッタらが当時のBEPを連想させる音を供与。ただ、改めて聴くとかなり歌の主張が強い作品ではあります。

 

SANTIGOLD 『Master Of My Make-Believe』 Atlantic(2012)

 グレッグ・カースティンやスウィッチ、ディプロらに混じって、デイヴ・シーテックは“Fame”の制作に参加。サンティゴールドら近年のアーティーな女性アクトがこぞって志向するオルタナな行き方はケリスがやってきたことに通じるものかもしれません。

 

OH LAND 『Wish Bone』 Federal Prism(2013)

ケリスを獲得したという噂もあったフェデラル・プリズムと契約し、USに拠点を移したデンマークの女性シンガー。センスの良さと適度なベタさを配合する最近のインディー・ポップらしいライトな出来映えで、昨年のデイヴ・シーテックを代表する仕事の一つと言えましょう。

 

MACY GRAY 『Talking Book』 Concord(2012)

いままで以上にオーガニックなバッキングを得た『Food』でのケリスから連想されるのは、スケールの大きい歌いっぷりで豪放に迫るメイシーの姿。音を選ばずに我流のソウル・パワーを発揮できるのはホンモノの証。ウィル・アイ・アムではレーベルメイトでもありました。

 

VARIOUS ARTISTS 『IOTDXI』 R&S(2011)

 ケリスの“Caught Out There”をサンプリングして作り出されたのが、ジェイムズ・ブレイクのエポックメイキングな“CMYK”(2010年)。現在のJBにこの頃のテイストは希薄ながら、編集加工カルチャーの素材としてメジャーなR&Bが広く使われる契機になったのは確かでしょう。

 

CHUCK INGLISH 『Convertibles』 Sounds Like Fun/Federal Prism(2014)

デイヴ・シーテックの直接的な絡みはないけど、フェデラル・プリズムの最新リリースがこちら。マイク・アイジンガー(インキュバス)やクローメオを交えた境界線上の作風はケリスにも期待したいもの。彼女とスター・トラック仲間だったアブ・リヴァも参加。