シーンはこんなソウルフードを必要としている。オーガニックなライヴ・サウンドのフルコース、ロウで美味なる舌触り……彼女はいまも最高にテイスティーだ!!

単に生音になっただけ

 抜け殻になった緑のウェディングドレスをぼんやりと眺める男に対し、女はもうそれについて語ることもない。ちょうど離婚が成立した年に前のアルバムをリリースしているから、実に4年ぶり。ケリスが待望の新作『Food』を携えて帰ってきた。しかも新たな根城はUKのニンジャ・チューンだ。ニンジャのフードといえばDJフードだが……なんて冗漫はともかく、プロデューサーにデイヴ・シーテック(TV・オン・ザ・レディオ)を迎えているあたりからも心機一転を感じさせる。

 「だいぶ前からデイヴとは知り合いなの。ずっといい関係だし、だからとてもナチュラルな感じで始めたのよ。あんまりはっきり覚えてないけど……たぶん去年の頭くらいから作業しはじめたのかな……期間は3、4か月くらいだと思う」。

KELIS 『Food』 Ninja Tune/BEAT(2014)

 新進気鋭だった頃のネプチューンズと意気投合し、七色に染めたカーリーヘアを振り乱して歌う“Caught Out There”で鮮烈なデビューを果たしたのが99年。ネプチューンズとの関係は“Milkshake”の大ヒットを生んだサード・アルバム『Tasty』(2003年)まで続くも、結婚を挿んでの次作『Kelis Was Here』(2006年)では多様なクリエイターと手を組み、新たな代表曲としてバングラディッシュによる“Bossy”をヒットさせた。その後は同作にも参加していたウィル・アイ・アムのレーベルと契約し、2010年にはベナッシ兄弟やデヴィッド・ゲッタらと組んだ5作目『Flesh Tone』を発表している。

 とはいえそうした変遷が驚きでないのは、もともと彼女が欧州で人気を博し、ディディの〈イビザ・アルバム〉用に作られた“Let's Get Ill”(2003年)やティモ・マース“Help Me”(2002年)、リチャードX“Finest Dreams”(2003年)といったダンス・トラックに早くからその歌を乞われてきたから。もちろん『Flesh Tone』の前後に残したベニー・ベナッシ“Spaceship”(2011年)やクルッカーズの“No Security”(2009年)、そしてカルヴィン・ハリスの全英ヒット“Bounce”(2011年)という成果もよく知られるところだ。

カルヴィン・ハリスの2012年作『18 Months』収録曲“Bounce”

 今回の新作『Food』はサウンドの様相もオーガニックなバンド・アレンジのオーセンティックなものに一変、前作からの反動という印象を煽りたいのか、資料には〈これこそ本物の音楽よ!〉などともっともらしい言葉が並ぶものの、当のケリスは「単に生のアルバムだから前と違うってだけだと思う。どちらもその時々にやろうとしたことを反映したアルバムであることは同じだし」と語る。