インタビュー

七尾旅人とスウィートなプロデューサー・Boogie Mann、2人のタッグで完成したジュークの新たな扉“Future Running”を語る

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あくまでも入口のひとつとして受け止めてほしい

――それで実際に“Future Running”をリリースするという話はいつ頃から具体的になったんですか?

旅人「いま話した2曲については、ちゃんと形にしてリリースしたいよねという話になったんですけど、そこから僕が先ほどお話した震災後の流れ……時折どん底で停滞してしまう時期があったのですが、また厳しいモードに入ってしまい、いろいろなプロジェクトにはまり込んでしまったんです。そっちに夢中になっていたから、こういう風通しのいい楽しいコラボには進めなかった。そんなもがいている時期がちょっと落ち着いてきて、〈2年も寝かせてごめんね、ブギ〉と、今年(2015年)のあったかい頃には絶対出そうねって、急ピッチで作業をしました。ずっとライヴでは演ってたんですけど」

Boogie Mann「僕が最初に送ったトラックは全然完成形じゃなくて、ループがあってそこに2パターンぐらいのビートがあるだけだったんですよね。直後に旅人さんが送ってくださったのは主要となるAメロ、Bメロが乗っかったものでした。それで2013年は終わって、今年に入って曲を完成させるにあたっては、まず旅人さんがメロディーを足したりハーモニーを足したりしたものを送ってきてくれたんですね。もともとの僕のシンプルなトラックにメロディーをいろいろ増やしてくれて。それにもめちゃくちゃ感動して、僕も感化されてビートを変えて投げたりしました」

――そういうやり取りが何回かあって、完成に至ったと。サンプリングのネタのチョイスも個人的にすごく好きなんですけど、ビートはかなりガチなジュークなので、そこにメロディーを乗せるというのは難しくはなかったんですか?

旅人「ブギのトラックはなんかやりやすいみたいです。相性がいいんだと思う。あと僕、即興演奏の時にエフェクターでヴォーカルを刻んだりするんですけど、それが昔からジュークみたいなんですよ。それもあってジュークに親近感を感じたんだと思うし。そういう意味では入りやすかったですね」

――そもそも変則的なものに対する免疫はあったと。

旅人「そうですね。自分は毎日毎日、極めつけの変態とセッションしてるんですよね、よく考えてみたら(笑)。60年代フリージャズや、80年代ノイズ/アヴァンギャルド世代の先輩の変拍子や音像解体なんてすごく強烈だから。それと比べるとこのビートは乗りやすい。正直シンプルな4つ打ちより楽しい。テクノも好きだけど、ちょっと黒っぽい音楽が昔から好きだったので、4つ打ちだったらハウス系が好きだったし、ジュークはシカゴ・ハウスの直系子孫でありながら、どこかジャズに通ずる感覚もあると思う。僕の好きなビートですね。その上でブギは誰もが親しみやすいソウル・フィーリングを持っているので、歌うのに苦労はしませんでした」

――私もとても好きです。

旅人「いちばんメロウな……だっけ? あ、スウィートか。スタッフが作ってくれた“Future Running”の資料にブギが〈誰よりもスウィートなジューク・プロデューサー〉って紹介されていたんだけど、ここまでシンプルに言っちゃうのはどうなんだろう?と思って、CCメールで〈ブギ、これで大丈夫?〉って訊いたら、〈本人的には誰よりもスウィートでまったく違和感ないです!〉って力強い返事が来て(笑) 。安心したので返信はせずに、さりげなくスルーしました」

――ハハハ(笑)、それ最高ですね!

Boogie Mann「スウィートって最近あんまり使わないなと思ったんですよ。メロウとかはみんな使うし、スムースっていうのもおもしろくないし、だからスウィートだといいかなと」

――今回の“Future Running”で、またさらにジュークの可能性が広がったんじゃないかと思っていて。音楽が好きな人にとってはジューク/フットワークというのはもうあたりまえにあるものですけど、これを機に知る人も多いと思うんですよ。そういう人たちに向けての第一歩としてはとても優れた楽曲だなと。

旅人「(ジュークへの)入口になってもらえたらって、個人的には思ってます。いろんなクリエイターがいるなかで、ブギはすごくストリート感のあるクリエイターなんですよ。スウィートとは言うけども、やっぱり彼が本領を発揮するのはフロアで。ブギの曲がかかると黒人の海兵隊員みたいないかつい男たちがガンガン踊ってるし。そういう意味じゃ僕は外様で――僕は日々いろんな領域の表現者とやってるから、いつでも自分はどこか外から来てるんだという意識は忘れないようにしてるんです。特にジュークはいま大事に大事にみんなで温めて育てているシーンだから、僕みたいな人間がいきなり入ってコラボった結果、その良い雰囲気を荒らしたくなかったから慎重にやってる部分もあった」

――なるほど。

旅人「あとブギには僕だけじゃなく、どんどんいろんなヴォーカリストとやったほうがいいよって話はいつもしてて。例えば“Rollin' Rollin'”を一緒に作ったやけのはらくんと僕はちょうど同い歳で、同じジェネレーションの感覚を背負いながらあれをリリースした部分があったけど、ブギは僕より10歳ぐらい下でこれからを切り拓いていくというのもあるし、同世代のヴォーカリストともどんどんやったりしてほしい。僕は単純にいちファンとして入らせてもらって、ブギのような素晴らしいトラックメイカーを紹介してもらって、いい曲を作らせてもらったけど、リスナーの皆さんにはあくまでも入口のひとつとして受け止めてほしいですね。これを機にジュークのパーティーへ行って、そこでやってる人たちをいっぱい見てほしいです」

【参考動画】七尾旅人×やけのはらの2009年のシングル“Rollin' Rollin'”

 

Boogie Mann「いま“Future Running”が大事な一歩だっておっしゃってましたけど、それは僕も感じていて、Twitterとかで“Future Running”の反応を見てると、たぶんジュークのことを知らないんだろうなっていう人もカッコイイって言ってくれてるんですよ。すごく嬉しい一方で、どういう感じで聴いてくれているのかなとか、そういうことを考えるのがおもしろくて。普通にポップスとして成り立ってるんだと思いますが、ヘンなビートだってところは感じ取ってもらえるといいなと。これをきっかけに深みにハマっていってもらえるといいですね。〈(MVでの)後半のダンスと声の刻みはなんなんだ?〉みたいに思ってもらえれば嬉しいです」

――終盤の〈キタ!〉感がイイですよね。

Boogie Mann「でも終盤だけじゃなく、前半も3連をたっぷり入れたりとか、エグいベースを入れてるんですけど、それがポップスとして機能してるのがおもしろいかなと。たぶんフロアで聴いたらすごい(ベースが)ボンボン鳴ってるなかで歌が響いてて、逆に最後よりそっちのほうが強烈な気がします」

――この間のSHINKARONのコンピ(『SHINKARON COMPILATION Vol.2』)でBoogie MannさんがプロデュースされていたChiara Norikoさんのナンバー(“Never Seen”)はメロディーとビートがスムースに混ざったアトモスフェリックなR&Bだったこともあって、それとは打って変わった容赦ないジュークっぷりにアガりました。

【参考音源】SHINKARONの2015年のコンピ『SHINKARON COMPILATION Vol.2』収録曲
BOOGIE MANNがプロデュースしたChiara Noriko“Never Seen”

 

Boogie Mann「聴きやすい部分もあるんですけど、実は前半から完全にジュークなんです。僕が作った歌モノのなかではいちばんジュークっぽいかも」

――Boogie Mannさんとしては、今後も歌モノを作っていきたいという意欲はまだまだあるんですか?

Boogie Mann「そうですね。シンガーとはやってみたいんですけど、いろんな人とやるというよりは、旅人さんのように自分と気の合う人とやっていきたいですね。でも一方でサンプリングじゃなきゃできないおもしろさというのもあるので、そっちも同時に追求していきたいです」

――なるほど、楽しみです。また“Future Running”というタイトルからして、すごく前向きなヴァイブを感じますが、今回の歌詞はどういう思いで書かれたのでしょうか?

旅人「これはトラックを受け取った瞬間から無意識にそう歌っていたので、ブギの楽曲が持つフィーリングに感化されてのことかもしれませんね。個人的な願いとしては、いま先行きがさらに見えづらい時代に入って、みんなけして楽ではない日々のなかにいると思いますが、それぞれの生活のなかで前向きに走っていくために、この歌が少しでも足しになってくれたらなあと思っています」

――またMVも非常におもしろくて、旅人さんがフットワークしてる(風)のアイデアは……。

旅人「曲タイトルのフィーリングからしてチビッコが出演してくれたら嬉しいっていうのと、それからアウトロの、いかにもジュークっていう刻みが入るところで僕が顔合成でフットワークしたら笑えるなっていうのを打ち合わせで言って、あとは何も発言せず、静かに床を見てたんです。そうしたらそれが採用されちゃって、〈えっ! 本気にしたの?〉って(笑)。こんなふざけたことやったらジューク界隈から村八分になるかと思ったんだけど、意外と大丈夫でした」

――非常に懐が深い方々で(笑)。

旅人「そこが好き。ちなみに出演してくれたチビッコはノイくんといって、まだ8歳のフットワーク好きの男の子です。SHINKARONのFRUITYくんが紹介してくれました。モータウン・ソウルみたいなタフなキュートさがある歌詞にしたかったので、彼が出てくれたことで思いが伝わりやすくなりました」

――一生懸命踊ってるのが本当に可愛いですよね。それで、今回は7インチのみでのリリースになりましたが、そこには何か意味があったんですか?

旅人「夏の気配が残ってるうちに、急いでリリースしたいね!となった時に、7インチなら間に合うかなとか、見た目が可愛いなとか思って。CDや配信だけ、というイメージがなかったんですよね。あとジュークって、配信リリースかオンライン上での共有がメインじゃないですか、いまのところ。でも僕はマテリアルとして残るものをブギと一緒に作ってみたかった。この機会だからこそできることを彼とやってみたかったんです。彼はふだん社会人としてがんばりながら、BandcampやSoundCloudを通して素晴らしいトラックを発表しているけど、これだけいい音楽を作ってるんだから、もっと自分の好き放題していいんじゃないかと。なんでも好き放題やりなよっていうメッセージ。それでジューク・マナーから多少外れちゃってもいいから、ちょっかい出してみるというか、まあ単純に、僕がブギにかまってほしかったんでしょうね、要約すると(笑)」

――かまってほしかったんですか(笑)。最近は7インチをリリースするアーティストが多いですしね。

旅人「でも単純に7インチって可愛いですよね。音質はそこまで良くないのかもしれないけど、ジュークは音質だけでどうこうとか言う音楽でもないし、7インチとの親和性は意外と高いんじゃないかなと思って」

Boogie Mann「Paisley ParksのKent Alexanderって奴がいるんですけど、前に横浜に住んでた時は家が近くて、よくKentの家で遊んでたんです。ジュークは配信がほとんどで、mp3で聴くのが普通なんですけど、Kentはレコード・マニアだから数少ないジュークのレコードを持ってるんですよ。それを聴くのが新鮮で。そういうものにこれ(“Future Running”)がなったというのはすごく嬉しいです。また7インチというと往年のブラック・ミュージックのイメージがあったのですが、そういうものと同列にこのジュークのポップソングも並べられるっていうのも嬉しいですね」

――デザインもとても凝っていて可愛らしいですよね。

旅人「こんな音楽ソフトが苦戦しまくってる時代にこういう特殊パッケージにしちゃうのもありかなと(笑)。felicityの平川さんががんばってくれたおかげですね」

――パッケージとして見た時に持っておきたいものかどうかも重要だったりすると思います。ちなみに、さっきおっしゃっていましたが、2人で作ったトラックがもう1曲あるんですよね?

旅人「トラックが好みの感じだから、歌メロはいくらでも思いつくな」

――おぉ。私としては、今回に限らずまたぜひ一緒にやっていただきたいです。

旅人「2年後あたりにまたポッと出すかもしれませんね」

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