(左から)食品まつり a.k.a foodman、やけのはら
 

名古屋在住のエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー、食品まつり a.k.a foodmanが新作『やすらぎランド(Yasuragi Land)』をリリースした。独特ながらも人懐っこいサウンドで、以前から世界的に評価されてきた彼だが、本作はUKの名門〈ハイパーダブ(Hyperdub)〉からのリリース。彼がこよなく愛するサウナや道の駅、アジフライなどをモティーフに、なんともユーモラスでファニーな15のビート・ミュージックを収録している。

その不思議なサウンドの正体に迫るべく、今回は旧知の仲であるラッパー/DJ/トラックメイカーのやけのはらにインタビュアーを務めてもらった。取材は2021年6月の終わりごろに実施。やけのはらが参加するアンビエント・ユニット、UNKNOWN MEの新作『BISHINTAI』(2021年)のリリース・パーティーで共演したばかりの2人が、平日の昼下がり、中目黒の閑静な住宅地にて再会した。 *Mikiki編集部

 


ジューク/フットワークをさらにひねったポリリズム、可愛い音色をトレードマークに、遊び心とチャレンジ精神を感じさせる楽曲で現代のレフトフィールド・ポップの最前線を切り開く食品まつり。今回は、飄々と大らかでチャーミングな人柄も魅力的な食品まつりさんの創作の秘密、また、本人があまり言語化しないであろう〈創作に対する考え方〉を訊き出そうというテーマを持って取材させていただきました。

食品まつりさんとは10年近く前から面識があるということで、砕けた感じの対話になっており、また呼称も〈くん〉となっておりますが、親しみを込めてのことですので、ご理解ください。

食品まつり a.k.a foodman 『やすらぎランド』 Hyperdub/BEAT(2021)

駅前の弾き語りで感じた妙な高揚感をマシーンで表現したら……

――今日はもう食品くんを丸裸に……もう食材まで戻そうと思っています。

「(笑)」

――まず新作『やすらぎランド』、素晴らしいアルバムでした。食品くんは一枚ごとにテーマを持って作るタイプなんですかね。今回のアルバムは事前にどんなヴィジョンを描いていたんですか?

「昔話になっちゃいますけど、路上で弾き語りをやっていたことがあるんです。友達がギターをジャカジャカ鳴らして、僕がパーカッションをパカパカ叩く、みたいな。もう19年くらい前なんですけど」

――だいぶ前ですね(笑)。まだ20歳くらい?

「そうです。オリジナルをやりつつ、ゆずとかをカヴァーしたり。本気で何かをめざすというより、遊びの延長だったんですけど、路上でジャカジャカやっていると、別に上手くないなりにも、やっているうちにトランス感があったんですよね。たまに酔っ払いとかが演奏に入ってきて、ラップしだしたりとか。そういう状態がおもしろいなと当時から思ってたんです。

その経験がずっと記憶に残っていて、以前から〈あの状態をマシーンで表現したらおもしろいんじゃないかな〉というアイデアがあった。去年アルバムを作り出す段階で、〈あのアイデアをやってみよう〉と思い、そこからスタートしたんです」

――なるほど。

「あと、きっかけにコロナ禍もあります。その前は、名古屋でもライブをやっていたし、ほかの地方に行くことも多かったんですけど、それができなくなり、オフの日は家の周りで暇をつぶすという感じになって。いま僕が住んでいるのは、スーパー銭湯とかイオンみたいなところしかない典型的な地方都市なんです。そこらへんで遊ぶことが多くなってきて、こういう日常の感じをアルバムのテーマにしたらおもしろいんじゃないかなと思ったんですよね」

――郊外の日常感と、20年前の路上ライブのあの独特の雰囲気と、二軸あったということですかね。ふたつの距離は結構離れている気もするんですけど(笑)、食品くんのなかではどう繋がってるんですか?

「それが結構……道の駅とかでもちょっとした催事場みたいなところで、音楽好きな地元の人がゆるく演奏していたりするじゃないですか。そういう状況もあるので、離れているようでわりと繋がる部分もあるのかなと思ったんです」

『やすらぎランド』収録曲“Michi No Eki ft Taigen Kawabe”
 

――なるほど、ちょっとわかった気がします。イオンや道の駅のステージは、ライブハウスとかクラブとは違うじゃないですか。そういう意味で、路上とかと同じ〈鳴るべき場所じゃない場所で音楽が鳴っている〉みたいな感覚ですかね。

「そうです。そこに愛おしさを感じるんですよね」

――それは食品くんの美意識だしツボですよね。日常の異物感に惹かれている、というか。見方を変えるとスーパーのチラシとかもすごいサイケデリックに見えるよね、といった感覚は一貫してありますよね。

「ありますね。ぜんぜん日常からかけ離れたものというよりは、日常のなかにあるものが良くて。名古屋に戻ってきて、そういうものにより意識的になったかも。その前、横浜に住んでいたときは、周りでイベントも多くて、刺激も多かったですからね。名古屋に戻り、しかも辺鄙なところに住んでいるので、そんなに頻繁に人に会うこともない。そういう感じがいまの自分のモードになっているんでしょうね」